11話
将達は現在駅前のショッピングセンターに来ていた。
地方都市である彼らの居住区では遊び場といったらここを含めてあと数ヶ所と限定されているものであった。
現に見渡せば見知った顔がちらほら見受けられる。
ちなみに結果的に10人ものクラスメイトたちと来ることになっていた。
「将~どこ行く~?」
将に付き添っていたクラスの男子生徒が将に向かって言った。
「うーん、そうだな……」
「なるべく見通しのよいところがいいかと」
リサが将にしか聞こえない声で言った。
確かにそうだな、と将は思った。
見渡しのいいところでないと後藤や雨内が十分に将の身の安全、敵の存在を察知できない。
戦略的に考えるのであれば見渡しのいいところが妥当である。
将は少し考えリサの提案通りにすることにした。
将はショッピングセンターに隣接するカフェを指差し
「そこのカフェで一杯お茶でもどうかな?」
「いいね~私たちも買い物って言うよりかは落ち着きたい気分だったんだよね~」
「それな~」
将の提案にクラスメイト達が了承した。
早速将達はカフェに行き人数分のメニューを注文し席についた。
席はオープンスペースにし、外からも十二分に把握できるような配慮をした。
この席であれば何かあっても雨内も後藤もすぐに対処できるだろう。
◇◇◇
100メートルほど離れたビルの屋上から将達を除く影があった。
誰であろう雨内である。
彼は双眼鏡を覗きながら、
「あんな子、いたっけな~……まっ、いいか!」
彼は気色の悪い笑みを浮かべながらそう呟いた。
まるでおもちゃを与えられた子供が浮かべるような笑顔だが、それと同時に歪でもあった。
「さてさて、僕の能力は彼らにうまい具合に効いてるようだし、これで敵さんも登場したら最高なんだけどな~」
これから起こりうるであろう事を想像しただけでも心のワクワクが止まらない。
そのためにわざわざ彼らに能力をかけ、人通りの多い駅前のショッピングセンターなどに誘導したのだから。
「本当にバカばっかりなんだから、僕を完璧に信用しちゃって、プププ。
まあ、それもこれも僕の能力を使った結果なんだけどね。ああ、楽しみだ。果たして今回の敵は僕の切り札を使うに足る存在なのか。ああ、考えるだけでゾクゾクしちゃうよ」
◇◇◇
カフェに入ってから小一時間ほど過ぎた。
「さて、コーヒーも飲み終えた事だし…」
「ああ、そうだなぼちぼち帰ることにするか」
「ええ~、もっと遊ぼうよ~」
「もう暗いし、テストも近いしここら辺で帰ろうぜ」
将たちはもう十分だと思ったため帰ることにした。
会計を済ませカフェの外に出た。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
少し日が指す程度だ。
襲ってくるのであればこのような時間帯なんだろうな、将は思った。
現にリサも相当警戒しているようだ。
◇◇◇
動き出す影がいた。
将達にとって一番来てほしくない存在が。
「あはっ、行こっか」
女の言葉に男は無言で首を縦に降った。
◇◇◇
将達が外に出てから少したった折り、
ショッピングセンターを含む広範囲が辺り一面黒に染まった。
半円球場に黒い何かに覆われた。
まるで何かに閉じ込められたみたいだ。
ドサッ、
付近にいた人々はいきなり地面に倒れ始めた。
将たちと共に来たクラスメイト達も同様に倒れていた。
「リサっ! これは!」
「ええ、敵です!将さん、構えて! いつどこから敵が襲ってくるかわかりません」
「ああ」
ふと将は気づいた、安藤優がいないことに。
将は焦った。
今すぐ探しにいこうとしたが、当然リサに止められた。
「だめです、今迂闊に動けば敵の思う壺です」
「でも、優がっ!」
突如、目の前に小柄な女と大柄な男が空から落ちてきた。そして地面にふわりと着地した。
間違いない、将は確信した。
こいつらが敵だ。
「初めまして、勝木将くん。先輩から色々聞いてるよ~」
「先輩だと?」
「みおちゃん先輩のことだよ~、忘れちゃった?」
タンっ
将は足に力を込め敵のもとまで超速力で移動、そして思い切り女を殴り付けた。
「お前がその名前を呼ぶな!」
明確に怒りを感じさせる声音で将は怒鳴った。
