第6話 とあるやつ
※これは恋愛系小説です。
「おーい、居るか?」
とあるマンションの一室。家と言っても一軒家でも無く、そもそも冥仁高校の生徒では無いそうだ。
中から眼鏡で細身の茶髪の男が出てくる。
「なんだ、諸井か。後輩も一緒か?」
「そうだ。何だその顔は、しょうがないだろ、コイツは臥竜の指名だし」
「はぁ、まぁいい。誰にも見られていないだろうな?」
「当たり前だ。裏ルートで来ている」
そうか。まぁ入れ。お前もだ。と、小声で言われ、中に通される。
中に入り廊下を歩き住人が扉を開けると、中にはコンピューターの様々な機器が積まれた部屋があった。
「で、今回は何なんだ? またネカマや出会い厨とかか?」
「いや、正真正銘の事件だ。今、学校を検索すれば一番最初に出る」
「あぁ、あれか。ネットでも騒ぎになってるから知っている。お前の管轄なのか?」
「そうなった。とりあえず調査を頼む」
「はぁ、高いぞ」
そう言い、男はパソコンを見つめ、検索をかける。
「今回は時間がかかりそうだから、終わったら連絡する。とりあえずその後輩の仕事を先に済ませておいたらどうなんだ?」
仕事? 俺は何も聞いていないのだが……
「あぁそうだな。波読、とりあえずお前の仕事を先にするぞ」
「仕事って……」
「おいおい、生徒会は実力主義って最初に臥竜が言ってただろ?要するに察しろってことだよ」
◇
次の日。
俺はいつも通り教室の席でラノベを読んでいた。
しかし、俺がなぜ諸井先輩と同じ仕事を与えられたのだろう。
察しろということはわかるが、何をどうすれば良いのだろうか? 諸井先輩からは、ヒントすらもらえなかった。
俺にできること。ここに来たばかりの俺は生徒会やクラスメイト以外の知り合いはおらず、そっち方面は無いと思う。
だが、部活に入っているわけでも無く、特技も無く、能力自体がそもそも無いはずなので、ここからなぜ推薦が来たのかということ自体も俺にはピンと来ない。
あるいは、俺が無いと思っていたこれらのモノが、全部自分にはあるとでも期待されているのだろうか?
と、ペタペタと音を立てつつ、誰かが寄ってくる。
「おはよ波読」
「おはよう。麻羅、急にどうした?」
麻羅はムッとした顔をし、
「いや、何も無いけど。挨拶はいらなかった?」
「いや、意外だったからさ」
そう。と一言。
「そういえばさ、呼ばれていたけどあれ何だったの?」
「生徒会の仕事だよ」
「それは知ってる。何の仕事なの?」
「あんまり人に言えることじゃないかな」
まぁ、本当は協力者を言えないのだが、一応内容全体を伏せておこう。どうせ察しているだろうけど、内容が内容だ。
「そうなんだ。まぁそんなこともあるか」
「そんなこともあるんだよ。しっかし、俺が呼ばれた意味がわからないんだよなぁ」
「どういうこと?」
「呼ばれたのは俺だけでは無かったけど、全員ではなくて、実際ペア組まされてさ。でも、俺だけにできることなんて無いから、それが不思議なんだよ」
「生徒会は実力主義って話だし、対応を見たいんじゃない?」
「とある先輩が言うには、『察しろ』っていうことだから、そういうものでは無いと思う」
『とある先輩』という部分に反応したが、鳳凰先輩が言ったわけではないのでスルーしよう。
「というと、明確な目的があって呼んだんじゃないの?経験積ませるとか、波読にしかできないこととか」
「『俺だけにしかできないこと』なんて思いつかねぇよ。このクラスのヤツに協力してもらうのなら別だけど」
「じゃあ経験じゃない? でもそんな軽いわけでは無いんだよね」
「そうなんだよ。これ自体が事件じゃないのに、迷宮入りだ」
「はぁ、自分に無いものばかり数えているからそうなるんじゃないの? とりあえず、他の先輩と違うことを一つ一つ考えてみたら?」
呆れた顔でため息をつきながら、麻羅は席に戻っていく。
先輩と違うことか、他の生徒会メンバーが全員二年ってことくらいだ。
俺が一年だからできること……
今は思いつかない。とりあえず進展を見守るしかなかろう。




