第31話 父が残したもの
ゴガンダ様の葬儀は、粛々と行われた。
彼を失った悲しみは、まだ晴れていない。心の中にぽっかりと開いた穴が塞がるまでには、少し時間がかかるのだろう。
「これを、お前に……」
「これは……」
葬儀も終わり、少し落ち着いてきた頃、私はエルード様から一通の封筒を渡されていた。
それは、ゴガンダ様が私に残したものらしい。遺言の一種なのだろう。父が残してくれた大切な言葉に、私はゆっくりと目を通していく。
「……」
「……」
手紙の中には、ゴガンダ様と母のことが書いてあった。
それは、いつかは父の口から聞かなければならないことだと思っていた。きっと、父も同じ気持ちだったのだろう。
二人の関係は、母から持ち掛けたものだったようだ。それは、母が父に恋したという訳ではない。母は、父から金銭を得るために、その身を売ったようである。
「……」
「……大丈夫か?」
「大丈夫です。わかっていたことですから……」
「……そうか」
二人の関係は、しばらくの間続いたらしい。
だが、ある時、母は父の前から姿を消したようである。
時期から類推すると、それは母の身に新たなる命が宿ったからであるようだ。私をその身に宿したから、母は父の前から姿を消したのである。
「母は……」
「む?」
「母は、父のことをどのように思っていたのでしょうか……」
手紙には、父から母への思いが綴られていた。
金銭で結ばれた仲ではあるが、父は母に愛を覚えていたらしい。
しかし、父は母が自分に愛を向けていなかったと推測している。実際の所、母は何を思っていたのだろうか。
「すみません……こんなことを、エルード様に聞いても無駄ですね。もうそれは、誰にもわからないのですから……」
「……」
質問してから、私はそのことに気づいた。
エルード様に、こんなことがわかる訳はない。というよりも、誰にもわかるはずはないのである。それを唯一知る母は、もうこの世にいないのだから。
「……お前の母が、父のことをどう思っていたかは俺にもわからない」
「そうですよね……」
「だが、もしかしたら、俺がこれから話すことによって、その答えは見えてくるかもしれない。少し、俺の話を聞いてもらえるか?」
「え? ええ、お願いします」
どうやら、エルード様は何か母に関する情報を持っているようだ。
それを聞けば、母という人間をさらに理解できるのだろうか。理解できれば、母が何を思い生きてきたのかわかるのだろうか。
こうして、私はエルード様から母の話を聞くことになるのだった。




