曇天
月日は経ち、空と朧は大学生となっていた。
とある日、朧から電話がかかってきた。
「空、将来の夢が見つかったよ。」
朧からの第一声である。
「へえ、どんな夢なんだい。」
空は内心驚いていた。
大学に進学すれば将来の夢が見つかるかもしれないと考えていた。
だが、夢は見つからずに高校時代と変わらないありふれた日常を過ごしていたのだ。
「私は将来、企業で商品開発をしたいと思うんだ。最近、海外へ行った時に日本の商品を使っている人と出会ったんだ。その人が嬉しそうに、笑顔でその商品を使っていたんだ。」
「その人が、私に嬉しそうに話してくれたのさ。この商品は長持ちする。とても使いやすい。ずっと欲しかった物なんだ。楽しそうに語ってくれたよ。」
「その顔を見ていた時に、自分もそういう商品を提案してみたい。その商品で世の中を笑顔にして行きたい。そう思えたんだ。」
その声は熱を帯びていた。
温かみが感じられた。
高校時代の朧とは違う。
自分と同じように、ただ生きていただけの...
あの時の朧は、そこにはもういないことに気がついた。
一体、どこで差がついたのだろうか...
心の中に暗雲が立ち込める。
朧の心の中は光輝く空のように、空の心の中は雨が降る前の何重にも重なる重々しい空のように...
心に暗雲が立ち込めていく。
どこで... どこで... どこでと。
暗雲が立ち込めてはいたが、親友である朧に夢が見つかったことは嬉しかった。
相反する気持ちを抱きながらも、友の変化を喜びこう伝えた。
「おめでとう。 自分はまだ夢が見つかっていないけど、朧は見つけたんだね。」
「ありがとう。 些細な本当に些細なことがきっかけだったんだ。空に言われたことを思いだしたよ。きっかけは、些細なことだったんだ...」
朧の声が遠くに聞こえる...
些細というが、気づける・気づけないか微妙なことだから些細なのだ。
些細なことに気づけるか...
「気づく」 何かのきっかけではないのか。
「気づく」 気づけない人間には何も変化が訪れない。
「気づく」 気づくことが変化の起点ではないのだろうか。
朧との会話で気づくことの重要性に気づくことができた。
空の心の暗雲が少しだけ晴れていく。
「ありがとう、朧」
「何がだい?」
月日は進む。
些細な日常を過ごしながら。
月日が進む。
些細な日常を積み重ねながら。