第11話
遡ること数刻。
ヴィクトールとシャルロットが昼食を取っている部屋の前では、落ち着かない様子のレオンハルトと、彼の部下が護衛として立っていた。
「隊長。あんまりあからさまに見るのもどうかと思いますが?」
レオンハルトは、ヴィクトールとシャルロットの様子がどうにも気になり、ついつい護衛の範囲を超えて、室内に視線を向けがちだった。
その様子に、共に護衛任務についていた部下から呆れた声で窘められるという、普段ではありえない失態だが、レオンハルトはそれすら気にならない様子である。
「しかし、防音結界を張られてしまったし。妹が心配だ」
堂々と妹への想いを零している。そんな隊長の様子に、部下もつい軽口をたたいてしまった。緊張感の欠片も無い。
「あ〜。昨日のことは聞いていますが、殿下はいつになく楽しそうなご様子ですよね?」
「しかし、妹は未だ16のデビュー仕立ての学生だ。殿下は素晴らしいお方だが、シャロンには荷が重すぎる」
「確かにすっごい綺麗なお嬢さんですよね。しかも優秀だって噂だし、語学も堪能だし、立ち居振る舞いも上品だし、あのキラキラした殿下の隣に立っても、全く引けを取らない令嬢って、なかなかお似合いなんじゃありません?」
「まだまだ子供なんだよ。まだ婚約なんて早すぎる。それに魔力だって」
「過保護ですねえ、隊長」
そんなふうな二人のやり取りに、突然第三者の声が割り込んだ。
「そうですね。そんなに令嬢ばかり見て、殿下の護衛は大丈夫ですか?」
慌てて振り返ると、ヴィクトールの側近で魔法師団副団長のニールセンと、二人の上司である近衛騎士団の団長であるランドルフが並んでいた。
二人は慌てて姿勢を正す。
「副師団長殿、団長も。失礼しました!」
些かディアモンド家に同情的なランドルフは、手を降って二人を咎めずにレオンハルトを慰める。
「レオン、気持ちはわかるけどな?殿下けっこう本気だから。ま、良縁だと思って?諦めてくれ。
あと、この用事が済んだらシャルロット嬢を家まで送って、そのまま今日は上がって良い。お前の代わりは俺が引き受けるから」
そう言って、側近二人は室内に入っていった。
しばらくすると、話を終えた様子のシャルロットが退室してくる。レオンハルトに気がついて、首を傾げた。
「お兄様?今日はこちらにいらっしゃったんですね?」
どうやら、部屋の外でレオンハルトが護衛業務についていたことは知らされてなかったらしい。
「ああ、殿下と一緒にここまで来たからね。今日はもう帰るのだろう?団長の許可が出たから、一緒に帰ろう」
そんなシャルロットにレオンハルトは、手を差し出した。
シャルロットも自然に自分の手を重ねると兄に礼を言い、もう一人の護衛に軽く会釈する。
「ありがとうございます。では失礼します」
そして、馬車に乗ると早速、レオンハルトはシャルロットに尋ねた。
「で、どうなったんだい?」
シャルロットはそんな兄の様子に苦笑すると、首を振って答えた。
「婚約はお断り出来ませんでした。お父様宛の書類には陛下のサインもされていましたわ。……でも、結婚はお待ちいただけると。少なくとも、20歳までは」
そんな妹を心配そうに見つめて、レオンハルトは心苦しそうに続ける。
「そうか。シャロンはそれでよかったのかい?」
「侯爵家にとって良縁でしたら、良いのです。私は、お父様もお母様もお兄様も大好きですわ。だから」
兄の様子に、シャルロットの方が心苦しくなってしまう。そんなに心を痛めてほしくは無いのだ。
「シャロンにとって幸せな結婚でなければ、意味はないよ?」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。私、ちゃんと幸せになりますわ。お兄様にもご心配かけてごめんなさい」
どうか、心配しないで欲しい。家族が思う程、シャルロットは子供でもないし、夢見る少女でも無いのだ。
もっと強かで、そしてきっと親不孝な娘である。兄にもそんなに気にかけてもらう程、できた妹でもない。