みおという名前は将の幼馴染みだった存在にしか許されない名前だ。
例え同じ顔をしていると言ってもまるで中身は別物。
あんなにいびつな存在にみおという名前を使われることに強い憤りを感じた。
女は将の拳を二振りの日本刀を交差させる形で防いでいた。
「怒っちゃや~よ~」
将の渾身の一撃を防いだ女に、一筋縄では行かないと気を引き締め直し、女と向かい合った。
「リサ! そっちの男を頼む!俺はこの女をぶったおすことに専念する!」
「ええ、分かりました。やってしまってください!」
将はまたもや渾身の拳を女にお見舞いした。
女は上に避けた。
将はそれに続けて、蹴りを放つ。
だが、女は持っていた日本刀を地面に突き立てまるで高跳びのように難なく将の攻撃を避けた。
「ど素人ですね~。そんなので私とやりあうつもりですか~?」
将は女の言葉に耳を貸さずにまたもや拳を放つ。
だが、またもや避けられてしまった。
そして今まで防御一色だった女が将の体に日本刀を一閃、そして続けざまにもう一閃。
「ぐあっ!」
ひどい激痛が走った。
胸にクロスした傷がついた。
骨までは届いていないが相当深い傷をつけられてしまった。
「あっ、お隣はもう勝負がついたようですよ~」
「なんだと……」
女の目線の先を見るとそこにはリサはなく大男しか立っていなかった。
「そんな……リサは…」
「残念、やられちゃったみたいだね」
「うおお!!!」
怒りのままに女と男を拳で殴った。
男は10メートルほど吹き飛び、女は日本刀をクロスさせて防いでいた。
「お前ら、許さねぇ!」
「おや? ちょっと、スピードとパワーが上がったようだね。これで少しは楽しめそうかな、かな」
「うあああ」
将は地面を思い切り蹴り女に迫る。
女は拳の連撃を紙一重で避けている。
最小限の動きで、だ。
この事からも将は目の前の女と今の自分には大きな隔たりがあることを感じ取れていた。
呆れたように女は言う。
「全く、やっぱり体術はど素人だね」
「くっ! なぜ当たらない!」
「だ~か~ら~、君の動きは単調すぎて読みやすいんだってっ!」
将の右脇腹に衝撃が走った。
女の蹴りがヒットしたのだ。
受け止めきれなかった将はそのまま、壁に叩きつけられた。
「ぐっ……」
あまりの力量の差に手も足も出ない。
相手は遊び感覚で将をもてあそんでいるだけだ。
「くっ、後藤さんや雨内さんはいつ来るんだっ」
「ああ、無理無理、お仲間さんがいたようだけどこの空間は外からは侵入できないようになってるから」
「お前らの能力か」
「そうそう、正確にはあっちにいるおじちゃんの能力なんだけどね」
女が大男の方に指を指してそう言った。
見るとそこには何事もなかったようにピンピンとしている大男がいた。
二人の応援を待つという希望は潰えた。
おそらく後藤と雨内がいる場所は能力の範囲外だろう。
先程将が渾身の力を込めて殴ったはずだが傷ひとつなく、体力の消耗も見受けられない。
この二人を同時に相手取らなければいけないことに絶望を覚える。
「ああ、大丈夫だよ。おじちゃんには手を出さないように言ってあるから」
「なんだと! ふざけてるのか!」
「何怒ってんの? 君にとってはいい条件じゃん。君、見かけによらずプライド高いんだね~。まあ、先輩に殺すなって言われてるからなんだけどね。まあ、勢いで殺しちゃうこともあるかもしれないけどそこんとこヨロシクっ」
女は一瞬で被我の距離をつめてきた。
そして日本刀を振り下ろす。
「くっ」
将は間一髪避けたが少しかすったようだ。
制服に血がにじみ出てきた。
「およっ、動くね~。もう一発行くよ~」
またもやかろうじて避ける。
将の強化された動体視力を持ってもギリギリだ。
「ほらほらほらほらほら、あはは、楽し~!」
遊ばれている。被我の実力差を認識できないほど将も馬鹿ではない。
とても後藤や雨内の援助なしで戦える相手ではない。
「ぐあっ」
女の操る日本刀が将の肩に刺さった。
女は余裕綽々でニヤニヤと笑っている。
これはチャンスだ、将はそう考えた。
先程女は外側からは侵入できないといっていた。
それならば内から破ることは可能なのではないか?
