第42話 絶対的な流儀
私は、シャルリナのペースに合わせて走ることにした。
一人では寂しいという彼女の傍に、ついていることにしたのだ。
「……あれ? お兄様?」
「うん?」
そこで、エルード様が少しペースを落としていることに、私達は気づいた。
なんというか、私達を待っているような感じである。
とりあえず、ペースを変えずに走るが、すぐにエルード様に追いつく。やはり、私達を待っていたようである。
「どうかしたのですか? エルード様?」
「いや、お前がペースを落としたから、どうかしたのかと思ってな……」
「ああ、シャルリナのペースに合わせることにしたのです」
「そういうことだったか」
エルード様は、私のことを心配してくれたようだ。
それで、わざわざペースを落としてきてくれた彼は、本当に優しい人である。
「お兄様、一人で寂しくなったんですか?」
「む?」
「それで、わざわざペースを落として、来たんでしょう? まったく、仕方ない人ですね……」
「……」
シャルリナは、エルード様を全力で煽っていた。
煽れる時には絶対に煽る。それが、彼女の流儀だ。
例え、自分がどのような状態であってもそれは変わらないのだろう。走っていて、無駄な話はしたくないこの状況でも、それは変わらなかったようだ。
「はあ、はあ……」
その結果、シャルリナは息を切らしていた。
元気よく煽ったため、体力を消費したようである。
こうなることは、彼女もわかっていたはずだ。だが、それでも煽れるので煽ったということなのだろう。
「愚か者、疲れているのに大声で煽るからそうなるのだ」
「はあ、はあ、寂しいのでしょう?」
「そういうことにしてやるから、もう煽るのはやめろ」
「うぐっ……」
煽ってきたシャルリナを、エルード様は心配していた。少し呆れているような気もする。
恐らく、彼女がかなり苦しそうにしているからだろう。怒りよりも、そちらの感情の方が大きいのだ。
その自業自得の疲れに対しては、私も同じような感情を抱いている。彼女の煽れる時に煽おるという流儀は、少し改めた方がいいのではないのだろうか。それも、彼女の魅力といえば、そうなのかもしれないが。
「ふん、お前のそういう所は直せ。いつか痛い目に合うぞ……いや、もうあっているか」
「ふふ、私は折れませんよ。これだけは、私の絶対的な流儀ですから……」
シャルリナ本人は、自身の流儀を変える気は一切ないようだ。
それ程までに、エルード様を煽りたいのだろうか。その精神は、最早見上げたものである。




