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使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。  作者: 木山楽斗
本編

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第49話 背負うべきこと

 私は、今日もラーファン家の屋敷で過ごしていた。

 ゲルビド子爵家にいた頃と比べて、私はとても平穏な日々を送っている。このように穏やかな毎日を送れることは、私にとってとても幸せなことだ。


「失礼する」

「あ、はい……」


 そんな平穏な日々を送っている私に、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。

 一緒に聞こえてきた声は、エルード様の声である。

 彼が、私の部屋を訪ねて来た。その事実に、私は少し身構える。何かあったのか。そういう不安が芽生えてきたのだ。


「どうかされましたか? エルード様?」

「ああ、実はゲルビド子爵家に関して、色々と動きがあった。故に、お前に伝えに来たのだ」

「そうだったのですね。わざわざ、ありがとうございます」


 エルード様は、ゲルビド子爵家に関することを伝えに来てくれたらしい。

 それは、私もずっと気になっていたことである。あの子爵家との問題は、私にとって、とても重要なことなのだ。


「何があったのですか?」

「ゲルビド家の悪事を暴くことができたのだ。それがあれば、奴らを追い詰められるだろう」

「追い詰められる……そうですか」


 エルード様の言葉を聞いて、私は少し複雑な気持ちになった。

 ゲルビド子爵家は、私にとって憎むべき存在である。だから、追い詰められることは喜ぶべきことであるはずだ。

 だが、他人の不幸というものは素直に喜べないものである。あんなどうしようもない人達に対して、そういう思いを抱くのは間違っている。そう思っても、どうしても笑顔になることができなかった。


「……浮かない顔をしているな」

「え? あ、すみません……」

「謝る必要はない。お前は、優しい人間だ。だからこそ、ゲルビド家に対しても慈悲の心を持っているのだろう」

「い、いえ、私はゲルビド家を恨んでいます。彼らが破滅することを……願っているのです」

「ふっ……願っている者の顔ではないな」


 私の反論に、エルード様は笑っていた。

 恐らく、彼は私の心を見抜いているのだろう。必死に虚勢を張る私の姿は、彼にとっては滑稽なものだったかもしれない。


「お前が、罪悪感を覚える必要などない。これは、俺が勝手に行うことだ。お前が何を思っていようとも、俺は報復を実行する。故に、お前の気持ちなど関係はない」

「そんなことは……」

「これは、俺が背負うべきものだ。お前が背負うべきことではない。それでいいのだ」


 エルード様は、私の罪悪感をなくそうとしていた。

 それは、彼の優しさだろう。どこまでも大きな心を持つエルード様は、とても素晴らしい人間である。

 しかし、その優しさに甘えるべきではない。私も、彼と同じように、いや、彼以上に背負うべきなのだ。


「……エルード様の気持ちは、嬉しく思います。でも、私は逃げるつもりはありません」

「ほう……」

「これは、私が背負うべきものです。祖父母の代から続いているゲルビド家との因縁を、私が背負わずして、誰が背負うというのでしょうか。私が背負って、戦うべきなのだと思っています」


 ゲルビド家と続いている因縁を、私は背負わなければならない。

 祖父母も、母も、皆あのゲルビド家に苦しめられてきた。その報復は、果たさなければならない。

 その罪を背負うべき者は、私だ。はっきりと、私はそれを決意する。

 だから、彼に言わなければならない。今の自分の気持ちを、確かに言葉にしなければならないのだ。


「エルード様……お願いします。私の祖父母……そして、母の仇を取ってください。それを成し遂げてもらえるなら、私はあなたに全てを捧げてもいいと思っています」

「……それが、お前の覚悟という訳か?」

「お願いします。非力な私に、力を貸してください」

「……いいだろう。お前がそこまで覚悟を決めているというなら、最早何も言うことはない。この俺と共に、ゲルビド家を破滅させるぞ」


 エルード様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。

 こうして、私は改めて決意を固めるのだった。

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