表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/81

第4話 歪な部屋

 私は、自室に戻って来ていた。

 この屋敷において、唯一私が安らげるこの部屋には、様々な物が置いてある。

 といっても、それは全てが私の私物ではない。この部屋は物置だったため、色々な物が置いてあるのだ。


 嫌がらせのつもりなのか、私はこの部屋を割り当てられていた。物置を部屋とすることになるとは思っていなかったので、来た当初はとても驚いたことを覚えている。

 ここにある物は、もう使わないものであるらしい。そのため、ほぼゴミ置き場のようなものだ。そんな部屋を割り当てる子爵家の人々の神経は、やはりまともではないのかもしれない。


「……」


 その中から、私は自分の物だけを取り出していく。

 ここにあるのは、基本的には衣服の類だ。後は、母の形見くらいである。喜んでいいかはわからないが、そこまで荷物にはならないだろう。


「これに……」


 取り出した荷物は、ここに来た時に入れていた箱に入れる。物は増えていないので、これに問題なく収まるはずだ。


「失礼する」

「え?」


 片付けている私の耳に、聞き覚えのある声と戸を叩く音が聞こえてきた。

 その声は、恐らくエルード様の声である。先程話したばかりなので、流石に間違いないだろう。


「エルードだ。入ってもいいか?」

「あ、はい……」


 私が答えると、エルード様はゆっくりと部屋に入ってきた。

 辺りを見回して、彼は少し顔を歪める。ここが、物置だと認識したからだろう。


「本当に、ここがお前の部屋なのか?」

「ええ、そうですよ……」

「どうやら、ゲルビド家はお前に対して、予想以上にひどい扱いをしていたようだな……」


 エルード様の目つきが、突然鋭くなった。

 それは、同じ公爵家の人間に対して、ひどい扱いをしたことに憤りを感じているからだろうか。

 いや、同じ公爵家の人間でなくても、もしかしたら怒るかもしれない。平民の使用人だからといって、物置に住まわせるのはまともな神経ではないからだ。


「慣れてくれば、この部屋も案外悪くはありませんよ。普通に暮らせていましたし……」

「……そうか」


 エルード様の怒りは、なんとなく理解できた。

 だが、この物置も住んでみれば案外悪くないものである。

 確かに、色々と物は置いてあるが、それも段々と気にならなくなった。まず人が寄り付かないし、私にとっては静かで安らげる場所である。


 結局、人間住んでみれば、なんだかんだ慣れていくのだろう。

 こんな場所でも、私にとっては癒される場所だった。ここから出て行くことに、寂しさを感じているくらいである。


 だが、ここに残りたいなどとはまったく思っていない。

 辛い日々を終わらせられるのだから、そんなことを思うはずはないのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