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序章

初投稿です。よろしくお願いします。

 

 縁側の窓の引き戸が開かれ、柔らかな日差しと共に、爽やかな風が畳の間に入ってくる。庭に植えられた木々には、淡い色の花が咲き、それらの花の香が、風と共に微かに流れてきて、遅い春の訪れを知らせてくれていた。


 長く厳しい冬が明けたのだ。


 そんなまだ肌寒いながらものどかな昼下り、遠くからは鳥の囀りが聞こえてくるが、部屋の中には僅かな緊張感と、どことなく静謐な空気が漂っていた。


 ここは、大陸北方に位置し、険しい山脈に囲まれた平野を領土の中心とした、セイレーン神国。

 そこに点在する里の一つに、王の屋敷は建っている。

 濃い灰色の細い屋根を乗せた白壁に囲まれた、平屋の木造建築。充分な広さを持って建てられた屋敷の一室で、最も美しい庭を臨むこの部屋の中央に、二人はいた。


 流れるような癖のない肩下までの黒髪を無造作に一つに結び、上品な佇まいの灰色の着物を着た壮年の男性と、彼によく似た面差しの少年が、半ば向かい合うように並んで座っている。

 少年は、淡い水色の着物に黒の袴姿である。彼の髪は短く切り揃えられており、髪先が風に遊ばれてサラリと舞った。


「父上……」


 蒼色の瞳を父親に向け、ポツリと小さく呟く。そして、少年は背筋を伸ばし顔を庭に向け、姿勢を正した。


「ああ……お前も感じたかい?シャウエン。……いらっしゃるようだ」


 父上と呼ばれた男性も、正座した両足の上に置いた手を軽く握り、大きく息をつき目を伏せた。


 フッと陽の光が遮られ、音もなく一瞬で現れたのは、幼い少女。シャウエンは、初めて見るその少女に思わず目を見開いた。


 腰近くまで伸ばされた、艶のある細い絹糸のような真っ直ぐな黒髪。小さい顔にシンメトリーにバランスよく並んだ大きな紫色の瞳、その瞳を囲う長く上向きの睫毛、すっと通った鼻筋に桜色の瑞々しい唇。真っ白な肌は透き通っているようである。落ち着いたベージュピンク色のドレスは控えめなレースとウエストを締めるリボンで可愛らしく、美しい少女によく似合っている。

 歳の頃は、5歳ほど。ドレスから見える手首や足首、首周りは華奢で、そして、この部屋にはかなり異質な存在であった。


「お目覚めをお待ちしておりました、聖女様」


 シャウエンの父親が、低い穏やかな声で言葉にする。

 彼の整った顔立ちと深い青の瞳が少女に向けられた。

 少女は目線だけで頷くと、


「あなたを目印に転移してきました。

 私の今生の名はシャルロット。シャルロット・ティナ・オル・ディアモンド。

 ザイディーンの侯爵家に5年前の今日、生をうけました。

 そして、先程記憶を取り戻したところです。」


 幼い容姿に似合わない落ち着いた口調で、だが耳に響くのは澄んだ幼子の声で、そう少女は答える。


「私は、エンデン。エンデン・テオ・リー。こちらは息子のシャウエンです。

 シャルロット様、このセイレーン神国も私の代で65代となりました。

 今代、聖女様のお目覚めに立ち会えたこと、幸せに思います。どうぞ何なりとお申し付け下さい。」


 そう言って頭を下げたエンデンに、楽にするよう一言答えると、少女はその場にストンと腰を降ろした。

 フワッとドレスの裾が広がる。ハッとしたシャウエンが慌てて座布団を持っていき、


「ごめん」


 と一言断ってから、彼女の両脇に手を差し入れ抱えあげて、その上に座らせた。

 シャルロットの大きな紫の瞳が、そんなシャウエンをまっすぐに見上げる。その瞳に吸い寄せられるように、シャウエンもまたじっと彼女を見つめた。


「ありがとう。シャウエン」


 そう言って微笑んだ彼女が、とても5歳には見えなくて、

「あ…うん…えっと」


 と思わず口籠ってしまう。

 すると、シャルロットは首を傾げて


「シャウエンはいくつ?」

 と尋ねた。


「……先月、12になりました」


「そう。とっても背が高いのね。それに、魔力もたくさんあるのね。神力もきれいに混ざってる」


「え、と。ど…どうして?」


 魔力量はともかく、なんで神力のことなんかがわかるのか?

