10話
先程扉を開けて出てきた男は将含めた3人を一瞥すると、おもむろに口を開いた。
「みどりさんが亡くなったんだって? いや~今度の敵は相当強そうだ~ね~」
男はお茶らけたようにそう言った。
恐らくこの男が件の雨内なのだろう。
将は予想とはうって変わっていた人物だったことに多少の驚きを覚えた。
「師匠だけではなく、鈴木さん、高井さん、石田さんもです」
リサが雨内の言葉に付け足すようにそう言った。
「鈴木……鈴木………あーあいつか。そうかあいつ死んだのか」
「まさか鈴木さんのこと忘れていたのですか?」
リサはあきれたようにため息をついた。
「いやいや、そんなことないよ。覚えてる覚えてるって」
はた目から見てもわかる嘘臭さにリサはもう言及することを諦めたようだ。
雨内が将の方へグイっと身をよじって顔を覗き込んできた。
シゲシゲとしばらく男は見入っていた。
沈黙が流れる。
そして、男は沈黙を壊すように明るい声を出した。
「君が勝木君かい?」
「ええ、そうです。よろしくお願いします、雨内さん」
「ん、ああ、よろしくお願いします。僕の名前は雨内秀水と言います」
男はペコリとお辞儀した。
まるでつかめない男だと将は思った。
ペラペラの紙のようにコロコロと態度を変える男の姿を少し不気味に思った。
「んで、君たちは僕に敵を倒すのに協力を要請してきたんだね?」
「ええ、そうです。よくお分かりで」
「こんなのは僕の能力を用いれば簡単に推測できることだよ」
「唐突ですが私たちと一緒についてきていただきたいのですが?」
「ん、いいよ。じゃあ行こうか」
あまりにもあっさりと承諾したために将は驚いた。
この男はどちらかというと断ることで相手の心をもてあそぶ様な男だと思っていたがどうやら違ったようである。その様子がさらにこの男に対する不気味さを助長させた。
場面はとある建物の中に変わる。
今現在将達はコンクリートで建造された建物のなかにいた。
この建物は組織の新たな拠点である。
だが、建物内には将、リサ、後藤、雨内しかいなかった。
拠点をひとつに絞りそこに多くのメンバーをかくまえばその分敵に狙われやすくなる。
そのために少人数に分けてそれぞれのグループに拠点を割り当てるという事にしたのである。
「勝木くん、君高校生でしょ? 学校何日も休んでるでしょ、行かなくていいの?」
雨内が将に尋ねた。
「あっ!」
将は今まであまりにも濃い体験をしていたために学校の事など全く忘れていた。
将は不安になりリサの方へ顔を向けた。
リサが学校なりなんなりに対処していることを期待してだ。
「大丈夫です、将さん。学校や親御さんにはちゃんと怪しまれないように説明しましたから」
リサはニコっと微笑んだ。
「親にはなんて言ったの?」
「友達の家に泊まるということを伝えました」
「そうか、家の親結構いい加減だから俺がどこに止まろうがあまり気にしないんだよな。まあ、今度ばかりは気にしないでくれてありがたいけど……」
俗に言う放任主義の家庭で育った将は心底放任主義でよかったと感謝した。
親に変に首を突っ込まれる等があればさらにややこしいことになってしまう、そうならなかったことは喜ぶべき事だ。
親にまで被害が出れば理性を保てる気がしなかった。
「リサ、これから学校はどうするんだ?このまま通わないでもいいのか?」
「そうですね、クラスメイトに危険が及ぶ可能性があるので通わない方がいいでしょう」
リサの言い分にそれもそうだ、と納得しかけた折、
「ダメだよ~ダメダメ」
「何がダメなんですか?雨内さん」
「何がって、そんなの高校生は青春を謳歌するべきだよ。学校に通わないと損だよ損!」
「でも敵が襲ってくるかもしれませんし……」
「大丈夫だよ、僕が護衛として僕らが守ってあげるから。ねっ鈴木さん?」
「ええ、いいわよ。こんな時だけど、いやこんな時だからこそつかの間の学園生活を楽しんじゃいなさい! 安心して学校に行きなさい。私の能力と雨内の能力があれば大抵の事には対処できるし」
「でも……将さん…」
