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H & H   作者: ふーふ
9/11

9話


現在将達は石壁で囲まれた広い部屋のなかにいる。

重苦しい雰囲気が流れている。

部屋にいる大勢のうちの誰かがポツリと呟いた。


「石田……負けたってことだよな…」

「そういうことになるな……」

「なあ、俺達このままどうなるんだ……」

「さあ…な」


辺りの空気はさらに重くなった。

恐らく石田のチームがやられたという事実が彼らの恐怖心をくすぐっているのだろう。

現在、高井は医療の心得があるものに手心だが治療を受けている状態だ。

だが、医療設備が整っていないため完璧な治療、もといまともな治療は受けられないだろう。


突如勢いよく立ち上がる音が将の耳に聞こえた。

見てみると5,6人の男が悲壮感を漂わせた顔で立ち尽くしていた。


「どうした……」


この拠点の副リーダー的立ち位置の男が質問した。

集団の内の一人が答える。


「どうしたもこうしたもねーよ! 俺は死にたくねえ! あの石田でさえやられたんだぞ! 俺はこの組織を抜ける!」


男の周りにいた者達も同意とばかりに頷いた。


「おいおい、お前らもしここを出てったらそれこそやつらの餌食になるぞ? それでもいいのか?」


「うるせぇ!お前らがなんと言おうと俺たちはここから出てく!あのみどりさんや石田がやられたんだ。ここにいたとしても時間の問題だ!」


「おい!待て!」


彼らを止めようとした男の腕を振り切り、

男は周りにいる者達と一緒に脇目もふらずに部屋から出ていった。


「やれやれ、予想はできたことだがなんとも……」


今の拠点の中心であるだろう男が呟いた。 

男にとってもこれは誤算だった。

石田が負けたこともそうだが、こんなにも早くに脱退するものまで現れようとは。

そう言った意味も込めて大きいため息を吐いた。


男はあまりの急な展開に固まっている将の方へ顔を向けこう言った。


「将くん、はじめまして、でいいのかな。私は山口というものだ。石田がやられた今、私がこの組織の頭だということになるね。それにしても今日は色々な事があったから疲れてるだろう?部屋を用意してあるからそこでゆっくりと休むといい」


「はい、でも、その…」


「ああ、彼らのことかい? いいんだよ私たちで何とかしておくから」


「いえ、高井さんのことで何か手伝えることがないかな……と」


「ああ、それは問題ない。それも私たちが何とかしておくよ」


「でも……」


何もできないことに悔しい気持ちを抱いているため将は引き下がれないでいた。

何とか誰かの役に立ちたい、その一心でいる将に対して、男は憤怒の形相で将に向かって言う。


「君は来るな!君ができることなど何一つない!」


将はあまりの変わりように驚いた。

その将への怒声に助け船を出すようにリサが動いた。


「あの、なぜそんなにも、将さんに何かをさせるのを拒むんですか?」


将の心をよく理解していたがゆえの言葉だった。


「ああ、リサ。気にさわったかい? 少し色々と立て込むもんだから少し機嫌が悪くなっていたみたいだ。最後にもう一度言っておくが将くんだけではなく私以外の者達も高井の所へ行くのは禁止とする。

