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H & H   作者: ふーふ
6/11

6話


目の前に広がっていたのは武家屋敷のような外観の大きな建物だった。


移動する前に老婆が指をならしたことを鑑みればおそらくこれは老婆によるものだろう、と将は推測した。

まだ能力云々はよくわかっていないが、将は考えるのをやめただ受け入れることにしていた。


周りを見渡して分かったことだが、この建物は精悍な住宅街に囲まれる形で鎮座していた。

ふと不思議に思う。

ここら辺一帯は通学路でよく通っていたがこんな建物はあったか、と。

これもまた能力によるものなのかもしれないと思ったが、考え出すときりがないためこれもまた気にしないことにした。


「将さん、こちらですよ。」


見ると屋敷の玄関前でリサが手招きをしていた。

手招きに応じ玄関前に歩いていく。

将が来るのを待っていた老婆が玄関を開けた。


「お~い、帰ったじょ~」


老婆が大声で帰宅を告げた。

しばらく待っているとパタパタパタと廊下を小走りで走る音が聞こえてきた。

老婆の声を聞きつけ誰か来たのだろう。

やって来たのはサングラスをかけた短髪の男だった。


「あら~ん、お婆ちゃま戻ってきたのね~。リサ~無事だったのね~ん、良かったわ~ん」


「後藤さんありがとうございました。後藤さんがいなければ…」


「いいのよ~ん。リサ、私たち仲間じゃないのよ。」


後藤と呼ばれた男が将の方へ視線を向けた。


「あらあらあらあら、もしかしてこの子」


後藤が老婆へ確認するようにして目配せする。


「ああ、そうじゃよ」


老婆は面倒くさそうに返答した。

後藤が目をキラキラと輝かせ将へすり寄っていく。


「あなたが勝木将くんなのね~ん。実物はもっとイケメンね~。会いたかったわ~ん」


将がたじたじになりながら会釈をした。

いかんせん将にとってははじめてのタイプなため、うまく対応できなかった。

後藤がふと不思議そうな顔になった。

それから手で数を数える仕草をして、やはり不思議そうな顔をした。


「一人足りないわね。みおはどうしたのよ?」


「それを含めて全て説明する。後藤皆を広間に集めるのじゃ」


後藤が真剣な顔になった。

何かとてつもない事が起きたと察したようだ。


「ん、わかったわ」




場面は広間に移る。


広間には約30人もの男女が集まっていた。年はそれぞれだが、中には小学生程度の子供も混ざっていた。 

将、老婆、リサはその30人もの前に立ち30人全員を見据えていた。

屋敷にいる全ての人間が来たのを確認した老婆が口を開く。


「忙しいところ集まってもらって済まない皆。まずお主らに言っておきたいことが2つある」 


老婆はゆっくり呼吸した。

その行為そのものが今から言葉にする内容を体現しているのような重い動作だった。

将の目の前には真剣な目で老婆を見つめる30人の目があった。心なしか将自信も緊張してくるようであった。

そして老婆は言った。


「まずは救世主が何者かに襲われた。それが意味することはただ一つ。救世主の存在があちら側にばれたということじゃ」


30人全員の視線が将に注がれた。

今はそんな悠長なことを感じている余裕はないが、こそばゆさを感じた。

空気が又一段と重くなった気がする。

殺気だとか気配だとかいうものを全くわからない将にでも感じることができるほどであった。


「そして二つ目、みおが何者かに殺された。おそらく今日のどこかの時間帯で殺されたのじゃろう。敵はみおに化けていたのじゃが昨日は何も変わったことはない至って普通のみおじゃったからな。」


