一見屋~人形集め~
「お初にお目にかかります。私、一見屋と申します。
普段はしがない雑貨屋の店主ですが、たまにこうして、私の店で売っている不思議な商品にまつわる話をしています。
人形には昔から不思議な魅力があり、その魅力に取りつかれた人も多いと思います。
これからする話はそんな人形の魅力に憑りつかれた人の話。
タイトルは「人形集め」」。
僕の家には古今東西あらゆる人形がそろってる。
着物を着た和風人形。西洋のアンティーク人形。アニメのフイギュアなんかも集めている。
でも、最近はそんなありきたりな人形じゃなくて、もっと違う人形を集めだした。
だけど、これがなかなか難しくて、お目当ての人形にはめったに会えない。
今日も街中を歩いて、ようやく一つ手に入れたところだ。
大きな袋に詰めた人形を見て、ため息をついた。
「なかなかうまくいかないなぁ・・・。」
肩を落として、道を歩いてると
「ん?この店は?一見屋?」
古臭い看板に、ボロボロの家。
見るからに怪しい店だけど、電気が付いてるところを見ると、営業はしてるみたいだ。
「いらっしゃいませ!ようこそ一見屋へ!」
「うわっ!」
中から、店主らしい人が現れて、僕は思わず声を出した。
「おっと、驚かしてしまいましたか?それは失礼!」
「いえ・・・大丈夫です。」
「この店は、少し不思議な物を売っていまして、そういった品を一目でもお客様に見ていただきたい!そういう思いを込めて、一見屋と言う名前を付けたんです!」
「あの・・・。」
「見たところ、あなたは何かお探しのようですね。でしたら是非とも一度覗いてみてください。きっと、あなたのお探しの物が見つかりますよ!」
「いや、僕は・・・・」
「さぁ、さぁ!」
「は・・はぁ。」
押しに弱いのが、僕の悪い癖だ。
店の中は、まるでゲームに出てくるような鎧や剣。
何に使うかわからない怪しい薬品や液体。
大量に積まれた本の山。
その間には・・・なんだこれ?地図かな?
「お客様!その商品に目を付けるとはお目が高い!」
「あの、これ、なんですか?」
「これは、強欲マップとでも言いましょうか。」
「強欲マップ?」
「はい。誰でもほしいものの一つや二つはあるでしょう。この地図はそんなあなたの欲望を映し出すのです。」
「ほしいものを映し出す?」
「この地図を前に欲しいものを思い浮かべてください。そうするとあら不思議!あなたのお目当ての物が、いつ、どこに行けば手に入るのかが写し出されるのです!」
「そんなバカな・・・。」
「疑うのも無理はありません。そこで今夜は出血大サービス!特別に一週間これをあなたに無料でお貸出しいたしましょう!」
「え?無料で?」
「いわゆるお試し期間というやつです。それに、あなた以外にも多くのお客様にすでにお貸出ししてるので、気にされる必要はありませんよ。」
「それじゃあ・・・借りてみようかな。」
「ありがとうございます!では、あなたがお持ちのその大きな袋に入れて」
「触らないでください!・・すみません。僕が入れるので大丈夫です。」
「これは、失礼致しました。では、どうぞ。」
「どうも。それじゃ。」
渡された地図を乱暴に詰め、僕は足早に店を出た。
「やれやれ、不思議なお客様だ。さて、新聞でも読もうか・・・何々?バラバラ殺人事件?被害者は体の一部を持ってかれる・・・怖い事件もあるもんですねー。」
「はぁはぁ・・・焦ったー。」
逃げるようにして僕は自分の家に帰ってきた。
いきなりあの袋に触られたときは、本当にびっくりした。
もし、この袋の中を見られていたら・・・・
考えただけでぞっとする。
「こんばんは。」
「うわっ!」
突然の声にびっくりして視線を向けると、隣に住んでる女の人だった。
「ごめんなさい。こんな夜中に何してるのか気になって。」
「いえ、別に・・何も。」
「そうですか。それじゃあ、おやすみなさい。」
