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おぼろぼろ

朧と待ち合わせをしてから日が経ち、遂にその日がやってきた。

空は朧と久々に会えることが楽しみだった。


「朧、遅いな。寝坊でもしたかな。」


約束の時間までまだ10分以上もある。

久々に会うのが楽しみで、気が急っていたのかも知れない。

そう思いながら約束の時間を待っていた。


しかし、約束の時間になっても朧が来ない。


「朧が来ないな。急な仕事でも入ったのかな?」


朧が約束の時間を守らないなんてことは今までなかった。

何かあったのかな。

胸騒ぎがする。

朧に連絡をしてみる。

朧からの返信はない。

胸騒ぎがした。

朧に連絡をしてみる。

朧からの返信はない。

胸騒ぎがする。

空は駆け出していた。


先日のやりとりの際に、朧がどの辺に住んでいるかを聞いていた。

空は駆け出す。

朧の住んでいる街に駆け出す。


朧の住んでいる街にたどり着く。


「朧の住んでいるところはどこだよ。」


大方の位置は聞かされていたが、朧が住んでいる正確な場所は分からない。

どこにいけばいいのか、何をしていいものかが分からない。

まるで迷子のようだ。


「自分の人生でも迷っていて、友人の家にも辿り着けない迷子。どんだけ迷子になれば気が済むんだよ。」


空はその日、朧と会うことができなかった。

サイレンの音が聞こえる。

赤い光が見えた。

その音と光は...


翌日となっても朧からの返信はなかった。


「朧、どうしたんだろう?」


朧のことが心配であった。

高校時代からの親友である。

自分を心配してくれた心優しい親友なのだ。

心の中でそう思っていると、現実のテレビから音が聞こえた。


「今朝のニュースです。 昨日未明、〇〇市△△町で交通事故が発生しました。被害者は□□歳の女性....」


ニュースを読むキャスターの声が響いてくる。

空の耳に響いてくる。


「被害者の名前は.... 朧さん ....」


空は、何を行っているのかが理解できない。

空は、この状況が理解できない。


「... 即死 ...]


空の時間が止まる。

静寂が満ちる。

まるで世界中の時が止まったかのように。


それから数日後、朧の葬儀がおこなわれた。

空は、突然の出来事で何が何だか理解できないでいた。

葬儀が行われるまでの間、感情がない人形のようになっていた。


朧の遺体は綺麗だった。

学生時代から知っている朧がそこにはいた。

違うことがあるとすれば朧と、もう話すことができないこと。

違うことがあるとすれば朧と、触れ合うことができないこと。

違うことがあるとすれば....

空の頬に涙が伝う。

朧との思い出が脳裏をよぎる。

その度に涙が溢れ出てくるのであった。

朧の遺体を目の前にして、やっと理解が追いついたのだ。


朧と話すことはもうできない。

朧と触れ合うことはもうできない。


「案外身近で些細なところに夢ってあるのかもしれないよ。」

いつか自分が言った言葉が脳裏をよぎる。


こんな状況になって気がついた。

些細なことだったのかも知れない。

ありきたりなことだったのかも知れない。

自分の夢は、朧といつまでも一緒に笑っていることだったのだ。

当たり前の日常を朧と一緒に過ごしていくことだったのだ。


「案外身近で些細なところに夢ってあるのかもしれないよ。」

いつかの自分の言葉が胸に刺さる。


なぜ気がつかなかったのだろうか。

当たり前と感じていたのだろうか。

当たり前の日常がいつまでも続くと、なぜ思っていたのだろうか。


もうあの楽しかった当たり前の日々はやってこない。

あの当たり前の日々はもう....


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