第八矢 狂気の舞
「おい!サイファーどういうことだ!!」
突如、サイファーは俺に対してウサギさんを荒れ狂うブレード付き戦闘義手に投げつけろと指示してきたのだ。
何故サイファーがそのような指示をしたのかは分からないが、どんな理由であろうとも無闇に小さな命を奪っていい理由にはならないはずだ。
サイファーの返答によっては俺は自我を保てず100%キレるだろう(もうキレてる)。
『戦闘義手の体液消費を一時的に抑えるため、その生物と戦闘義手を繋げる必要があります。
現在の戦闘義手は体液不足により自動的に付近の生物と繋がり体液を自動で補充します。』
「それでウサギさんはどうなるんだよ?」
『全身の体液が抜かれ死亡します。また、ウサギと接続することで戦闘義手から一時的に体液漏れを止めることができます』
こいつ、、、
「ーーるな、、、」
『はい?』
「ふざけるなー!!」
静寂な森の中で周りの葉を揺るわずほどの怒号が響く。
そして、嫌な沈黙が優利とサイファーの間でしばらく流れた後、最初に口を開いたのはサイファーの方だった。
『優利の怒る気持ちも分かりますが費用対効果を考えた場合そのウサギ一匹で強力な武器を失わずに済むのですよ?』
・・・
サイファーとは分かり合えると思っていたが、それは間違いだった。
コイツは人じゃないかもしれないが、それ以前に考え方が俺とは合わない。
「・・・確かにお前の言う通り損得で考えるならウサギさんを犠牲にして戦闘義手が使えなくなるのを避けたほうがいいのかもな」
『では、何故、、、?』
「正直、俺は戦闘義手がどうも好きになれないから使いたくない。でも、それ以上に俺たちの都合で罪もない動物が不幸になるのは違う気がするんだ」
『それならば、優利は動物を食べないのですか?動物を食べると言うことは人間の都合で不当にその動物の幸せを奪う行為と言えないでしょうか?』
「ちがう! ちがう! そうじゃない!! 俺は頭は良くないからお前みたいに上手く説明できないけど命ってのは軽々しく扱っちゃいけないんだ!」
『・・・私には優利の言っていることは分かりません。動物を殺して食べるのと動物の命を使って武器の寿命を伸ばすこと、どちらも大差ないではないですか』
ぐ、、、。俺が言いたいことは、そう言うことではないのだがサイファーの言っていることも賛成は出来ないが理解は出来る。
動物を食べるにしろ、武器のため動物の命を奪うのも両者とも人間の都合で殺されていることに違いはない。
しかし、それでも動物に対する情けだったり、感謝の気持ちだけは忘れてはいけないことだと思う。
人間のエゴで罪なき動物が全身の体液を抜かれて殺されていいはずが無い!
殺されていいはずが無いのだが、、、
「うーん。クソー!説明できねー!!」
俺の言葉だけじゃサイファーにこの気持ちを伝えるのは難しそうだ。
でも、サイファーには俺の気持ちを知って欲しかった。
そして、サイファーには俺の理解者でいてもらいたかった。
『・・・・・・分かりました。私は優利に対するアドバイザーでしかありません。優利が嫌だと言うのなら対近接戦闘義手にはこだわりません』
サイファーは俺の気持ちを知ってか知らずか戦闘義手を諦めると言った。
もしかしたらお得意のメンタリズムか何かで俺の心中を察したのかもしれない。
「そうか・・・。でも、本当はサイファーも俺の今後のことを思っての指示だったんだよな?」
『そうですよ!優利にとって戦闘義手は異世界に転送した武器の中でも1番マシな部類の装備ですよ!!』
えっ!?あれが1番マシな武器なの!?じゃあ残り最後の武器ケースはハズレってことじゃん・・・。
「ああ、、、そうなんだ、、、最後の武器ケースはハズレなんだー」
『優利には扱うことは不可能でしょうね。寧ろ機械剣の方が使えるかもしれません。』
おいおい!! まじか!? それってマジのゴミ武器じゃん!!
まぁ、、、ここが異世界だからと言ってわざわざ武器や最強無双にこだわる必要は無いよな!
異世界にも農業してたり、ザコい村でスローライフしてる転生者達もいたし!!
「あーマジかー じゃあ俺が最強無双したかったら戦闘義手一択だったんだー」
『最強無双だなんて小学生みたいなことまだ言ってるんですか?』
うっせ!!男の浪漫やろがい!!
『まぁ仮にそうしたかったのであれば、戦闘義手を使いこなせるようになるのが一番の近道だったでしょうね』
「そうなのかもしれないけど、あれ使うくらいなら俺は平凡でいいや」
『ちなみに戦闘義手の何が1番気に入らなかったのですか?』
「デザインかなー。ださいわ」
そう言いながらケラケラと笑うとサイファーは「そうですかー」とか「やはり人間は合理性に欠けます」などと言っていた。
まず片腕がナイフになるのもだいぶ合理性に欠けるとは思うがな・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、俺は野うさぎを元の場所へと返し戦闘義手が落ち着くまで戦闘義手の狂気の舞を見守る事にした。
サイファー曰く戦闘義手は専用のケースの中で冷蔵し、仮死状態にして保存しておかないと生体パーツが自動的に動き出してしまう可能性があったそうだ。
しかし、普通ならば真夏下で専用ケースから出しても2時間くらいは何も起こらないらしい。
今回の短い時間で動き出したケースは極めて稀な状況のようだ。
そのためサイファーも戦闘義手が暴れ出した時はかなり驚いたらしい。
「なぁサイファーあの状態になった戦闘義手ってあとどれくらい動き続けるの?」
『そうですねー。あと20分もすれば優利でも掴むことができるくらい力が弱まるはずです』
あと20分かー。てか、逆に20分も動くんだ・・・。やっぱきもいなー。
「そもそも普通に力が弱まった後にケースに直してもいいんじゃ無いの?」
『いいえ。それではダメなんです優利。あの戦闘義手は今、自らの体液を大量に放出しながら人工筋肉をエネルギー源にし動いています』
ほうほう。
『そのようにして、稼働した戦闘義手の機能は大幅に下がり、最後まで動き続けた戦闘義手は本来の10%の力しか出すことができないのです』
本来の力の10%ってことは・・・そこまで性能が下がるんだったら戦闘義手をつける必要がないなー。
つまり俺はこの武器をわざとでは無いにしろザコ化してしまったと言うわけか!?
「うーん。切り替えていこう!!」
やってしまったことはもう仕方ないこの件は武器ごと忘れる事にしよう!
『清々しいですが逆に優利の今後が心配です』
「大丈夫!大丈夫!何とかなるって! あとめっちゃ腹減ったわ! 何か食べようぜー!!」
初めの方こそ武器という魅惑のワードに囚われて忘れていた優利だったが本来の目的は水と食料の調達だったはずだが、いつの間にか武器ばかりに目がいき当初の目的をすっかり忘れてしまっていた。
しかし、この世界に転送された武器が全て使えない(1つは使えなくした)という事実に気づいた優利は武器に対する興味は完全に消えていたのだった。
ー 武器ケース残り1つ ー
そう言えば今までの各話のタイトルは作品の内容に関係あるものもあれば、全く関係ないものも混じってるんで分かりにくいですよね??
すまん!!