「お、おやすみなさい。」
普段から人形を相手にしてるからか、どうも人とのコミュニケーションは苦手だ。
特に女性は。
でも、もしあの人が人形だったら・・・。
家に入り、今日の収穫を愛でる。
苦労した甲斐がある分、一際、綺麗に見える。
今まで僕が集めたどの人形もかすんでしまうくらいだ。
この人形をもっと集めたい。
そう思った瞬間、突然何かが光始めた。
「なんだ、この光!」
あの店でもらった地図が光りだしてる。
地図を取り出して広げてみると、そこには、何時にどの場所に行けば欲しいものが手に入るかが描かれていた。
「これは、もしかして本当に!」
僕は、わくわくして次の日を待つことにした。
そして、次の日の夜。
既に営業が終了しているデパートの前に僕はいた。
地図によれば、一階のトイレの窓が空いていてそこから侵入できるそうだ。
記されてる通りの場所に行き、そっと窓に手をかける。
窓は何の抵抗もなくあっさりと空いた。
「やった!」
心の中で、僕はガッツポーズをした。
侵入さえできればあとは簡単だった。
目当てはレディースフロア。
そこまでの道のりも、全部地図のおかげでスムーズに行った。
そして・・・目の前に広がるのは美しい姿をしたマネキンの数々。
これだ!僕はこれが欲しかった!
いつもは、侵入するのも一苦労で、持ち出せない日もいっぱいあった。
でも、これからはこの地図があれば、いつでも好きなだけこの人形をもって帰れる!
僕は興奮を抑えきられないでいた。
好みのマネキンを見つけては解体し、あらかじめ用意しておいた袋に詰めていく。
「ふぅ、こんなもんかな。」
一仕事を終えて一息ついてると。
「あの・・。」
「えっ!」
いつの間にいたのか、そこにはあの女の人がいた。
「あ・・え・・あ!違うんです、これは」
必死に弁解しようとしたが頭の中が真っ白で何も思い浮かばない。
そもそも、なんでこの人はここに。
あたふたしてる僕と違い、女性は僕に近づいてきて、そして・・
「えっ!」
僕の手を強く握りしめた。
「あ、あの!えっ?いったい何を?」
思わぬ展開に僕はさらにパニックになった。
「思った通り、いい右手。あの地図の通りだわ。」
「右手?地図?」
僕が、質問をしようとした瞬間。
頭に突然鈍い痛みが走り目の前が真っ赤になった。
何が起きたかわからない。
その場に崩れ落ち、目の前が暗くなっていく。
最後に聞いたのは・・・
「見つけた。見つけた。」
見つけた?何を・・・駄目だ・・・。
僕の意識はそこで途絶えた。
「・・・次のニュースです。今朝、デパート内で男性のバラバラ死体が発見されました。遺体からは男性の右手だけが発見されず、手口から、警察では今までに起きた事件との関連性が高いと、見方を強めています。また、殺された男性の自宅からはなぜか大量のマネキンが発見され、これについても・・・・」
「この地図お返ししますね。欲しいもの全て見つかりましたから。」
「それは、よかった。あ、失礼かと思いますが、あなたは何を探していたんですか?」
「人形を作っていたんですが、右手のパーツだけいいのが見つからなくて、でも、ようやくそれが手に入ったんです。それでは。」
「彼女はそう言うと、笑顔で店を出て行きました。
いかがでしたか?人とは強欲な生き物です。
それが人の物であろうと、人の命であろうと欲しいと思う気持ちは誰にも止められないでしょう。
あなたの側に、変わった趣味をお持ちの方はいませんか?
そんな人には、是非ともこの地図を勧めてください。
きっと、満足のいく品が手に入ることでしょう。
さて、今回の話はここまでです。
次にお会いするときは、また、不思議な話をお聞かせできればと思います。
それに、もしかしたら、この次はあなたが物語の主人公になっているかもしれません。
お客様のご来店心からお待ちしております。」