リサが助けを求めるように将へ視線を移した。
「ここはお言葉に甘えよう。相手からの好意を踏みにじるのは逆に失礼だ。
それに敵は恐らく人目の多い日中は襲ってこないだろう。」
「そう…ですね。雨内さんと後藤さんの能力があれば恐らくは大丈夫でしょう…」
翌日。
拠点にて久々に学校に行く将は少しばかり緊張していた。
昨日、人目の多い日中は敵は襲ってこないだろうと自分に言い聞かせる意味も込めてリサに言ったが、やはり不安になってくる。
同じ人間だと言っても趣味、嗜好の異なる者の考えを完璧に読めるわけではない。
ましてや面識のない敵の考えを読めるなどおかしいにも程がある。
将が不安に刈られていると肩にポンと手を置かれる感触がした。
後ろを見てみると雨内であった。
「大丈夫だよ、将くん」
「雨内さん……」
「君も昨日言ってたじゃないか、日中に敵さんが襲ってくる可能性は低いって」
「でももしかたら襲ってくるかもしれないって考えがよぎってしまって……」
「大丈夫だって~。僕こう見えて強いんだよ!もし襲ってきたとしても僕の能力でどうとでも対処できるよ」
「わかりました……」
「ん、分かってくれたか!じゃあまたね~」
雨内は将にヒラヒラと手を振って去っていった。
釈然としないが雨内の押しの強さに負けてこのまま学校に直行することにした。
「将さん、おはようございます。準備もできましたので行きますか」
「ああ、行くとするか」
将は今になって今日は一回も後藤を見かけていないことに気づいた。
「後藤さんは?」
「ああ、後藤さんは先回りして敵が襲ってこないか能力を使って探索しているところです」
「そうなのか、何か申し訳ないな」
「いいえ、これは我々の悲願である平和のためです。そのために必要な将さんを守ることに対して将さんが何らか申し訳なさを抱く必要はありませんよ。気負わずにいきましょう」
「ああ、そうだな……こういうときは逆に気負わずに行った方が良いっていうことも聞くしな」
「ええ、そういうことです。さあ、立ち話も何ですから行きますか」
「ああ、そうだな行くか」
話を終えた将達は玄関を出た。
いくら雨内や後藤が影から守ってくれているとはいえ自分達でできることをしない理由にはならない。
万全を期すというという意味も込めて常に厳戒体制で学校までの道のりを歩んでいく。
道中、将は気になっていたことをリサに尋ねる。
「雨内さんの能力ってどんななんだ?」
「雨内さんの能力ですか?それは私も知りません」
あっけらかんと言いはなったリサに将は驚いた。
あれほど役に立つ様な言い方をしておいて能力すら知らないとは。
「ですが、強い…それも圧倒的に…とは聞きますね。あの師匠が言う程です。相当のものなのでしょう」
「そうなのか……そこまで言われる能力ってどんなのか気になるな……」
「前にも言いましたが、能力者は秘密主義が多いので、それも雨内さんはその中でも特に秘密主義の部類に入ると思うのでテコでも聞き出すのは無理でしょう」
「ふーん、そういうものなのか。それで話は変わるが俺の能力って身体強化って言う認識でいいんだよな? なんか他の人に比べたらいやにショボいように感じるんだけど」
「いえ、将さんの能力は相当のものですよ。例えば何かを殴るときにはどこに力をいれますか?」
「そりゃあ、腕だろう」
当たり前の質問であったために将は澄まし顔で答えた。
「残念、それは間違いです。正確には腕と足です」
「ん、足?」
「足は体を支える重要なパーツです。その足を使って攻撃の威力を底上げするにはどうすればいいですか?」
「あっ、そうか、足で地面を蹴って腕だけの威力に上乗せすればいいのか! そうすることで全体的な力は何倍にもはねあがる」
「そういうことです、故に将さんの能力は強力無比なのですよ。この前の、戦闘を見る限り将さんの身体強化は恐らくは10倍単位で既存の身体能力を強化しているのでしょう」
「そうなのか、今までショボいと思ってたけどそんなにもすごい能力なのか。自信がついた気がするよ」
