第4話 歪な部屋
私は、自室に戻って来ていた。
この屋敷において、唯一私が安らげるこの部屋には、様々な物が置いてある。
といっても、それは全てが私の私物ではない。この部屋は物置だったため、色々な物が置いてあるのだ。
嫌がらせのつもりなのか、私はこの部屋を割り当てられていた。物置を部屋とすることになるとは思っていなかったので、来た当初はとても驚いたことを覚えている。
ここにある物は、もう使わないものであるらしい。そのため、ほぼゴミ置き場のようなものだ。そんな部屋を割り当てる子爵家の人々の神経は、やはりまともではないのかもしれない。
「……」
その中から、私は自分の物だけを取り出していく。
ここにあるのは、基本的には衣服の類だ。後は、母の形見くらいである。喜んでいいかはわからないが、そこまで荷物にはならないだろう。
「これに……」
取り出した荷物は、ここに来た時に入れていた箱に入れる。物は増えていないので、これに問題なく収まるはずだ。
「失礼する」
「え?」
片付けている私の耳に、聞き覚えのある声と戸を叩く音が聞こえてきた。
その声は、恐らくエルード様の声である。先程話したばかりなので、流石に間違いないだろう。
「エルードだ。入ってもいいか?」
「あ、はい……」
私が答えると、エルード様はゆっくりと部屋に入ってきた。
辺りを見回して、彼は少し顔を歪める。ここが、物置だと認識したからだろう。
「本当に、ここがお前の部屋なのか?」
「ええ、そうですよ……」
「どうやら、ゲルビド家はお前に対して、予想以上にひどい扱いをしていたようだな……」
エルード様の目つきが、突然鋭くなった。
それは、同じ公爵家の人間に対して、ひどい扱いをしたことに憤りを感じているからだろうか。
いや、同じ公爵家の人間でなくても、もしかしたら怒るかもしれない。平民の使用人だからといって、物置に住まわせるのはまともな神経ではないからだ。
「慣れてくれば、この部屋も案外悪くはありませんよ。普通に暮らせていましたし……」
「……そうか」
エルード様の怒りは、なんとなく理解できた。
だが、この物置も住んでみれば案外悪くないものである。
確かに、色々と物は置いてあるが、それも段々と気にならなくなった。まず人が寄り付かないし、私にとっては静かで安らげる場所である。
結局、人間住んでみれば、なんだかんだ慣れていくのだろう。
こんな場所でも、私にとっては癒される場所だった。ここから出て行くことに、寂しさを感じているくらいである。
だが、ここに残りたいなどとはまったく思っていない。
辛い日々を終わらせられるのだから、そんなことを思うはずはないのだ。