4話
「リ、リサ、終わったのか?」
「ええ、終わりました。ですのでそんなにビクビクせずともよろしいですよ」
「リサ、あの女は何なんだ!? みおはどうなったんだ!? 能力って何なんだよ! 一体お前は俺に何を隠してる!」
将はこの永久とも言える濃密な時間に起きた説明のしようのない事象を、意味のわからない気持ち悪さをリサに怒鳴ることで払拭しようとしていたのかもしれない。
彼はこの言い様のない不気味な不安を抱きながらリサの方へ顔を向けた。
心臓の鼓動がうるさい。
「将さん、落ち着いてください。話しはまずはそれからです」
リサに言われたことで将は今更ながらに自分の今の精神状態が正常ではないということに気づいた。
気づかせてくれて良かった。今のままではリサに何をするか分かったものではなかった。
「あ…ああ、そうだな話はまずそれから…」
しばらく将は頭のなかに止めどなく流れてくる情報を遮断し、目をつむった。
心臓の鼓動が少し収まったのがわかった。
「落ち着きましたか?」
目を開けると、リサが顔を覗きこんでいた。
「ああ、ありがとう。落ち着いたよ」
将は息を大きく吸い込み吐き出した。
これからリサから告げられる言葉は恐ろしいものだろう。それを聞くだけで恐ろしさで動けなくなるかもしれない。だが、将には事件の当事者として、そして友のために聞かなければいけない理由があった。
「あの女は何者なんだ?」
「それは今から調べます」
「そうか……そうだよな…じゃ、じゃあ能力って何だよ?」
「それは後から説明します。今この場で説明しても長くなるだけですし、場を整えて改めて説明します」
「そ、そうか。じゃあ次の質問だ……」
またもや心臓の鼓動がうるさくなってきた。
大丈夫だ。落ち着け。心の中で自分を律し心を落ち着ける。
次の質問の答えを想像するだけで胸が痛くなる。
覚悟を決める。
「リサ、み、みおはどうなったんだ……」
答えは半ば確信している。
答えを聞く恐怖で声がうまく発声できなかった。
将は上目づかいに何かを懇願するようにリサを見た。
「ええ、もうすでに死んでいるのでしょうね。あれは、みおの皮を被った別人です」
リサの言い方に怒りを覚えた。
まるでみおをなんとも思っていない様な言い方ではないか。将は言い様の知れぬやるせなさと明確な怒りを感じた。
「リサ! おま…え………」
怒気に身を任せリサを罵倒しようとした。
だが続かなかった。
将の目には小刻みに震えるリサの手が映っていた。
リサはみおが死んだ悲しみを将だけには見せまいと気丈に振る舞っているふりをしていただけなのだ。
将は悔やんだ。そんなことも見抜けずに怒りのままにリサを罵倒しようとしていた自分に腹が立った。
みおの死を悲しむことで自分自身の心を守ろうとしていた自分に嫌気がさした。
考えてみれば将よりもリサとみおは付き合いが長いのだ。
「リサ……」
言葉がでない。
「将さん、お気遣いありがとうございます………」
リサが突然パンッと自らの頬を両手で叩いた。
そして暗い雰囲気を払拭するように努めて明るく
「さあ、あの女の衣服を調べてみましょう! なぜ将さんのことを狙ったのか、何者なのか、なにか分かるかも知れませんよ」
リサが小走りで女の方へ走っていく。
将も暗い足取りで倒れている女の所へ向かっていく。
「取り立てて別段変わったものはないですね…あるとしても戦闘に使用していたおびただしい数のククリナイフだけです」
たとえ別人だったとしても幼馴染みが死んだ姿を見るのは精神的に辛い。
将は視線を倒れている女から少しそらした。
「あっ…」
なにか今一瞬違和感を感じた。
「どうしました?」
「いや、何でもない」
さっきがさっきなためリサにそっけない態度をとってしまった。
だがなぜだ? そっけない態度をとってしまったこと以上に何か心のなかのモヤモヤが晴れない。
何を違和感に思ったのか。この違和感が何か重要な意味を帯びているのではないか。
違和感を見つけるため、自分の感覚を再統合する。
そしてしばらくして気付いた。
倒れている女の右手の指が四本しかないことに。
小指が欠けていることに。それも欠けたのではなくつけ忘れたかのように不自然な形だ。
その瞬間、目が覚めた。