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第8話 貴族というもの

 私は、エルード様とともに馬車の前まで来ていた。

 これで、本当にこの屋敷とはお別れである。

 彼と会ってから、ここに来るまでの時間は、とても濃密な時間だった。私の人生において、ここまで変化があったのは、母が亡くなって以来だろうか。


「それにしても、エルード様はよくあの借用書が偽物だとわかりましたね……」

「む?」

「私には、まったくわからなかったのですけど、何か違いがあるのですか?」


 そこで、私はエルード様にそんなことを聞いていた。

 純粋に、あの借用書にどんな間違いがあったか知りたかったのである。


「借用書に間違いがあったかどうかなど、俺も知らん」

「え?」

「俺はただ、かまをかけただけに過ぎない。あの借用書が偽物かどうかなど、まったくわらかん」


 エルード様は、表情を変えないで驚くべきことを言ってきた。

 彼は、あの借用書が偽物かどうかなどまったくわかっていなかったのだ。

 だが、考えてみれば、エルード様は具体的なことを何も言っていなかった気がする。曖昧な言葉だけで、ボドール様を追い詰めていたはずだ。

 しかし、それが何もわかっていなかったからだとは思っていなかった。ほぼ自白していたので、ボドール様も私と同じことを思っていただろう。


「よく……そんなことができましたね?」

「別に、このくらいはどうということはない。むしろ、引っかかったボドールの方が愚かだといえるだろう」

「そ、そうなのですか?」

「ああ、あの程度の言葉で落ちるのは、三流といえるだろう」


 エルード様は、先程のことを特に特別なことだと思っていないようだ。

 もしかして、貴族というのは、あれが普通なのだろうか。そんなことを言われると、なんだかとても怖くなってくる。

 あまり実感はないが、私はこれから公爵家の一員となるのだ。ということは、私もああいうことができるように、ならなければならないのだろうか。


「貴族というのは、すごいのですね……」

「感心するようなことではない。相手にやましいことがあるとわかっているからこそ、言えただけだ」

「わかっていたのですか?」

「お前の母親のことを考えれば、そう思ったのだ」

「エルード様……」


 エルード様の言葉は、とても嬉しいものだった。

 彼は、私の母を信じてくれたのだ。顔も見たことがないのに、信じてくれたのである。これ程、嬉しいことはないだろう。


「ありがとうございます……私、とても嬉しいです」

「……気にするな。それより、早く出発するぞ」

「はい!」


 エルード様の言葉に、私は力強く頷いた。

 こうして、私達はゲルビド子爵家から出発するのだった。

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