そうすれば援助を求められる。
このままここで勝算のない戦いをするよりも確実に効率がいい。
一か八かの賭けに出ることにした。
幸い女は将を殺す気がないらしい。
現に急所は避けて攻撃してくる。
「うおおっ」
女に突進。
女は突然のことに面食らい将を逃してしまった。
そのまま脇目も降らずに走っていく。
相手のことを考えている暇などない。
この壁のようなものを壊すことを最優先にしなければやられてしまう。
「着いた……」
足に力をため、拳にも力をためる。
そうすれば相乗効果で威力は何倍にも高まるはずだ。
ドゴンっ、ドゴンっ、ドゴンっ
今の将の出せる全力の攻撃だがびくともしない。
「くそっ、くそっ、くそっ!」
拳がダメならと将は足に力をためる。
足は腕の何倍かの力を出せると耳かじり程度だが聞いたことがあった。
それに賭ける。
ドゴンっ
音だけが響いた。
壁は変わらず傷ひとつついていない。
「くそっ! 何でだ!」
「それはね~」
声がした方に振り向く。
敵が追い付いた様だ。
ニヤニヤと笑いながら悠長に歩いてやってくる姿が見えた。
後ろには大男もいた。
「内側からでも外側からでも壊せないからだよ~」
間髪いれずに女に殴りかかる。
がむしゃらだ。もう一縷の望みであった壁の内側からの破壊も失敗した。
将に残された道はこの二人を倒すことだけだ。
「はいはい、それはもう飽きたよ」
将の拳がパシッと小さい手に捕まれた。
避けるのさえも億劫だという様子だ。
「おじちゃん、もう殺しちゃってもいいかな? 先輩にはうまく言い訳すればいいでしょ」
男は無言で頷いた。
将は本能的に悟った。
本当の戦いはこれからだ。
今まではお遊戯でしかなく、生き残っていたのは相手の恩情によるものだ。
死ぬ気で戦わなければこちらがやられる。
「んじゃ、行くよ~」
「くっ!」
先程とは段違いのスピードだったが何とか避けることができた。
「ほっ、避けた。じゃあ次はもっと速く行くよ~」
目の前にいた女が一瞬の内に消えた。
嫌な予感がした。
上を見ると女の刀が自分の顔に垂直に刺さろうとする寸前であった。
「ぅらあっ」
間一髪避けた。
「これも避けるか~。じゃあこれは~?」
女は微動だにしない。
「はっ?」
突如肩が激しい痛みを訴えた。
見るとナイフが左右の肩に三本ずつ刺さっていた。
「あちゃー、これは避けれなかったか~。まっ、仕方ないよ」
「いつの間に攻撃を…」
「暗器だよ、暗器」
「カハッ」
おびただしい量の血を吐いた。
今思えば身体中は傷だらけだ。
今までよく戦ってきたものだと我ながらに思う。
だが、諦めるわけにはいかない。
肩にささっているナイフを無理やり抜いた。
恐ろしい量の血が飛び出るがもはや関係ない。
将はこれ以上ないほどに集中する。
火事場の馬鹿力的なものが働いたのかもしれない。
将の集中力は極限まで高まっていた。
「まだ、まだ、いっちゃうよ~」
女が日本刀を携え将に向かってくる。
先程までは全く目で追うことすらできなかったが極限の集中力下の今は違う。
見える。以前よりも圧倒的に。
女の攻撃を大きく避ける。紙一重ではなく大きく余裕を残しながら。
女の続けざまの連撃を避ける、避ける、避ける。
「見える、見えるぞっ」
「調子に乗らないでね~」
今までとは段違いのスピードで女は攻撃を繰り出す。
だが極限状態の将には無意味極まりない。
