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23.正しい権力の使い方とは
















 すわ一触即発、どうなることかと思ったエリアンとヤンの対面だが、殴り合いなどにはならなかった。殴り合いではヤンが勝つし、身分を鑑みればエリアンがふさわしい。二人とも、同じ判断をしたのだろうと思われた。ついでに、ヤンに警備の指揮をとらせようと思って、リーフェ城に連れて帰ってきた。さすがに、リシャナだけでは手が回らないと気づいたのだ。


「なるほど。エステルは『ここにはリシェが拾ってきた人間が多い』とは聞いていたがな」

「ええ。妹は最初に、私は二番目に拾われたんです。それは譲れません」

「俺がリシェに会ったのは王都開城戦の時だから、十二年前だぞ」

「我が君のお姿を見ただけでは? 私は我が君に助けていただきましたから、誰が何と言おうと我が君についていきます。夫がいても、愛人にはなれますよね?」


 それもあきらめていなかったのか。ローシェに通報してしかってもらおうか。結婚して侍女をやめたローシェだが、まだ城下に住んでいるし、人手が足りないときには来てもらったりもする。


「あのお二人も、飽きませんね」


 呆れたようにフェールは言い、リシャナにお茶を出した。ちなみに、彼女の執務室だ。外で聞こえている爆音は、リュークが最新兵器の試し撃ちをしているものである。

「好きなだけやらせておけ。あれで案外、気が合うのではないかと思う」

「そうかもしれませんね」

 フェールが肩をすくめて、その二人にもお茶をだしにいった。貴族のお嬢様だったフェールだが、今は一般の騎士と結婚したので、ヤンよりも立場上は下になる。


「そういえば、リシェ様、ローシェを助けたのは成り行きだって言っていましたけど、どういうことなんです? 系列的に、クラウス卿から頼まれたわけではないでしょうし」

「ああ……」


 フェールの淹れてくれたお茶を飲みつつ、リシャナは口を開いた。

「まず、前提として、私はキルストラ公に叙され、国境の防衛を任じられた時十七歳の小娘だったわけだが」

「我が君、根に持っていますか?」

「ただの事実だ。まあ、当時は内乱が終わったばかりで、リーフェ城の整備も進んでおらず、ひとまず当時の総督代理だったヘリツェン伯の屋敷に身を寄せたんだが」

 気づけばエリアンとヤンもこちらの話を聞いている。いや、ヤンは先ほど口をはさんできたが。

「そこで侍女らしい女の子が伯に殴られているのを見て、殴り飛ばした」

「あなたは存外手が早いな……」

 エリアンがツッコミを入れた。まあ、彼もリシャナに殴られている人間だ。あれはちょっと反省しているが、リシャナの前に北壁を治めていたヘリツェン伯は本当にクズだった。

「気に食わない人がいると、その娘や妻を無理やりかどわかして言うことを聞かせようとしたようだ。ヤンとローシェもそれだろう。連れてこられた娘たちは、かなり暴力を受けているように見えた」

 おそらく、性的な被害もあったと思う。結局、初日のうちにリシャナが無理やり収めてしまったのだが。


「リシェ様がお人好しなのはわかっていますし、私もこのクズが、と思いますが、強引ですね」

「地位と権力はこういう時のためにある」

「正しい権力の行使を見た気がします」


 フェールが言うが、彼女はリシャナの信奉者の一人なので参考にはならない。

「ほかの娘たちはそのまま解放したんだが、ローシェは北壁に兄が捕まっているのだと言っていたな」

「まさか、ローシェが頼んだから、私を助けてくださったのでしょうか」

「いや、それとお前の件は別だな。ヘリツェン伯に北壁の仕様を聞いたら、要領を得なかった。だからほかに詳しいものを知らないかと聞いたら、お前の名が上がって、投獄されていると言うから会いに行ったんだ。まあ、名を聞いた時点で関係があるのかな、とは思っていた」

 リシャナは頼まれなくても、理不尽に罪に問われた人間は解放するつもりだった。十七の小娘で世間知らずで、そのくせ地位だけは持っていた彼女だが、治める才能だけはあった。

「今だから申しますが、当時のヘリツェン伯は自分が役目を追われて自分の娘ほどの年齢の我が君が総督になるのが気に食わないようでしたね。それが決まってから、横暴さが増したような気がします」


「リシェを力で押さえつけたかったんだろうな。だから周囲を固めるため、自分の意に沿わない人間を押さえつけようとしたんじゃないか。まあ、相手がリシェである時点で負け戦だ」


 エリアンが分かっているような顔をして解説するので、ヤンがムッとした表情になる。そういえば、ヘリツェン伯に「姫様がわざわざ危険な場所に出ることはありません。我々にすべてお任せください」と言うようなことを言われたような気がする。もちろん、それを是とするリシャナではないが。

 リュークは平常運転であるが、ヘルブラントは苦笑気味に言った。


「さすがに北部はお前の信奉者が多いな。いや、王都にも多いが」


 おおらかにヘルブラントは笑うが、これはリシャナが返答に困る部類の言葉だ。いいようによっては王よりも王の妹の方が人望がある、というように聞こえる。

「……北部では最初のころにかなり暴れまわりましたから、恐れられているのかもしれませんね」

 真面目にそんな回答をしてみる。そうか、とヘルブラントは笑う。年が離れているので、ヘルブラントはリシャナに甘い節がある。

「俺には慕われているように見えるがな」

「……」

 この飄々とした兄に勝てない。

「何が目的で、わざわざこんな田舎までやってきたのです」

「辺境ではあるが、田舎ではないだろう。何、お前と結婚する段階になって、突然エリアンを送り込んでも、みな納得しないだろうと思ってな」

「結婚するとまでは言っていません」

 婚約はしたが、結婚するとは言っていない。リシャナがアールスデルスを離れられないため、当然のことなのかもしれないが、仮にエリアンと結婚しても、リシャナはここに留め置かれるのだな、と変なところで感心した。


「お前が俺からの縁談をかわすためにエリアンを選んだのはわかっている」

「……」


 そうだと思ったが、やはりばれていた。飄々として見えて、ヘルブラントはよく見ている。


「だが、いいと思うぞ。お前より若いが、お前に一途だろう。愛情かはともかく、人生の半分はお前を慕って過ごしているわけだし」


 王都開城戦の時からなら、確かにそうだが。そういう問題でもない気がする。

「……まあ、別にエリアンに文句はありませんが……変態なんですが」

 思わず訴えると、ヘルブラントは真剣な表情でリシャナの肩に両手を置いて、名を呼んだ。

「リシェ」

「はい」

 そして、まっすぐ妹の眼を見てのたまった。


「男はみんな、変態だ。あきらめろ」


 思わず国王に膝蹴りを入れてしまったリシャナは悪くないと信じている……嘘だ。ちょっと反省した。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


リシャナは自分を短気だと思っている。周囲はおとなしい子だと思っている。でも、手は出る。


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