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H & H   作者: ふーふ
8/11

8話

今現在将達はとある山奥の古寺にやって来ていた。

ことの発端は一日前までさかのぼる。


鈴木が殺された現場を調べ終えたリサと将は拠点に戻った。

戻ってきた将達を見て仲間の男がこう伝えた。


「おう、お前ら戻ってきたか。広間に集まれ。もう皆集まってるぞ」


何事かと思ったが男に従い昨日の広間まで男についていった。

広間につくと昨日と同じように約30人くらいの老若男女が集まっていた。

広間の前の方にいた男、将達に声をかけた男とは別の男が将達が来たのを確認し、広間の奥まで聞こえるような声量で説明し始めた。


「知っての通り、我々の仲間であるみどりさんと鈴木が何者かに殺された。とは言っても鈴木は裏切り者だったわけだが……。みどりさんがこの屋敷内で殺されたということは敵はもう既に我々のアジトの場所を把握しているというわけだ。

なぜみどりさんだけが殺され、他の仲間達は殺されなかったのか分からないが重要なことは我々の拠点がもう既に把握されているということだけだ」


辺りがざわざわとし始めた。

将の耳に「まさか、鈴木が……」という言葉が聞こえてきた。

他の話している内容もそれに準じた内容だったのでこの広間内に鈴木が裏切り者であったことを知らなかった者達がそれなりにいるのだろう。


男は話を続ける。


「もうこの拠点は使えない。そのため新たな拠点に移動しようと思う。

我らが次に拠点にする場所はここだ」


男がそう言って壁に初めからかけてあった地図に指を指す。

山地しかないところに指をさしていた。

どうやら次の拠点とやらは山中のようだ。


「さて、この拠点への移動方法だが、三人ごとのグループにわかれ移動してもらうことにする。大人数で動くと敵にどうぞ見つけてくださいと言っているようなものだからな。

少人数で拠点まで移動することによって相手の動きを抑えることができるというのが主な理由だ。

さて、今からその三人組のグループを言っていく」


バインダーを見ながら男がグループの構成員を言っていく。

丁度30人いるために10グループ出来上がる計算だ。

そして9グループ目の名前を呼び終わった男が将の方へ顔を向けてきた。


「勝木は後藤とリサの三人組で移動するように。後藤の能力があれば十分安全に拠点まで移動できるだろう」


男がそう言った。


「そういうことよ。よろしくね将きゅん。あなたの身の安全は私とリサが守ってあげるわ」


「こちらこそよろしくお願いします」


いつの間にか後藤がそばにいたようだ。

後藤が握手を求めてきたため将もそれに応じて握手をする。

何かこそばゆさを感じた。

 

「微力ながら私も将さんの安全に尽力します」


元々そばにいたリサも後藤に呼応するようにそう言った。


「各自すぐさま出発できるように準備するように!」


その声を皮切りに回りがそれぞれ自分かするべきことを始めた。

それぞれがすぐさま部屋を出ていった。

この拠点はもう使わないために置いていた私物などを取りに行ったと思われる。


なお、屋敷においてある私物は家具などの大きいものは処分しできるだけ小さいものだけ持ってっていいのだということを先ほどリサに言われた。

もちろん勝はまだこの屋敷に来て一日目であるため私物などは全く置いていない。

ちなみに屋敷から出る際は同時に出てバラバラの方向で出発するらしい。

これも相手に次の拠点を探らせないための予防策だそうだ。


「さあ、私達も準備を始めるわよ。私はちょっと部屋からいろいろ持ち出したいものがあるから少し時間がかかるからちょっと待っててね」


後藤は準備がまだ完全に終わっていなかったらしく自分の部屋に戻っていった。

リサに準備は大丈夫なのかと聞いたところ、もう既に終わっていたらしく後藤を待つだけになった。

ただ待っているのもどうかと思った勝はリサにこんな話をふった。


「後藤さんってどんな能力を持ってるんだ?」


「後藤さんの能力ですか? 彼の能力はただ単純に聴力を基準の何倍までも高めることができるという能力です」 


「ん?耳がよく聞こえるようになるって言うことか?」


「はい、その認識で間違いないかと。後藤さんから直接聞いた話ですが、後藤さんを中心に半径10キロほどの範囲で生じた音という音は全て聞き取ることができるようです」


「それは…すごいな…」


そこまでの音が拾えるのであれば脳への情報量が膨大なものになり、脳への負担が甚大なものになるだろう。

そんな将の考えに答えるようにリサが続けて言う。


「しかし、この能力には大きなデメリットがあります。脳への負担が比にならないために一、二分程度しか能力が発動できないというところです。ですが間隔をあければ一日に何回も使えるらしいのでなかなか使い勝手のいい能力らしいですよ」