今まで十分に重かった空気がさらに重くなった。

濃密な怒気が辺り一面を支配した。

この場にいる全員が怒っているのだ。

みおを殺した者に。仲間が殺されたにも関わらずに一矢報いれなかった自分の不甲斐なさに。

将の頬に冷や汗が垂れた。

恐らくはリサと同等それ以上の強者たちだ。その怒りの渦の中にいる将はもはやたまったものではなかった。

玄関先であったばかりの後藤も怒りを隠しきれずに壁を殴っているのが伺えたほどだ。


「お主ら、落ち着かんか!救世主が怯えておるわ!」


老婆の声で若干怒りをはらんだ空気は薄れたがまだそれでも将を恐れさせるには十分であった。


「将とやら、すまんな。こやつらはちと血気盛んなんじゃ。仲間が殺されたときはいつもこうなんじゃ」


老婆はそう将に向かって呟いた。

そして前方へ向き直り


「お主らに役目を与える! 一つはこの勝木将の可能な限りのサポート。二つはみおを殺したものの調査じゃ! 恐らくはみおを殺したものはこの勝木将を狙っていたことから予言の世界を滅ぼすものたちかと思われる。そやつらにはこの小僧を殺す理由があるからのぉ。一筋縄ではいかんじゃろおがお主らなら出来ると思っておる、各自厳戒態勢で事に挑むように」


「「「了解!!」」」


そして広間内にいた者たちは解散しそれぞれの場所に戻っていく。

全員が広間から出ていったのを確認した老婆はリサに耳打ちをした。 


「儂らの身内の中に相手側のスパイが紛れ込んどるかもしれん。リサ、頼めるか?」


リサは無言で頷いた。


「さて、お主に色々と話さなければいかんのじゃったのお。ここじゃ広すぎる。儂の部屋に行くぞい」


「はい……」


老婆はこの屋敷へ来る前と同じ様に指をパチッと鳴らした。

予想通りに場面が変わり小部屋に移動していた。



先ほどとはうって変わり小部屋で老婆は説明を始めた。この部屋にはリサと老婆と将しかいなかった。

老婆がため息をついた。


「そうじゃなあ。まず何から話そうかのぉ……まずは能力について話すとしようかの」


将が唾を飲み込む。

この話を聞けばもう元の生活には戻ることができないかもしれない。

この世界に片足を突っ込めばどうなるかもわからない。

そんな不安が将の心の大部分を占めていた。

だが、聞かなければ前には進めない。

将は老婆に話の続きを促した。


「この世にはまれに人とは違う力を持ちながら生を受けるものがおる。お主くらいの年頃なら超能力と言った方が分かりやすいかもしれんの」


老婆はポリポリと頬をかきさらに話を続ける。


「そして不思議なことに能力は誰一人として同じ者はおらん。この能力は強力なものになれば人を殺せる能力も存在するのじゃ。そしてその能力を悪用する者達も必ずおる。恐らくお主を襲ったのもそちら側の人間じゃろうて」


将の脳内にみおの皮をかぶった女が思い起こされる。

今にも胸が張り裂けそうだ。

老婆はお構いなしに話を続ける。


「逆に儂達は能力を使って人助けに役立てておるのじゃ。能力を持って生まれたからには誰かの役にたてたいしのう。もちろん能力をいいように使い悪事を働くあやつらとは敵対関係を持っておる。じゃから儂らはあやつらから何かと恨まれておるのじゃ。能力についてはこれくらいじゃの」


喋りに一区切りついた老婆は肩が凝ったのか肩をグルングルンと回した。


「さて、次はお主のことについてじゃ」


将は身構えた。

もし自分が能力などという訳のわからない偶然の産物を持っていなければみおは死なずこんな訳のわからない状況に放り出されもしていなかった。

将は自分の運命を呪った。

動機の鼓動が早くなってきたのが自分でも感じ取れる。恐らく顔は汗でびっしょりだろう。

老婆が話し始めた。


「儂らの身内に大まかな未来を見ることができるやつがおるのじゃが、こいつが18年前……つまりお主が生まれる1年前に勝木将という少年が世界を救うというヴィジョンを見たのじゃ。もちろんあやつの未来視の的中率は100パーセントじゃ」


「俺が……世界を救う……」


荒唐無稽な話だ。スケールが大きすぎる。

まるで予想もしてなかった事実に将は圧迫間で胸が押し潰されそうになっていた。


「が…いかんせんそいつの能力は大雑把で具体的な内容は全くわからないのじゃ。勝木将という存在が世界を救うということ以外はま~ったく分からない状態で18年たってしまったのじゃ」 


老婆1拍おいた。


「そして不思議なことにお主が生まれた日からあやつの未来視が全く機能しなくなったのじゃ。話を聞けばお主以外についての未来を見る分には問題ないのじゃがお主の未来を予知すると暗闇しか見えないらしいのじゃ。普通ならお主を幼少の頃より我々の所へ引き入れておけば良かったのじゃがいかんせん不明瞭な点が多すぎてリサとみおの二人に護衛をさせて様子見をしておったということなのじゃ」