優しくて過保護な家族に、ただただ申し訳なく思う。シャルロットは苦い気持ちで家路についたのだった。
翌日シャルロットは、必要な学校手続きの為に魔法師養成校に登校した。
この学校は、魔力が多い王族や高位貴族の子供が主に通う学校で、稀に貴族以外で高い魔力を持つものも通っている。
一般的な国民の場合、読み書き計算や基本的な生活魔法を学ぶ為の初等教育の学校に7歳から13歳程度まで在学し、その後の中・高等教育課程には、適性に応じて希望者が進学している。
軍人や医療職などの養成校には適性検査を受け、14〜16歳まで、もしくは管理職や高度技術職希望者は18歳まで在学。
文官や役所務めを希望する者は、適性に関係なく学力試験を受け、14〜17歳までが教育期間だ。
そして、魔法師養成校は、貴族が多いことで少々特殊で、各家庭で基礎教育を済ませた者が、おおよそ14〜17歳まで在学する。一般の国民が入学する場合は、初等教育を卒業していることが条件である。適性検査ももちろんあり、一定以上の魔力を持つなど入学条件がいくつかあるが、校内で魔力量の多少に差はあるものの、魔力量は国民全体の上位1割程度がその条件の範囲であり、その程度はないと魔法師としては就職は不可能である。
また、学校は魔法師養成校となっているが、魔法騎士や魔法師団の戦闘部門を目指す者のための魔法騎士コース、魔道具や魔法薬の開発研究を学ぶコース、純粋に魔法式やその仕組みを研究し高度な魔法を習得するコースの3つあり、シャルロットは高度魔法の習得コースに在学していた。
魔力量測定も定期的にあり、校内での測定時は、侯爵家としての評判を落とさないギリギリの、上位から3〜4割程度のところで調整している。
もう一点この学校は特殊なルールがあり、飛び級制度が認められている。授業は単位制で単位習得が出来さえすれば、年齢や学年等の縛りがなく、卒業までの期間を短縮できる。
現在シャルロットは最高学年の4年生に1年飛び級で在学しているが、取得した単位数とその成績から、卒業試験を受ける権利があるかを確認し、可能ならば退学ではなく卒業を認めてもらおうと思っていたのだ。余談だがシャルロットの友人のリーゼロッテも同じように飛び級で最高学年である。
そして、登校するなり、そのリーゼロッテに捕まった。
「シャロン!ちょっと!一体どういうこと?」
伯爵令嬢に求められる優雅さはどこかに忘れてきたのか?挨拶無しでの一言目だった。
「リーゼ。おはよう。私もよくわからないうちに、なんだかいろいろ……」
シャルロットは苦笑しながら、穏やかに返す。だがリーゼロッテの勢いは止まらない。興奮した様子で畳み掛けた。
「王太子殿下と恋仲だったの?」
当然ながら周囲の耳目も集めてしまっている。
学校内には、一昨日の夜会にデビュタントとして参加していた者も多くいたわけで、本人に直接尋ねることは憚られるが、情報を得たい者も多かった。
高位貴族つまり伯爵位以上の家の令嬢たちは特に、魔力の多さや容姿等に自信がある者は、王族やその近しい者と縁を結ぶことを望むものも多い。
王太子殿下は22歳のため、年頃の令嬢は本人や家の思惑で、あえて婚約者を持たない令嬢も多くいたのだ。
校内には第2王子であるルーファス殿下も在学しているため、ここ最近は想い人がいるとか、家同士の付き合いや結びつきを強固にしたいとかの理由がある者を除くと、高位貴族の13歳以上の女子の婚約率は低めだった。
殿下方の婚約が決まれば、令嬢がたの婚約率は一気に上がるだろう。結婚ラッシュも起こるかもしれない。
つまり、誰もがヴィクトールとシャルロットの婚約の真偽には、興味があったのである。
シャルロットもそのあたりの事情を理解していた為、あえてこの場でリーゼとの会話を続けているのだ。
だが、リーゼロッテの興味は、そこでは無かったらしい。もっと恋バナ的なロマンチックな展開である。
シャルロットとしては、そのあたりは誤解されたくない。
「まさか!そうじゃないことはあなたもよく知ってるでしょう?王太子殿下とは一昨日が初対面だったわよ」