勝はとあることを思い出した。

みおに化けていた女に襲われた日に老婆がみおに向かっていっていた言葉を。


「確か、みおに襲われた時にみどりさんがリサに後藤さんが気づいたから助けに来れたみたいな事を言っていたけどそれが後藤さんの能力ってことか」


後々になって気づいたことだが老婆の名前はみどりと言うらしい。


「ええ、そうですよ。後藤さんは一日の内の決められた時間に何か異常がないか能力を使って探ってるんですよ。丁度能力を使っているときに私が闘っている音が拾えたのでしょう」


「私の話をしてるのかしら~ん」


後藤が将とリサの間にニュッと顔を出した。

もう既に準備が終わったようだ。


「お待たせしちゃってごめんなさいね。さて、行くわよ」


後藤がやって来たため玄関に行くことにした。

玄関に着くともう既に全員集まっていたようだ。

先ほど大広間で皆に向けて話していた男が将達を来たのを確認した折り口を開いた。


「よし、全員集まったようだな。では、いくぞ」


少し緊張をはらんだ声でそう言った。

見ると他の面々も多少緊張しているように見えた。

拠点を変えるなど中々なかったことがこの様子から伺えた。


屋敷の前には大量の車が用意してあった。

公共機関を使うと敵が襲ってきた時などに民間人が被害を受ける可能性があるためにこのような形で移動するらしい。

老婆がいれば老婆の能力でいつも拠点を楽に変える事ができていたそうだが、老婆はもはやいない。

今までなかった移動形態のために彼らも困惑を隠しきれないでいた。

ヘリコプターで移動するという案もあるにはあったが、空中で襲撃を受けると厄介なことになるために却下されたらしいと、リサが言っていた。


将含めた3人は屋敷前に羅列された車の1台に乗り込んだ。

リサが運転するらしく運転席。

後藤と将は後部座席に座った。

この采配は後藤の能力を十二分に生かすためらしい。

後藤が運転すると能力を発動できず敵が迫ってきていたとしても察知できないためこうなったらしい。

正直リサが運転できることに驚いたが、いささか能力云々よりはあり得る話のためにそこまでの驚きはなかった。


現在午前5時59分であるために丁度いい区切りである6時に出発するということを車に乗る前に説明を受けた。

この朝方というのも移動しやすい時間帯だ。

例え、町中で襲撃を受けたとしても一般住民に見られる確率が大幅に減る。

最も朝早くに出勤するサラリーマンや学生などには見られる可能性もあるがそこは運頼みでしかない。

最悪能力を使ってその時の記憶を消去すればいいという少しばかり傲慢な行為を行使すれば問題はない。



6時になった。

リサがエンジンをかけ車が出発した。

将達は北東の方角から拠点に行くことに決めた。

拠点まで少し遠回りすることになるが拠点は北西の方角にあるためにそこまでの手間がかからないだろうと予測できる。


ふと将は思った。

鈴木という男が死んだ現在屋敷は外から丸見えの状態だが近隣住民はそれを見たときどう思うだろうかと。

その疑問を後藤に聞いてたが問題ないという。

後藤が言うにはもう既に近隣住民にはもう既に前からそこには屋敷があったという記憶を植え付けたらしい。 

あくまでも人を助けるということを生業とする組織がそのような洗脳じみた事をやることに少しばかりの違和感を感じたが、これも人知れず人々を救うという目的には合致している行為のためそういうものなのだと思うことにした。




