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The end of Reincarnation  作者: 桜野 華
第1章
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第9話

 

 王宮の一室。シャルロットが運ばれた客間からは少々離れた部屋では……


「で? 一体どういうことだ⁉」


 ランドルフは、部屋に入るなり、開口一番でヴィクトールに詰め寄った。もちろん、防音結界を張った上で、である。


「ラルフに呼ばれて大急ぎで駆けつけてみれば、なんだか大騒ぎになっているようじゃないですか?」


 王宮内は安全上、転移魔法や攻撃魔法が使えないような結界が張られているため、ニールセンは、ランドルフから伝達魔法を受け取ってすぐに、身体強化だけして、急ぎ走ってきたのである。


 そんな2人の様子に慌てるでもなく、ヴィクトールは手近な椅子に腰掛けると、悠々と答える。


「どうもこうも、見ての通りだ。ディアモンド侯爵家の令嬢に求婚して、受けてもらった……ということになってるな」


 ランドルフはそれに大声で反論する。


「それ! 受けてもらって無いよな?……ってか、なんでいきなり婚約なんだよ⁉ 会ったの今日のこの場が初めてだろう? 嬢ちゃん、かわいそうに、ぶっ倒れちまったじゃないか!」


 言葉遣いは悪いものの、騎士道精神は持ち合わせている近衛騎士団長は、シャルロットに同情的だ。


「はあ~……確かレオンハルトの妹君でしたか? 限りなく面倒そうですね。侯爵は令嬢を溺愛してると評判ですよ?」


 ニールセンは、社交界の噂話にも詳しい。ディアモンド家を思い浮かべながら、ヴィクトールに意図を尋ねた。


「あ、ニール、それ俺も聞いたことあるわ」


 ランドルフは、レオンハルトの直属の上司である。彼と話す機会も多い。レオンハルトの妹自慢は、時々耳にしている。


 だが、ヴィクトールは動じない。淡々と利点を並べていく。


「問題ないだろ? 家格的には。それに俺は別に女性に不誠実というわけではないと思うぞ。今まで、令嬢方と余計な噂が立たないよう気も遣ってきたしな。しつこく婚約者を決めろと煩かった連中も、これで黙るだろ? 令嬢の相手としても俺は条件的に申し分ないと思うが?」


 侯爵家の夫妻は恋愛結婚であり、両親は娘を溺愛、兄からも妹の話を漏れ聞くということは、家族としては、娘に愛情のある結婚を……と望んでいることが想像できる。決して目の前の王太子殿下のように、都合が良さそうだ的に考えているわけではないのでは?と二人は思った。


「あ、わかってないわ。これ」


「……ですね。ラルフ、で、倒れたご令嬢は、どうなってるんです?」


 が、とりあえず二人は、話を進めることにした。


「嬢ちゃんは、ヴィクトールが客間に運んで寝かせてある。家族が付き添うってことだったんで、色々聞かれる前に取り敢えずヴィクトールはこっちに引っ張ってきた。ま、嬢ちゃんが起きたらどっちにしろ呼ばれて、質問攻めだな」


「そうですか。いい判断ですね。

 ここに来る途中で会場を見てきましたが、陛下がなんとかしてくれていたので、舞踊会は継続中ですね。後からどんなお叱りがあるかは、想像できませんが。

 どちらにしろ、ここでの方針は、伝達しておいた方がいいでしょう。それで、殿下? どうされるおつもりですか?」


 時間があまりなさそうだと判断したニールセンは、ヴィクトールに尋ねる。


 ヴィクトールは、足を組み椅子に深く凭れ掛かると、息をついて目を伏せ、考えをまとめるように話しだした。


「……あいつは、シャルロットは、俺たちが神国の継承式の朝、ダーマル山で見た魔法師だ。事情はいろいろあるようだが、家族には強力な魔法師であるとは明かしていない。普段は常時結界と魔道具で、魔力をおさえていると言っていた。これについてはあいつの家族はもちろん、とりあえず陛下にも他言無用で頼む。

 神国の国王とは幼馴染だが、間者では無いと断言した。まあ、調査はするが、おそらくこれもその通りだろう。

 あと、本人はディアモンド家の生まれは証明できると言っていたが、どう考えても16歳に見えないんだよな。妙に貫禄があるというか……これについては、追々聞いてみるが。」


 ヴィクトールは一旦言葉を切って、二人の表情を確認するが、何も言わなそうなので、そのまま続けた。目を見張ったまま固まっているはいるものの、一応理解はしてくれているようである。受け入れられているかは、不明だが。


「まあ、そんなわけで、いろいろと興味はつきないし、魔力も家柄も問題なし。俺の性格も察したただろうし、俺のことを妙な憧れを持って見るでもなし、そういう意味でも気楽だな。