きちんとしっかり否定しておいた。
しかし、それでは彼女は納得していない。
「まあ!!やっぱり!あなたの美しさに殿下が一目惚れ?」
両手を合わせて、前のめりにシャルロットにぐいっと近づく。その勢いに押され気味のシャルロットは、リーゼロッテの両手をやんわりと押して、にっこり笑ってみせた。
「それもなさそうなんだけどね。多分もっと打算的?政治的?便宜上?とにかくそんな感じよ?」
それを聞いたリーゼロッテが脱力して項垂れる。
「あ〜もう!ロマンスの欠片もない言い方!でも、あったとしても、私がそれを聞かされていなかったら親友として落ち込むから、許してあげるわ!……で、婚約するの?」
母親にもロマンスを期待されたが、リーゼロッテも同様だったらしい。謎理論で、納得されてしまった。
「ええ、なんかそういうことになったというか……正式な書類まで、あっという間に整っちゃったわね」
溜息をつきながら、昨日のことを思い出したシャルロットの目が遠くなる。それにはおそらく気がついていないリーゼロッテは、周囲をちらっと見回して、大袈裟に喜んだ。
「きゃあ!おめでとう!すごいわ!さすがシャロン!……あ、でも、泣く殿方がいっぱい居そう」
「そんなことないわよ。だって何だかいつも遠巻きにされてるもの」
シャルロットは、再び苦笑いで肩をすくめてみせた。
「う〜ん。気がついていないと言うか、けっこうな番犬が威嚇してると言うか……ま、それすらスルーしているのがシャロンよね。」
リーゼロッテのボソッと呟いた一言は、その番犬が走ってやってきたことでシャルロットには気付かれなかった。
ちょっとした人混みを掻き分け、慌ててやってきた少年は、どうやらシャルロットを探していたらしい。
兄に似た美しい面立ちながら、兄より大きめな碧い瞳と、普段は優しげな微笑を絶やさないルーファスは、少年らしい細身の身体付きも相まって、美少年という印象が強い。
一方、兄であるヴィクトールは、美しいと言っても冷たく整った容姿で、背も高く靭やかに鍛えていて、笑っていても相手に感情を読ませず、どちらかというと近寄りがたい印象を一般的には与えている。ごく近しい者には、遠慮なく口も悪いヴィクトールだが、どちらにしろ性格はあまり似ていないのでは?とシャルロットは思った。
そして今、その弟であるルーファスが、ちょっと焦った様子でやってきた。
「シャロン先輩。おはようございます」
流石に王子殿下は慌てていても、彼女たち二人の前に来ると姿勢を正し、胸に手を当て、軽く目線を下げ、ほっとしたように微笑んで挨拶をした。
その後顔を上げると周囲をサッと見回し、視線だけで人払いをする。
その視線を受けて、なんとなく集まっていた人集りが消えていく。
「ルーファス殿下。おはようございます」
シャルロットとリーゼロッテもスカートを軽く持ち上げ、脚を引いて美しいカーテシーを披露した。リーゼロッテは、彼を番犬扱いしたことをおくびにも出さない。
ルーファスはそんな彼女達に、遠慮がちに言葉を選びながら声をかける。
「あの……聞きました。兄上が、一昨日の舞踏会で……」
珍しく要領を得ない物言いに、そう言えば昨日ヴィクトールからルーファスのことを尋ねられたことを、シャルロットは思い出した。
「そう……ヴィクトール殿下から、お聞きになられたんですね」
そう言って、ルーファスを促した。
「はい。あの、先輩は兄上とは?」
ルーファスも視線を上げ、シャルロットと目を合わせると決心がついたように尋ねた。
「舞踏会で初めてお会いしたのですけど、気がついたら婚約者になっていて、驚きましたわ」
意外にも淡々とした様子で答えるシャルロットに、ルーファスは目を見張り、やがて首を振ると片手でくしゃりと前髪を握りしめた。
「どうして……そんな……先輩はいいんですか?こんなやり方」
ルーファスは、到底受け入れられなかった。