◇◇◇◇◇




「止まりますよ」


リサが宣言通り車を止めた。

場所はコンビニの駐車場だ。

将達は10分おきにこのようにして車を空いているスペースに駐車しながら進んでいた。

この止まったタイミングで後藤が能力を発動して10キロ圏内の音を拾い、怪しい者がいないかを調べているのだ。

後藤の能力は消費が激しいために10分おきにしか使えないためにこのように酷く効率の悪い進み方を選ばなければいけないのだ。


そして、車に揺れられること約一時間。

目的の山が見えてきた。

運のいいことに襲撃者はいなかったために将は胸を撫で下ろした。

が、まだ油断はしてはいけないと心に留めておく。

いつなんどき襲撃をうけるか分からないのだ。

警戒しておくにこしたことはない。


そのまま山道を車で走行していく。

そして30分ほど車で山道を走行しているとリサが車を止めた。

そしてドアを開け外に出た。


「さあ、ここからは歩きますよ」


舗装など一切されていない山を指差しそういった。

今からこの山を登るのかと思うと辟易してきた。


「行くわよ、将きゅん」


「はい……」




◇◇◇◇◇




「やっと…着いた……」

「お疲れ様です」

「はひー、久々にこんなに汗かいちゃったわ」


三人は口々に言った。

彼らの目の前には大きな古寺があった。

これが新しい彼らの拠点だ。


古寺に入ると何人かがもうすでに到着しているようで玄関には靴がいくつも並べられていた。

寺の中をリサに続いて歩いていくと仏壇が置かれている部屋で立ち止まったため、それに追従していた二人もそこで止まった。

リサが仏壇の前まで歩いていく。

そして仏像の首をあろうことか180度回したのだ。

すると不思議なことに部屋全体がゴゴゴと音をたて始めた。


そして音がおさまったと思ったら先ほどリサが首を回した仏像の前にいつの間にか地下まで続く階段が現れていた。

リサがその階段を下り始めたためリサに倣って将も下りてみることにする。


階段を下り辺りを見ると石で作られた壁が四方を囲んでいた。

そしてその壁にはいくつもの木製のドアらしきあった。

リサがそのうちの一つを開ける。

すると中には先に到着していたと思われる者達がいた。


「皆さん、無事でしたか?」


リサが開口一番先に来ていた面々に安否の確認をした。


「ああ、俺らは敵には襲われなかったぜ。俺ら以外のチームも襲われなかったらしい」


扉のすぐそばにいた男がリサの問に答えた。


「そうですか、良かった」


リサが安堵の表情でそう呟いた。


「だが、まだ石田達が到着してないんだ、もしかしたら……」


石田というのは元々の拠点の広間で皆をまとめ指揮していた者の事だ。

彼はこの組織の副リーダーの地位についている。


「敵に襲われているかもしれない……ということですね」


「ああ、だが俺たち助けにもいけずここにいるしかない……歯がゆいがな」


拠点を変えるに当たって今助けにいけばすべて水の泡だ。

何かのほころびからこの場所がばれてしまうかもしれない。

そんな危険をおかしてまで助けにいくのは愚の骨頂だ。


「リサ……俺達がここに来た時に乗ってきた車はどうするんだ?置きっぱなしだったらいい目印になって敵に見つかりやすくなったりするんじゃないのか?」


山を登っている最中から気になっていたことだ。

もしかしたらその事に気がついていないかもしれないと思い聞いてみることにした。


「心配なさらずとも仲間の中に物を透明にさせる能力を持っている人がいるんですよ。その力を使って車などの足がつきそうなものは透明にして見えないようにしてあるんですよ。まあ、人に対してその能力はと使えないのですが……」


「おいおい、何俺の話をしてんだよ」


小太りの男が笑いながらやって来た。

どうやら例の物を透明にする能力を持っている者らしい。


「知念さん」


「おお、リサちゃん無事に辿り着けたみたいだな。良かった良かった」


「知念さんこそご無事で」


「まだ石田のところが来てないんだって?心配だな~」


「ええ、ですが私たちにはできることはほぼないので…」


「まっ、それもそっか。何より石田は強いから生半可な相手じゃ傷一つつけれんだろ。グッハハハ」


知念が豪快に笑った。

一通りのやり取りを終えた知念が将の方へ顔を向ける。


「勝木くん、俺達が君を最大限サポートするから大船に乗ったつもりでいてくれ」


「知念さん、よろしくお願いします」


「おう!」


言いたいことは言ったとばかりに知念は去っていった。


「彼ら、いえこの組織に所属する皆は師匠に救われた人達なんです。私もそのうちの一人です」


「みどりさんが?」


「ええ、私達は元々孤児で行き場を失っていた所を師匠に助けていただいたんです。」


孤児だった理由にはなんとなく察しがつく。

生まれた時から何らかの能力が発動した結果だろう。


「ですから皆恩返ししたいと思って師匠の意思を尊重してるんですよ」


胸に刺さっていたとげが落ちた気分だ。

いくら人助けをするために組織された団体だったとしてもここまで命をかけてできるものだろうかと思っていた。

だがそれは違った。

他人のためではなくみどりという一人の人間に恩返ししたいと思った感情が生まれた結果みどりの目標である人助けに結び付いた、それだけだったのだ。



◇◇◇◇◇




突如地下室全体が動いた。

将達がこの地下室に入ってくるときと同じ様に地上から地下室へ誰かがやって来たのだろう。


「石田さん達が帰ってきたのかもしれません。行ってみましょう」


「こんなに遅かったということは何かあったのかもしれない」


二人は出迎えに地下室へつながる階段のところまでやって来た。

だが誰も来ない。

確かに地上と地下室の境はなくなっており出入りできる状態だ。


リサが不審に思い地上に様子を見に行こうとする。

そして一段、二段、三段と上がっていったその瞬間、ドタッと何かが倒れる音がした。

音は地上の仏壇のすぐそばから聞こえてきた。

リサは音を聞くやいなやすぐさま階段をかけ上り地上へ向かった。


「将さん! 皆さんを呼んできてください! 早くっ!」


鬼気迫る声音で言われた将はすぐさま部屋にいた者達を呼んでこようとしたが、

リサの尋常ではない叫び声を聞き付けた者達が何事かと思いもう既に集まっていた。


「皆さん!早くっ!」


これはただ事ではないと思ったため階段を上り地上へ向かう。

地上に出た面々は


「これはっ!」

「おい高井っ、大丈夫か!」

「包帯、ありったけの救命具持ってこい!」



目の前にはおびただしい血の上に倒れている男の姿があった。



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