 シャウエンは混乱して、少女相手に噛んでしまった。


 熟練した魔法師なら相手のおおよその魔力量は測れるが、神力となると話は変わってくる。こればかりは、自身か神力持ちにしかわからない。5歳の女の子にわかるはずはないのだ。



「シャウエン、シャルロット様はこのように幼くお見えになるが、この度は12度目の転生となる聖女様だ。

 私達よりもずっと長い時間をお過ごしだよ。失礼のないようにね。」


 エンデンが苦笑しながら、言葉を添えた。

 その言葉にシャルロットがプッと頬を膨らます。


「年寄り扱いは、イヤよ。エンデン。女心がわかってないなあ……」


「おんなごころ?」


 シャウエンが思わず首を傾げる。

 そんなリー親子に、少女はプイッと顔を背けると、


「もういい。今日は誕生日パーティーがあるから、また来るわ!」


 そう言い残し、いきなり少女の姿は掻き消えてしまった。


 シャウエンは、呆然とする。しばしの間をおいて、エンデンに尋ねた。


「え…と…夢じゃないですよね?父上……」


 エンデンは苦笑いで、頬を掻いた。


「いやあ、お嬢さんのご機嫌を損ねてしまったなあ。とても可愛らしくて驚いたが。

 まあ、きっとまたお越しになってくれるさ。」


 そう言って腰を上げると、ゆっくりと縁側から庭に降りて空を見上げる。


 呪文を唱えることなく、一瞬で魔法式を構築展開し、いきなり転移魔法を発動して、消えてしまった少女。

 美しくも愛らしい少女の、見た目の姿とは裏腹のその異様さに、シャウエンは今更ながらに背筋が冷たくなったのだった。









 この大陸には、古くから語られる物語がある。


 それは、神によって創られた人間や生き物達の物語。

 語られる話は数多いが、史実に基づいて伝えられているのは、創世記である。


 この世界には、7つの大陸が存在する。

 そして7人の神が、それぞれの大陸に「生」を産み出した。神の持つ力、神力を使って。

 神力とは、創造と、魂への祝福、そしてカリスマ。


 創造とは、無から生を産み出すことが出来る力。しかし、産み出した命ある生き物に干渉することは、神には出来ない。産み出された生き物達が、どう生きるか・・・ただ、天上という名の異界から眺めるだけ。


 この地の神ネレデイアが創った大陸は、ウェルデリアと呼ばれている。


 ネレデイアは神力の殆どを使って、大陸上に存在する全ての生物を創り出した。

 中でも人間は、智力と魔力を与えて、自らの姿に似せて創り出した。

 だが同時に、人間だけが増えすぎないように、脅威となる魔獣も産み出した。

 全ての生物がバランスよく大陸に存在出来るようにと創り出したあと、神は長い眠りにつく。


 数千年が過ぎた頃、神はふと目覚める。


 人間は国を作り、戦争をしたり、魔法を使って生活水準を上げたり、魔獣に対抗したりして、進化を遂げていた。

 そして人々は、神への信仰心をもち、毎日神に感謝を捧げていた。


 それを見た神は、気まぐれに地上に降りてみることにした。


 そこで、神は一人の少女と出会う。


 少女は、人々を愛し、国を愛し、高潔な心で志高く、国を治める女王となるために、学んでいた。

 神は地上において、人間の時間にして約5年間を少女の傍らで共に過ごし、やがて彼女を愛するようになる。

 そして、神は禁忌を侵した。

 神は愛する彼女に干渉し、多くの魔力と神力を与えてしまったのである。


 彼女はその力を、正しく国や民のために使い、やがて女王に即位した。その姿を見た神は、満足し、天上に帰ろうとする。

 だが、禁忌を侵した神は、天上に帰る力を失っていた。


 神は女王と婚姻し、彼女に与えた力と自身の神力を混ぜ合わせることにより天上に戻る力を得、愛する彼女と共に生きる権利と時間を代償に天上へと帰っていった。


 彼女は神との子供を宿していた。


 女王が持つ神から与えられた力と、神力を引き継ぐ子供の出産は、人の身では荷が重く、子供を産み落としたあと、女王は命を落としてしまう。


 彼女を愛していた神はそれを嘆き悲しみ、女王の魂がその記憶を持って何度も生まれ変わっていくよう、祝福を与えた。


 女王の魂は、記憶を持って転生を繰り返す。

 そして、豊富な魔力と高い志を持つ女王は、転生の度にその生命を代償にして、大陸や国を揺るがす大災害から国や人々を守り、聖女と呼ばれ人々から愛された。

 神は天上から、そんな女王を愛し、ずっと見守り続けている。


 また、女王と神の間に生まれた子供は、現セイレーン神国の始祖となり、神の血を継ぐことによってその声を聞くことができ、神官として神と人とを繋いでいる。


 セイレーン神国創世記より概略














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