約1年ほど前、校内で行われた魔獣討伐の実地訓練。2年生と3年生の混合グループで行われるこの訓練に、当時飛び級で3年生に在籍していたシャルロットやリーゼロッテと、やはり飛び級で2年生にいたルーファスが同グループに配属され、他に3人程の男女と共に、訓練に臨んだ。
その時に起きた事故をきっかけに、ルーファスはシャルロットに好意を持ち、時間をかけてやっと親しく言葉を交わし、愛称で呼ぶことまで許して貰えるようになったのだ。学内の男子生徒に最も人気がある彼女にとって、一番近くで親しくしていた男子は自分だと思っていた。思いが通じたら、両親に紹介して彼女に婚約を申し込むつもりで、彼女に釣り合うように努力も続けてきたのだ。
ルーファスは昨日ほど、自分が成人していないことを悔やんだことなど無い。王家からの打診で彼女にプレッシャーを与えることなく、純粋に彼女から好意を返して欲しいと、そう望んで、彼女の存在を家族に隠していたのも仇になった。
まさかあの兄に、横からかっ拐われるなんて、想像もしていなかったのだ。
ヴィクトールは尊敬する優秀な兄だが、その結婚に求められるものは、愛情よりも国の益になるかである。そういう意味で、年齢差はあるものの、シャルロットも充分候補になることを失念していた。いや、もしかしてどこかでわかっていたから、無意識に家族に見つからないよう隠していたのかもしれないが。
そして今の彼女の反応で、ルーファスはこの気持ちが自分の一方通行な片思いであることも、理解してしまった。
だが、彼女を諦められるほど、自分が足掻いていないことも事実。まだシャルロットに何も伝えていないし、兄より誇れるものも無い。
だったら、まだ彼女を想い続けることを許して欲しい。
「ありがとうございます、殿下はお優しいですね。でも、大丈夫ですよ。どうやらヴィクトール殿下は政略的な意義もお考えのようですし、もしかしたらお話が無くなることもあるかもしれませんし。
これからは王宮で会うことも多くなるとは思います。ルーファス殿下もよろしくお願いいたしますね」
シャルロットの言葉に、ほんの少しの希望を持って……もしもこの婚約が無くなることがあるのなら、彼女に好きになってもらえるような自分になりたい。そう思って彼女の側にいることは、許して欲しい。
だから、足掻いてみようと、ルーファスはそう思った。
「……はい。先輩、時々会いに行ってもいいですか?」
シャルロットはそんなルーファスの気持ちにはまるで気付かず、穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます。学校は辞めないといけなくて、寂しく思っていたところです。その時は、リーゼのことや学校のこともお聞かせくださいね?」
リーゼロッテはそんな二人を見ながら、ルーファスの気持ちには触れずに、話を逸した。
「やっぱり、辞めなきゃいけないのね。でも、手紙書くわ。また会えるわよね?」
親しい友人であるシャルロットに頻繁に会えなくなるのは、純粋に寂しい。そして、彼女を想う王子様の手助けも少しだけしてあげようと思ったのだ。
「ええ、学校は残念だけど。卒業試験が受けられるか聞いてみようと思って」
シャルロットは退学が不本意らしく、なんとか卒業したいらしい。だが、優秀な彼女のことだ。学校も最大限配慮するだろう。きっと兄も手を回しているに違いない。そんな抜かり無い兄を思うとルーファスはため息をつきたくなるが、気を取り直していつものように微笑んだ。
「僕、リーゼ先輩の手紙届けます。それに王宮で暮らすようになるとも聞いてます。僕でお役に立てるなら、いつでも声をかけてください」
「ふふ……頼りにしていますわ、殿下。じゃあ、先生にも話さないといけないから、先に行くわね?」
シャルロットから頼られるのは、例え社交辞令でも嬉しそうにしていたが、手を振って去っていく彼女を見送るその視線は、切なげだった。
そんなルーファスを眺めながら、リーゼロッテが声をかける。
「ルーファス殿下、シャロンは政略結婚だって言ってましたわ。頑張って下さいね?