 今日がデビューで成人もしたが、あれだけの美貌だ。他のヤツらに手を付けられる前に、俺が囲ってしまったほうがいいだろう?」


 そう言ったヴィクトールに、二人の側近は顔を見合わせて、大きくため息をついた。


「なあ、ニール? 俺今、嬢ちゃんにすごく同情した。さらに、レオンと侯爵の反応が怖すぎて、想像したくない」


「同感ですね、ラルフ。ですが、殿下の判断も覆らなそうなのに加え、確かに最良の婚約者と言えるところが、なんとも悲しいところです。そして、私自身も彼女の魔法師としての力量に興味があります。という訳で、仕方ないですね」


 ニールセンが共感したのは、ラルフのセリフの後半のみである。そう意味では、ニールセンもヴィクトールと考えが近い。面倒事が煩わしいだけで。


 そんなやり取りが済んだところで、扉の外からタイミング良く声がかかった。


「失礼します。侯爵家のご令嬢がお目覚めになりました」


 ニールセンが防音結界を解除する。ヴィクトールも立ち上がり、二人を促した。


「……決まりだな。では、我が婚約者殿に会いに行くぞ」





 そして一方、シャルロットが運ばれた客間では。


 気を失ったシャルロットが寝かせられた寝台を囲って、ディアモンド家の面々が心配そうに彼女を見守っていた。


「レオン一体どういうことなのかしら?あなたも何か聞いていない?アル」


 ファーストダンスが始まる前に会場入りした侯爵夫妻は、突然ヴィクトールとシャルロットが揃ってダンスフロアに現れたことに驚き、更にあの婚約騒ぎである。

 全く状況の把握が出来ずに、案内に連れられこの場にやってきたものの、揃って動揺していた。不安そうに見上げるエカテリーナの肩を抱きながら、アルバートが息子に尋ねる。


「私も、一体何があったのか、殿下には問い詰めたいところだが。何か変わったことはなかったかい?レオン?」


 レオンハルトは、シャルロットを連れ出されて呆然としたものの、あのような事態を止められなかったことを悔いていた。


「私も同様です、父上。ただご挨拶に伺ったときに、シャロンに興味を持ったように外国語でいくつかお尋ねになって、その後ファーストダンスをいきなり申し込まれた感じで。

 シャロンも初対面でしたし、お断りはしたのですが、強引に連れ出されて……あのような事態に。申し訳ありません、殿下をお止め出来ず」


 息子の言葉に、アルバートは王太子殿下に憤りを覚える。何故、この場にいないのかとも思い、イライラと続けた。


「いや、お前が謝ることではない。それよりも殿下は何をしている? 娘を放って、私達にも説明も無いようだ。あんなふうに物事を進める方では、ないだろうに」


「……お父様?」


 と、寝台から心細げな声がした。家族が一斉に視線を向ける。


「シャロン!」


 エカテリーナが寝台に駆け寄り、シャルロットの手を取った。


「ご心配かけて、ごめんなさい。お母様、お兄様も。もう大丈夫です」


 シャルロットの言葉に、家族はホッと息をつく。身体を起こすのを手伝ってやりながら、エカテリーナは声をかけた。


「シャロン、どこか辛いところは?」


 母親の言葉にシャルロットは首を降る。


「いえ、特には。ただ……なんだか大変な騒ぎに……」


 そして、心配そうに父親を見つめた。


「それについては、本人に説明してもらおう。お前は、心配することはないよ」


 そんな娘に、安心させるように穏やかに微笑むアルバートだったが、内心は王太子殿下への怒りが溢れていた。

 レオンハルトにとっては、敬愛する守るべき主だが、今日ばかりはイライラした気持ちが収まらない。


 そこへタイミングよく、ノックのあとに、部屋の外から侍従の声がかかった。


「失礼します。殿下がお見えになりました」

「どうぞ」


 レオンハルトが扉を開け頭を下げると、ヴィクトールがまず入室し、ランドルフとニールセンがそれに続いた。

 侯爵家一家も、頭を下げてヴィクトールを迎える。


「失礼する……ああ、楽にしてくれ。シャルロットも」


 ヴィクトールの声に全員頭を上げるが、家族が彼に向ける視線は、刺々しい。

 ランドルフとニールセンは心のなかで溜息をついた。予想通りである。

 アルバートは、怒りを隠さずにヴィクトールに問いかける。


「殿下。ご説明いただきたい。夜会の場であのようななさりよう。返答次第では、私にも考えがあります」


 ヴィクトールは、胸に右手を当てると、最大限の誠意を持って、頭を下げた。

 そして、真剣な口調で言葉を告げる。

 整い過ぎている容姿も存分に使って、誠実な求愛者を装う。


