第56話 外に出る意味
ゲルビド子爵家との問題も終わって、私の心はとても晴れやかになっていた。
私は、今もラーファン家の屋敷で暮らしている。特に問題も起こっておらず、とても平和な日々を送っている。
「外に出る意味って、なんなんでしょうか?」
「え?」
基本的に、私は暇になるとシャルリナの元に行く。
彼女とは気が合うため、ついつい遊びに行ってしまうのだ。今の所、シャルリナもそれを受け入れてくれている。
そんな彼女は、今日もよくわからないことを言い出したのだ。
「考えてみてくださいよ。日焼けするし、汗はかくし、疲れますし、意味なんてないと思いませんか?」
「え? いや、そうは思わないけど……」
「人間というものは、屋内にいるべきなんですよ。昔の人だって、家を建てた訳でしょう? つまり、ずっと引きこもりたいと思うことは、間違っていないと思うんです」
彼女は時々、こういうよくわからないことを言ってくる。
本気でこう思っているのかどうかはわからないが、相変わらず滅茶苦茶な理論だ。
「えっと……昔の人は、引きこもるために家を建てていた訳じゃないと思うよ?」
「それって、証明できますか?」
「え? 証明……?」
「昔の人に聞いた訳でもないのですから、勝手に判断するのは駄目だと思います」
「いや、それを言ったらシャルリナの方こそ、勝手に決めているんじゃ……」
「え? そうでしょうか?」
シャルリナは、基本的に自分のことは棚に上げる。
自分が言ったことが跳ね返って来ても、こういう風にすっとぼけるのだ。
明らかに、確信犯である。その堂々とした態度は、ある意味大物といえるだろう。
「でも、外に出ないと健康に悪いよ? 日の光は浴びた方がいいらしいし、もっと外に出た方が……」
「でも、浴びすぎると体に悪いですよね? それって、意味わからなくないですか?」
「え?」
「浴びろという人もいれば、浴びるなという人もいる。そんなの訳がわからないじゃないですか。一日、どれくらい浴びれば健康になるんですか? 一日、どれくらい浴びちゃいけないんですか?」
「それは……私には、わからないけど……」
「じゃあ、浴びなくてもいいですよね?」
「あ、えっと……うーん」
私は、いつもシャルリナに追い込まれてしまう。
いつも思うのだが、私は押しに弱いようだ。
こういう時に、きちんと反論できるようにならなければならないだろう。そうでなければ、貴族として困ってしまうはずだ。
「くだらない論で自分を正当化するんじゃない。お前の論は、滅茶苦茶だ」
「げ! お兄様!? また勝手に入って来て!」
「お前達が戸を叩く音も聞かないのが悪いのだ! いや、お前に関しては無視していたのか!?」
「お慈悲を!」
私ももっと、頑張らないといけない。
そんなことを思いながら、私は毎日を過ごしているのだった。




