第8話「明鏡止水」
(聞こえた!この声は・・・ギャーム!)
俺は、例の老人のそばにいたあの巨大な一つ目の怪物をギャームと命名した。もちろん由来はあの独特の鳴き声からだ。
(普段の声量と、今の聞こえ具合、そしてこの洞窟を囲う壁の材質密度から計算すると・・・ここは、地下50m付近といったところか!)
俺は手足の動きを封じている市原につぶやいた。
「おい。お前には聞きたいことがたくさんあるが、とりあえず今はここから出ることが先決だ。眠っててもらうぜ」
と言うやいなや、俺は指をチョキにして、市原の両のまなこに突き刺した。いま下手に邪魔されると厄介だからな。これで気軽に見動きはできないはずだ。
ドシンドシンドシン!!!ゴゴゴゴ・・・・
「クソ!バカギャームの叫び声のせいで、崩壊がどんどん加速してきやがる!」
このままじゃ、市原と俺はなかよくこの地下深くで生き埋めだ。
絶望的な状況に、手はヒリつき、胸がざわつく。
が、しかし、そんな絶望を乗り越えた人物を俺はよく知っているじゃないか。
俺に残された手段は、ただ一つ。
スーーーーー
深く呼吸を整え、俺は神経を集中させた。
空気と一体化する感覚。
俺の耳が、この轟音鳴り響く中、俺の心音以外の音を遮断する。
張り付いた空気の緊張を極限まで高め。
一滴の雫が、水面に今ーーーー着弾した。
神の呼吸と、周期が一致した。そんな気がした。
ハーーーーーーーーーーーーーーーーー
全身を脱力させ、次の瞬間、俺の体は宙を舞った。
(じいさん、技を借りるぜっ!)
ダダダダダダダダダダダダッッッッ!!!!
ガガガガガガガガッッッッッ!!!!!
無数の掌打が天井を撃つ!
体が赤く発光し、体温が急激に上昇しているようだ。
俺の腕に触れた岩は、瞬時に蒸気となって消え去っていた。
背に抱えていた市原の衣服が破れ、溶ける。
と同時に、俺の衣服もすでに全焼していたのだが、今の俺はそんなことに気をかける余裕はない。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
バコォォォォォオォオオオオオン!!
大きな穴が開くと同時に、暗黒の世界に光が差し込む。
洞窟の外に出ることができたのだ。
神の技を使った反動か、全身がゴムを何重にもねじったような痛みをあげている。
俺はたまらずその場にへたりこんでしまった。
(こうしてマッパで地面に大の字になって太陽の光を浴びるなんて、いつぶりのことだろうかーーーー)
見事な脱出劇を賞賛するかのような太陽の陽射しは、男2人たちにむけサンサンと照らされていた。日の光には、古来より特別な祝福の力が宿ると言う。疲弊した肉体は、みるみる元気を取り戻していくようだった。
大成功!
しかし。
「キャ、」
「キャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
脱出した場所が、飯塚有希と福田成美のいた、あの海岸だったことを除いて、だが・・・
普段なら耳を突き刺すようなその甲高い悲鳴は、もはやこの2人に届くむべもなかった。
産業まとめ
・神の技により、崩壊する地中から脱出成功
・その代償に、全裸
・出た先にオンナノコ!?!?
水田貴之のイラスト5件を頂きました。
ありがとうございます^^