高井の傷の具合とかを見てしまうとまた恐怖心が触発されてしまうかもしれないからね」


男はそういい残して部屋から出ていった。


「リサ、俺なんか悪いことしたみたいだな……」


「将さん…気になさらないでください。彼も色々立て込んでいて心に余裕がない状態なのでああなっているだけだと思います」


リサは慰めるが将はまだ釈然としない様子だ。


そのまま将達はそれぞれに割り振られた部屋で英気を養うことにした。



次の日

目が覚めたらいつぞやと同じく喧騒が聞こえた。

将の頭に嫌な予感が浮かんだ。

またもや先日と同じように誰か殺されたのかと考えると体が身震いする。


将の部屋の扉が開きリサが入ってきた。

将の目から見てもひどく焦っている様子だ。


「将さん! 早く来てください!」

「……」


呆けていた将にリサが部屋の中まで入り将の腕を無理やり引っ張り部屋から出そうとした。


「ちょっ、リサっ! 何があったんだ!?」


リサの返答はない。

まるでおとなしくついてくれば分かるというかのような態度だ。


部屋から出ると組織のメンバー達が右往左往していた。まるで何か予想外のでき事が起きたようだ。

将も勘が悪い方ではない。

むしろいい方だ。

将は心を引き締める。


そして将がリサにつれていかれた場所は現在療養中の高田が寝ている部屋だ。

扉を開けて、中に入るとそこに広がっていたのは……


真っ赤なじゅうたん、もとい床におびただしい量の血が広がっていた。

壁一面にも血痕が断続的に飛び散っていた。

この場で行われた惨劇がこの状況からでも読み取れるほどに。


むせかえる血の臭いに吐きそうになる。

将は胃からこみだしてくる酸っぱいものを無理やり口の中に閉じ込めた。


「…リサ、何が…」


リサが痛ましげに目を背けた。


「高井さんと治療をしていた方が何者かに殺されました」


「この拠点は知られてなかったんじゃないのか!?」


「恐らく高井さんはわざと生かされたのでしょう。

私たちの拠点を探るにはこの方法が一番効率的でしたからね。敵の狙いに気づけなかったのは私たちの落ち度です」


「リサ…昨日の人はどこにいるんだ?」


「昨日の人?山口さんですか…」


リサは痛ましげに目を背けて首を横にふった。


「それがどこにも見当たらないのです…もしかしたら…敵の手はもう既にそこまで迫ってきているのかもしれません」


「そんな…」


「まずは山口さんを探すことが先決です。まだやられたと決まったわけではありません。将さん、危険ですが一度拠点から出て森の中を探してみましょう」


「ああ、そうだな…」


「私も同行させてもらうわ」


隣を見ると隣には鈴木が立っていた。

後藤は今までにない真剣な表情で言葉を続ける。


「誰かを探すことにかけては私は超一流よ。これ以上あのゴミどもに好き勝手させないわ」


後藤のいつもとは違う言葉遣いに驚いた将は後藤の顔を見た。

まるで鬼神の形相で地面を見ている後藤に得たいの知れない恐怖を感じた。

何か恨みでもあるかのような、そんな雰囲気だ。


「将きゅん、どうしたの?」


今までの顔が嘘であったかのようにケロッとした顔で後藤が覗きこんでいた。

将はこの変わりように見間違いだったかと思ったが、先程までの雰囲気を肌で感じていたため思い違いとは思えないでいた。後藤には後藤の事情があるのだと考えこの事は掘り下げないことにした。


「リサ…どうした?」


なぜか固まっていたリサに疑問を抱いたため声をかけた。


「あ、いえ、すみません少しぼーっとしてました」


呆けていたリサが気を引き締めて身だしなみを整え始めた。


「リサ、将きゅん、行くわよ」






◇◇◇◇◇






「いたわ……ここから一キロ程度離れた場所に確かに山口の気配を感じるわ…」


後藤が能力を使用してこの山全体をサーチしたところ行方不明の山田を見つけることができた。

早速将たちは山口の元へ向かうことにした。

鈴木の能力で周辺には敵が潜んでいないことを確認したが、何が起こるかわからない。慎重に山口のもとまで歩いていく。

道中、将がずっと気にかかっていたことをリサに聞くことにした。


「なあリサ、もしかしたら山口さんも鈴木さんと同じように…」


「いえ、それはありません。山口さんは正義感の強い人です。裏切るはずがありません…と言いたいところですが、この状況ではどうだかわかりませんね。ですが可能性の域を出ません。信じましょう、山口さんを」