あれやこれやと話をしていると学校が見えてきた。
いつの間にか結構な距離を歩いていたようだ。
何はともあれ通学中に敵の襲撃がなかったことに心の中で安堵した。
いや、逆に通学途中で襲われていた方が良かったのかもしれない。
学校の敷地内で襲われでもしたら関係のない生徒までも巻き込んでしまう可能性がある。
後藤や雨内に一縷の望みを託し、また気を引き締め直して将とリサは校舎に入っていった。
教室の前まで来た将は一度立ち止まった。
やはり数日ぶりに教室に入るのは少し緊張する。
扉を開けて中に入る。
「おーっ!将!めちゃくちゃ久しぶりじゃねえか」
将の友達が教室に入るなり話しかけてきた。
それに呼応するように他のクラスメイト達も口々に話しかけてきた。
主な内容は何故休んだのかなどとりとめのないことであった。
あの日からもう既に普通の日常を送ることは諦めていたが、こんなにも早く日常に戻れるなどとは思っていなかった。
将はクラスメイト達の質問に答えながらこの日常という安寧を深く噛み締めていた。
恐らくはそう遠くない内に崩れ去るだろうこの安寧を。
クラスメイトの話を聞く限りみおは転校という形で処理されたそうだ。リサがうまくやった形だろう。
クラスメイトとの一通りのスキンシップを終えた将はひとまず自分の席に向かっていく。
隣の席の安藤優の顔が目に入ったため挨拶をしておく。
「優、おはよう」
「ああ」
何か安藤に聞きたいことがあったような気がするが何か忘れたため思い出せないかと安藤の顔をまじまじと見ていると、安藤が露骨に嫌そうな顔をしていた。
「俺の顔に何かついているのか?」
「いや、何も。けどなんか優に聞きたいことがあったような気がして……」
そう言い終わると、
安藤は何故かわからないが驚いた顔をした。
あまりにも挙動不審であるため将は不思議に思った。
「まさか……覚えている…効かなかったのか」
「優?」
「いや、何でもないこちらの話だ」
安藤の様子に違和感を覚えたがこれ以上突っ込まないことにした。安藤はたまによくわからないことを言うためにこれもその類いだろうと思った。
放課後になった。
「将、遊びに行かねえか?」
「ああ、どうしようかな…」
将はリサに判断をあおぐ意味を込めてリサの方へ目線を向けた。リサは渋い顔をしていた。
あまり望ましくないようだ。
将は断ることにした。
「ごめん、ちょっと用事があるんだ」
「嘘つけー!お前さっき江藤の方をチラ見してたじゃねえか。江藤とどっか行くつもりなんだろ?」
気づかれないようにチラ見したつもりだったがばれていたらしい。
「もし、江藤と一緒に行きたいんだったら江藤も一緒に行こうぜ! なっ、それならいいだろ?将」
またもや将はリサの判断を仰ぎチラ見をする。
リサは大きくため息をつき
「仕方ない、行きましょう将さん」
「えっ!いいのか!?」
「万が一のことがあっても雨内さんと後藤さんの守りが突破されるとは考えられません。ここで下手に断れば怪しまれるだけです。行きましょう」
リサは将の耳に口を近づけ将にしか聞こえないような声量でそう言った。
「よし! 決まりだなっ!」
「おっ、お前らどっか行くの?」
「私達も行きた~い」
話を聞きつけクラスメイトがどんどんとやって来た。
このままでは想定よりも大人数でいくはめになりそうだ。
結局クラスメイトのほとんどで遊びにいくことになった。
ふと周りを見渡すと何かを言いたそうにしている安藤が目についた。
「どうしたんだ? 優」
「勝気、行かない方が良い。行けば後悔することになる」
前にも似たような状況に出くわしたことがあるがよく思い出せない。いつだったか……。
「安藤、変なこと言ってお前も一緒に連れてって欲しいんだろ~」
「キャハ、マジうける~。連れてって欲しいなら連れてって欲しいって言えばいいのに」
クラスメイト達が次々と安藤を嘲笑する。
対して安藤は全く気にしない様子だ。
そして少しばかりの間、少考した後安藤は何かを決心したように将を見据えて言った。
「俺も一緒に行く」




