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使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。  作者: 木山楽斗
本編

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第57話 彼の過去(エルード視点)

 目を閉じて思い出すのは、いつも同じ光景である。

 雨の中、崖から転がり落ちた馬車。その下敷きとなっている母と父。

 俺の記憶の中に深く刻まれているこの記憶は、俺にとってとても辛い記憶である。


「おい、この馬車は……」

「ああ、貴族の馬車だぜ……」

「崖から落ちたのか? 不運だな……」


 馬車の近くにやってきたのは、三人の男だった。

 彼らに助けを求めれば助かるかもしれない。父も母もまだ息はある。俺に至っては意識もある。可能性は、零ではないだろう。


「どうする?」

「どうするって……助けた方がいいんじゃないのか?」

「いや、もう助からないだろう」

「助からないからって……」


 三人は、何やら怪しげな話をしていた。

 俺達がもう助からない。そんな話をしている時点で、俺は嫌な予感がしていた。


「……金品を盗んで、見なかったことにしようぜ」

「何を言っているんだ?」

「どうせ、もうこいつらには必要ないだろう。ばれやしないさ。誰も見ていないんだからよお」


 三人の話の雲行きは、一気に怪しくなっていた。

 彼らの話していることは、許されることではない。そう思ったが、俺には声を出す力が残っていなかった。

 動くこともできず、俺にはどうすることもできないようだ。


「こいつらは、貴族だ。いつも裕福な暮らしをしている奴らだぞ? 俺達が貧乏くじを引いているのは、こいつらのせいじゃないか」

「でも、俺は人殺しなんて……」

「別に、俺達が殺す訳じゃない。勝手に死ぬだけだろうが」

「ああ、確かにそうだな……」

「お、お前まで……」


 三人の男の内、二人は既に決意を固めていた。

 もう一人はまだ迷っているが、恐らくは時間の問題だろう。多数がそういう意思ならば、流されるのが人間というものである。


「……わかった。お前は、そっちを探してくれ」

「ああ……おお、なんだかすごい宝石があるな……」

「一体、いくらするんだろうな……」


 三人は、馬車の中を物色し始めた。

 俺は、ゆっくりと目を瞑った。この三人には、もう期待できない。そう思った時、希望がなくなったような感覚に陥ってしまったのだ。

 恐らく、俺はこのまま死ぬのだろう。ならば、せめて目の前の三人を呪ってやる。そう思っていた。

 自らの欲望のために、俺達を見捨てた彼らを俺は絶対に許さない。そんなことを思いながら、俺の意識は消えていくのだった。

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