30分ほど歩くと後藤がジェスチャーをして二人に一旦止まるように伝えた。

恐らくこの辺りに山口がいるのだろう。

もしもの事を考えこれまで以上に神経をすり減らし所定の場所まで近づいていく。


木々の茂みを掻き分けて進むと開けた土地に出た。

そして目の前には血だらけで倒れている山口がいた。

息をしているのが見てとれたため生きてはいるが明らかに瀕死の重症だ。

三人は急いで山口のもとまで駆け寄った。


「ごふっ、君たちか、どうしてここが……ああ後藤の能力か」


「山口さん…しゃべらないでください今すぐ治療します」


「必要ない……私はもう死ぬ」


「そんな!」


「本当よ、リサ。私の能力ってね死期が近い人間のことも分かっちゃうのよ。

その傷じゃ今から治療しても助からないわよ」


「将さん!拠点に戻って治療用具を持ってきてください!」


リサの必死の懇願にも将は微動だにせずにいた。

動かない将にしびれを切らしたリサが自分で治療用具を取りに行こうと拠点の方角に走り去ろうとする…が肩を後藤に捕まれ引き戻される。


「後藤さん、どうして!」


「リサ、俺にでもわかる。この人はもう長くない」


「将さんまで……」


「リサ……もういい…最後にお前達に伝えておきたい事がある……敵の事だ」


瀕死の山口がリサをなだめるように決死の力を振り絞り言った。


「私は昨日の夜嫌な予感がしたため高井のいる部屋には誰もいれないでいた……だが、嫌な予感が晴れなかったために外に出て巡回していた、そして敵に遭遇した。敵はリサと同年代の女、大柄の男だ……ぐはっ」


山口は息も絶え絶えになりながらも続ける。


「私はそいつらとやり合ったのだが、女のほうとしか相討ちにすることができなかった……女のほうの能力は分からなかったが、男は恐らく空間系の能力者だ……あいつらは想像以上の力を持っている。雨内を呼べ………」


山口は静かに最後の言葉を口にしたあとこときれた。

死に顔は存外穏やかであった。まるで自分の役目は終わったかのように。


「山口さん………ありがとうございました……」


その後山口の遺体を三人がかりで土に埋めた。

そしてリサが唐突に口を開く。


「さあ、いきますよ!」

「どこに……」


将の当然の疑問に後藤がリサを代弁して答えた。


「雨内のところよ」


将は雨内とは山口がこときれる寸前口にした者の事だと思い出した。

わざわざ名前を出したのだ。

恐らくはこの窮地を挽回できるほどの力を持った人物なのだろう。

将は期待と不安を胸に込めリサのあとについていった。




◇◇◇◇◇




将達は現在海岸にいた。

拠点のある山から五時間ほど車で走行したところにある辺鄙な海岸だ。いや、海岸と言うよりかは突出した崖の上といった方が正しい。

そして目の前には大きな別荘が立っていた。


リサは玄関に備え付けられていたチャイムを押し家主へ来訪を伝える。

しばらくするとどたばたと階段をかけおりるおとが聞こえてきた。

そして音の主が玄関の前に到着しガチャリと扉を開けた。

顔を出したのは小柄な老婆であった。


「あらあら、リサ様、後藤様、お待ちしておりました。さぁ、どうぞ中へお坊っちゃまがお待ちです」


「お久しぶりです」


どうやらリサと後藤はこの老婆と顔見知りらしい事がうかがえる。

老婆は将の方を向き顔をしかめた。


「リサ様、このかたは?」


「ええ、それも含めて説明しますのでまずは中に入らせていただきます」


三人は順々に別荘の中へ入っていった。

そして老婆の案内に従って階段を上り、やがてある部屋の前で立ち止まった。恐らくこの部屋に問題の雨内という男がいるのだろうとなんとなく予想がついた。


「将さん、その、少し先に言っておきたいのですが……今から会う雨内さんという人は少し変わっているので、色々と気を付けてください」


「あ、ああ。リサがそこまでいうのなら相当変わってるんだろうな。わかった気を付けるよ」


ドアが中から開いた。

目の前に立っていたのは髪の毛を短く切り揃えてはいるがボサボサであるため清潔感がなく、顔は整ってはいるが、その雰囲気から少しだらしのない感じがする男であった。




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