将はリサに確認の意味を込めて顔を向ける。リサは頷いた。

それと同時に寂しさも感じた。

今まで確かに紡いできたと思っていた友情が結局は守る義務を持つ者と守られる者という関係でしかなかったことに。


「そう…なのか…」


言い様の知れぬ空虚感に引っ張られ声も次第に暗くなっていった。 


「将さん、今まで隠してきて申し訳ありません」


リサが申し訳なさそうに首を下げ謝った。


「リサ……」


リサと将の間に気まずい雰囲気が流れた。


「さて、これで大方の説明は終わったわけじゃが他に何か質問はあるかの」


空気を入れ替えるように老婆が言った。


「ありません……」


将は説明されたことに対する動揺含め様々な感情から質問すら考えれないでいた。

将の内心の感情を見越してか 


「ふむ、そうかの。また、何か分からないことがあればリサに聞くんじゃな」


そう口にして老婆は部屋から出ていった。

現在部屋の中には将とリサしかいない。

おそらく気を利かせて部屋から退出したのだろうが、今はその優しさが心に染みる。 


「将さん、今私達の紡いできた絆が実は義務の間柄によってできた仮初めのものだったと思っているのでしょう?」


リサに内心を当てられ咄嗟(とっさ)の言葉につまる。

リサが続ける。 


「将さんが思っているように最初は義務感のみで関係を持っていました。みおはどうだったのか分かりませんが、恐らくみおも私と似たようなものでしょう。ですが、段々と将さんと付き合っていくうちに絆…と言いますかそのようなものが芽生えていったように感じます。なので将さんが心配なさっていることは全くのあてずっぽうということです」


「でもっ!でも、俺に一言言ってくれても良かったじゃないか!俺だけ除け者か!」


感情が抑えきれずに怒鳴ってしまった。


「将さんに余計な心配をかけさせたくなかったのです……申し訳ありません」 


リサがまた再度頭を下げた。


「分かってる、分かってるんだ。だけど色々と一度に起こりすぎて感情の整理がつかないんだ」


「みおが死んだことを自分のせいだとでも思っていらっしゃるのですか?」


またもや心の内を当てられ、内心どぎまぎする。

改めて言葉にすると胸が締め付けられるように痛む。

リサがそんな将を見かねてか諭すように語り始める。


「はっきり言っておきますが、将さんのその感情は全くの無意味極まりないものです。

既に死んでしまった人間が悲しむことで報われはしませんし、生き返りもしません。将さんが自分自身を責め続けるのは全くのお門違いなのです。

みおはあなたを守ろうとして敵と闘って死んだ、そこのどこに悲しむ余地があるというのですか。

みおは悲しまれたいと思って死んだのではありませんし、将さんに将さん自身を責め続けほしくて死んだのでもありません。

本当にあなたがみおのことを思っているのであれば他にやることがあるでしょう。

勝木将、前を向きなさい!そしてみおの死を受け入れ前に進むのです!!」


悲しむことでみおへの贖罪になると心のどこかで思っていた浅はかな自分自身にリサの言葉によって気づかされた。

みおは最後まで自分の役割を貫いて死んでいったのだ。

みおが死んだのは自分のせいだと悔やむのはみおへの侮辱になるのではないか。

そんなことですら考え付かなかった自分の馬鹿さ加減に呆れる。


そして思った。

みおの死を受け入れ前に進んでいくしかないと。

それが死んでいったみおに対してできる唯一のことだと。

将の心にはびこっていた悔恨、葛藤含めたもろもろの感情が嘘であったかのように根こそぎどこかに消えていった。


「リサ、ありがとう。吹っ切れたよ。これからは、いいや、今から俺は前だけを見て進んでいくよ!」


将の言葉にリサはこれ以上無い程に満足げに頷いた。


「さて、今日は遅いですしここに泊まっていかれてはどうですか?」


「そうだな、お言葉に甘えて泊まらせてもらうことにするよ」


将はリサにつれられ来客用の部屋まで案内してもらった。


「では、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


将は床につきすぐさま夢の中に落ちていった。


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