私もたくさん手紙を書きますわ。
ところで、ヴィクトール殿下ってどんな方なんですか?シャロンは大丈夫かしら?」
ルーファスの気持ちはずっと知っていて見守っていたが、ヴィクトールについては、いわゆる一般的な評判しか知らなかったので、シャルロットが若干心配なリーゼロッテである。
「ああ、ありがとうリーゼ先輩。僕も兄が彼女を知っているとは思っていなくて、突然の話で驚いたんだ。ただ、兄上は、一目惚れとか恋愛とかとは縁遠いというか。だから政略的というのは理解出来るんだけど、シャロン先輩が傷ついていなければ良いと思って……」
自分のことはともかく、シャルロットのことを兄が傷つけなければ良いと思ってはいたが、シャルロットも兄には何も特別な気持ちは抱いていないことに、ルーファスはほっとした。
そして、セイレーン神国のシャルロットの部屋では、カイリとシャルロットがお茶をしていた。
長閑な午後である。
そこに、シャウエンが顔を出した。気配を察して、執務の合間にのぞきに来たのだろう。
「来てたんだね?シャルロット」
シャルロットもシャウエンが来ることはわかっていたため、彼の分のお茶を出すと、座るように促した。カイリは既に立ち上がり、二人のために給仕をしている。
「うん。シャウエン。聞いた?」
主語が無いが、王太子とシャルロットの婚約話はザイディーンの社交界で一番のホットニュースだ。当然ながら、シャウエンの耳にも届いている。
「ああ、もしかして見つかっちゃったのかい?」
ため息をつきつつ、苦笑いで尋ねた。シャルロットは肩をすくめて答える。
「どうやら、あの日の朝、徒歩でダーマル山を超えてきていたらしくて。しっかり討伐の様子も見られちゃったのよね」
なるほど……と、思いながら、シャウエンは謝罪した。
「そうか。すまなかった。隠してあげられなくて」
だが、これも運命かもしれないと、彼は密かに思う。
シャルロットも、あまり気に病む様子は無さそうに見えた。
「ううん、いいの。そもそも見られたのは、私が気が付かなかったからだし。
なんかちょっと変わった王子様だわ。やり方は強引なんだけど、
すごく嫌ってわけでもないの。腹は立つんだけどね」
「そうか。君が不幸だったり嫌だったりしなければ、いいんだけど」
そう、シャルロットの未来が不幸でなければそれで良いのだ。この出会いが、彼女の運命を変えられるのなら、尚良いとシャウエンは思っている。
「不幸ではないわね……ちょっと付き合ってみてもいいかな?って思う。
あのキラキラ王子様が意外と腹黒くて、ギャップが面白いわ。
ちゃんと国のことには真面目に取り組んでいて、公人としては申し分ないのだけれど」
ただ王太子殿下に対し、シャルロットは結構辛辣だ。一体何をやらかしたんだ?とシャウエンは首を傾げた。
「確かに。彼結構やり手だし、油断出来ないよね。外面は完璧そうで、継承式に出たうちの女性陣にも大人気だったよ?」
「そうそう。わかっててあの王子様スマイルなのよ。騙される女の子多いと思う。でね?この婚約に愛情なんてないのに、シャウエンに会いに行くなって言うから、私もあなたの女性関係に口は出さないから、それは出来ません!って言ってきちゃった」
ああ、とシャウエンは内心で頭を抱えた。見た目よりもずっと年齢も経験も多い彼女に、口喧嘩で勝ち目はない。事情を知らない王太子殿下には同情した。
「それは……また。そんなに女性にだらしないのかい?」
「王太子としてはね、キレイなものよ。
多分、本人だってバレないように遊んでるんじゃないかしら?
カマかけてみたんだけど、あの反応は、多分アタリ。気にしなくて良いのにね?」
しかも、女遊びまで指摘されている。そして、それに全く動じていない見た目16歳の美少女に、引いてはいないだろうか?他人事ながら、シャウエンは心配になった。
「ちょっと彼に同情したかも。女性は怖いなあ」
「あら、シャウエンは、女性に夢見過ぎ?」
そういうわけでは無いと思うけど……とは口には出せない。
シャウエンは、火の粉が自分に飛ぶ前に、早々に回避行動を取ることにした。
「私の一番身近な女性は君だからなあ。どうだろう?
ところで、聖女であることは伝えたのかい?」
「いいえ。多分、信じないかも?と思う。
そのうち彼が気がつくことがあれば、隠すつもりは無いのだけれど」
王太子殿下がシャルロットが聖女であることを知ったとして、彼は聖女のことをどこまで理解していて、信じるのだろうか? シャウエンには判断するだけの情報がなかった。
「そうか。まあ、うちとしては君を支えていくことに変わりはないよ。国王としても、私自身としてもね」
そのうち、彼とは直接会って話してみる必要がある。継承式の様子だと、近々面会の打診があるかもしれないと、シャウエンは考えていた。
「ん。ありがとう、シャウエン。いつも頼りにしてる」
そんな彼の心中には気付かず、シャルロットはティータイムを楽しんだのだった。