「侯爵、令嬢を驚かせてしまい申し訳なかった。また、結果的にあのような騒ぎになってしまったことも心から詫びよう。

 だが、今日、あのように美しい令嬢に出会って、言葉を交わし、聡明な令嬢を私の伴侶にと望んでしまった。決して気まぐれなどではなく、真摯に愛を乞うと誓おう。

 どうか、許してはくれないだろうか?」


 そして頭を上げ、今度は寝台に歩み寄り跪くと、寝台に身体を起こしているシャルロットを見上げる。


「そして、シャルロット。驚かせて、すまなかった。明日で構わない、時間をもらえるだろうか?私は君と、もっとゆっくり話したいんだ」


 シャルロットはその視線を受け、ゆっくり息をついた。

(先程のやり取りの後で、どの口が……と言いたいところだけど、この辺りが妥協点よね、きっと。私が隠しておきたいことの為に、こんな風に演じてくれてるのね)


 だが、冷静な声が後ろから響いた。シャルロットの兄、レオンハルトである。


「殿下。おそれながら」


「なんだい?レオン」

 ヴィクトールは視線だけ、レオンハルトに振り返る。


「殿下に妹は不相応かと。妹はまだデビューしたばかり。普段は、結婚はしたくない、家にいたいなどと申しており、まだまだ子供です。そのような妹に王太子妃という重責はとても担えません。妹は我が家の可愛い宝です。しなくて良い苦労をさせたくはないのです」


「私も息子と同じ意見です。殿下、どうぞお考え直しを」


 父親と兄が二人がかりで、ヴィクトールからシャルロットを守ってくれている。

 だが、この場でヴィクトールは、譲らないだろう。

 少なくとも、話し合いは必要そうだった。家族の気持ちはありがたいが、今夜は引いたほうが良いだろう。

 シャルロットは、家族に告げた。


「お父様、お兄様、ありがとうございます。でも、私、一度殿下と話し合ってみます。もしかしたら、お考え直しいただけるかもしれませんし……」


 エカテリーナが心配そうに声をかける。


「シャルロット、あなた」


 シャルロットは、そんな母親に安心させるように微笑んだ。


「お母様、お話するだけだもの。大丈夫よ?」


 シャルロットの意図を察したヴィクトールも、この辺りが去り際と言葉を引き継いだ。


「ありがとう、シャルロット。では明日の昼食を共にとろう。今日は、ゆっくり休んだほうがいい。明日、こちらのランドルフを迎えに行かせる」


 そして、彼女の手を取り、指先に軽く唇で触れた。そして、優しく愛しげに微笑みかける。まっすぐシャルロットだけを見つめ、美しく整ったヴィクトールの微笑みに、横にいたエカテリーナがハッと息を呑んだ。


「突然、すまなかった。シャルロット、明日は楽しみにしている……

 気をつけてお帰り。良い夢を。

 では、私はこれで」


 そして、すっと立ち上がると、一家に目礼し、側近の二人を連れて部屋を出ていった。


 家族は、ヴィクトールの別れの挨拶に唖然としている。


「殿下はシャロンに一目惚れしちゃったのね……」


「それは、違うと思います。お母様」


 母の言葉を思わず否定して、シャルロットは小さく溜息をついた。

 これで母は反対しないだろう。

(演技過剰ですよ、殿下……)と、抜け目ないヴィクトールに呆れながら。





 部屋を出て別室に戻った三人は、ホッとして肩を下げる。


「どこの誰かとも思いましたが、とりあえずは乗り切りましたかね?」


 ニールセンが毒舌ながら、ヴィクトールに話しかけた。ヴィクトールの本心を知るものからすれば、どんな茶番だと吹き出しそうになるのを賢明に耐えた。


「本当にマジで嬢ちゃんが不憫だわ」


 ランドルフは、ヴィクトールがシャルロットを騙したのでは?と、心底彼女に同情している。


 そんな二人に、ヴィクトールはしれっと答えた。


「納得はしてなさそうだが、とりあえず文句が言えないように下手に出たからな。後は明日、本人と話すさ。ま、シャルロットは、怒り狂ってそうな気もするが。さて次は父上だな」


 シャルロットが騙されていないのは、わかっている。それがまた面白い。

 明日、彼女との話し合いも楽しみだった。

 だが、その前に自分の家族を説得しなければ。反対はされないだろうが、急な話にいろいろと聞かれるのは、覚悟したほうが良いだろう。

 ヴィクトールは立ち上がると、明日の予定を二人の側近に告げ帰宅させ、自分は家族と話し合うべく伝達魔法を飛ばし、国王夫妻が控える部屋へと向かったのだった。





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