難なく女の攻撃を避けた将は、お返しとばかりに女の顔面にパンチをお見舞いした。
将の身体強化されている拳を食らった女はすっ飛んでいく。
将は今の自分の力に驚きを隠せないでいた。
死の間際に陥ったことで将の能力が覚醒したのだ。
大幅に身体能力が強化され、それに伴って動体視力も大幅に向上した。
「うぐ、くそっ! なんで当たらない!」
吹き飛ばされた女が体制を立て直した。
今までの余裕を含む顔ではなくなっていた。
女はニヤリと笑った。
だが、将にはなぜ笑っているのかがわかる。
女は将に向かって高速でナイフを飛ばしたのだ。
だが将は動じない。
すべて事細かに見えているのだ。
難なく避ける。
「はっ?」
女は驚きの表情を浮かべる。
「なんでだっ!? なぜ、当たらない」
将は女に向かって超高速で走る。
そしてスピードにのせて拳にも力を込める。
女は将の動きに反応し横に避けようとする。
が、将はその動きを予測し、女を殴る。
「かはっ」
女は殴られた衝撃で壁に衝突する。
壁にクレーターができたことから、拳の威力を容易く想像できるだろう。
女はあまりの強さに体勢を建て直すため一旦逃げようとするが………
「させない」
将に腕首を捕まれた。
「くっ、動かない」
すさまじい力で押さえ込まれた女は身動きができない。
だが、女はあきらめない。
将に捕まれている腕を切り落として脱出しようと試みる。
そして日本刀で将が反応できないであろう速さで自分の腕を切り落とそうとする。
が、またもや将に阻止された。
「何なんだっ! 何なんだっ、お前は!」
将はすべて見えていた。
極限まで強化された動体視力では些細な筋肉の動き息づかい含むすべてを感じ取れていた。
筋肉の些細な動きから次に相手がするであろう動きを予想し、先回りし防いでいたのだ。
皮肉にも女は将を追い詰めることで、彼の覚醒を促し、結果的に今の状況を招いているということだ。
「おい、ジジイ! 私を助けろ!」
大男が動き出す。
だが、将は女の方を向いたままで大男などは歯牙にもかけない様子である。
いや、実際は空気の振動や、男の息づかいですべてを把握している。
もはや目で見なくてもいい次元にまで到達していたのだ。
将は女に目を向けたまま男を殴り飛ばす。
先程とは段違いの力で殴ったために倍以上の距離を飛んでいった。
女は絶望した。
こいつには勝てない。
初めて死を悟った瞬間であった。
今まで、奪うという行為しかしてこなかった生来の簒奪者だった彼女にとって命を奪われるかもしれないという行為は初めてであった。
将が全身に力を込め始めた。
女から見てもわかるほどに止めを刺す気であった。
力をため終えた将はゆっくりと拳を肩の上まで掲げる。
避けることは確実にできない。
死を覚悟した。
ドサッ
将が糸切れ人形のように倒れた。
「アハっ、何があったか分からないけどラッキー」
限界まで体を酷使した反動が今になってやって来たのだ。
将はもはや意識もない。
「とどめ刺しちゃおっか」
女は日本刀を将の心臓のある箇所に突きつける。
皮膚一枚で止まっている。
女があと少しでも力を込めれば将の心臓を貫き死に至らしめるだろう。
指一本動かない。
「じゃあね、勝木くん」
突如、辺りを覆っていた壁がバラバラらに砕け散った。
「ジャジャジャジャ~ン」
「なっ、能力が! 何者だっ」
「将くん、雨内さんがやって来たよ~。ありゃ、気絶しちゃってるよ。」




