第7話 曇天の古都!! 鹿々の奈良公園!
西を目指して伊勢まで来た一行、いよいよ関西地方突入!
「いい加減に起きんかーい!!」
まごめは怒号を上げて千鳥を叩き起こす。毎朝毎朝、まるで20年前のパソコンのようになかなか起動しない。日本一周も5日目、早くも“ダラけ”に入ってしまい他の2人も眠りこけてる状況である。部長のまごめはルート構築を任され計画ではとっくに関西を抜けているはずであった。しかし1日200kmも走ることが出来ず大きく予定と乖離し、もどかしさと苛立ちを感じていた。
「これから四国・九州そして沖縄、そのあと北海道まで行くんだよ! このペースじゃまずいって!」
日本一周に限られた期間はわずか1ヵ月半、それで47都道府県まわろうとなると1日1県踏破のペースが必要。ここまで東京・千葉・神奈川・静岡・愛知・三重と4日で6県制覇と一見順調そうに思えるが、実際のところ沖縄と北海道という時間がかかる2大ボスが控えているため先を急ぐ必要があった。本日5日目は奈良・和歌山・大阪そして兵庫まで一気に4府県まわる意気込みであったが、ビジネスホテルのベッドに癒着しまたもやスタートダッシュに失敗してしまった。
結局チェックアウトぎりぎりの午前10時前に出発、起床も遅いがモーニング・化粧・荷物の積載に時間を要す。ワイルドな4人といっても20歳過ぎの女の子のためどうしても朝の支度は遅れてしまう。本日は暗雲立ち込める空一面、先が思いやられる不安な天気であった。これまでは海岸部から近い所を走っていたが、ここからは奈良市へ向け山間部に入っていく。カーブが多数で道がくねくねしており、地図の見た目より時間がかかってしまう。山の天気はコロコロ変わる。雲行きはどんどん怪しくなりとうとうポツポツと降り始めた。
「うわー降ってきたかー、カッパ着よ!」
一行はバイクを路肩に停め雨具を装備、一旦走り出すもすぐさま蒸し暑さで身が堪えてきた。雨模様とはいえ今は夏真っ盛り、ただでさえ暑苦しいライダースジャケット・パンツの上からカッパを着るとなると当然である。しばらく耐えて走っていたが我慢の限界が近づいてきた。すると道の駅の看板が見えてきて安堵、悪天候時にはオアシスのような休息地である。到着するなりすぐにトイレに駆け込み着替える。
「ほらな、だから北海道から行った方がええと言ったやん。」
カノンは反時計回りで先に北へ向かうルートを提案していた。それならば今頃岩手県あたりであり蒸し暑さに悶絶することもなかった。進行方向に対して海がすぐ左手に見えるからという安直な理由で時計回りで来てしまったことを後悔。今のところ幹線道路は海から少し離れた内陸にあり、まったく景観など関係なくメリットが見当たらない。だがもう近畿まで来てしまったので一行は西へ向かうしかなかった。
「あら東京から来たん、えっ日本一周!? はあ~ようやりおるなあ~(中略)ほな気いつけて、応援しとるで!」
道の駅の駐輪場で休んでいるといろんな人から声を掛けられる。人々の言葉遣いが関西弁に変化して遠くまで来たことを実感。雨で気が滅入っていた一同であったが多くの方々にエールをもらい元気を出す。雨が少し収まったタイミングを見計らい走り出す、伊勢に寄ったので結構な長丁場になった三重県を抜け奈良県へ。すると西日本最大級の道の駅“針テラス”が姿を現した。構内には様々な飲食店が立ち並んでいる。ここで遅めの昼食をとり奈良市中心部へ向かっていった。
「あーシカさんがいっぱいいるー! かわいいー!」
辿り着いたのは奈良公園。園内には鹿が多数生息している。人目を一切気にしないようで多数の観光客にもまったく動じない。それどころか餌を手に持つとこちらに近寄ってくるくらい人慣れしている。人を見かけると警戒し、こちらが動くと一目散に逃げ出す北海道の鹿とは大違いだ。鹿と戯れた後は東大寺へ、拝観時間終了ぎりぎりであった。千葉鋸山の大仏よりは小さいものの、こちらは華やかな装飾が施された屋内にあり威厳のあるお姿であった。
「今夜はスパセンに泊まるよ、ビジホは高いし出発遅くなるし!」
今夜は24時間営業のスーパー銭湯に泊まって行くことに。泊まるといっても大広場で仮眠するだけである。しかしビジネスホテルに比べれば半額程度で夜を明かせるので、学生で長期旅行とお金に余裕のない4人にとっては贅沢は言っていられなかった。まあ大浴場でゆったりリラックス、朝風呂も入っていけるのでコストパフォーマンスは悪くはない。こうして5日目の夜は更けていった。
翌朝、露天風呂にて本日の行き先をミーティングする4人。予定では和歌山・大阪・兵庫の順であったが。カノンは四国をまわることを考え和歌山からフェリーに乗るのがよいと提案。大阪には寄るものの兵庫県は後回しにしていいとのこと。125ccのバイクでは神戸淡路鳴門自動車道と瀬戸大橋が通行不可。広島県のしまなみ海道まで行く必要がある。よって四国へは関西からフェリーで渡って行く方法が最善だと言う。まごめの計画では四国入出ともにしまなみ海道の予定であったが、大きく日程が押しているのでルートの変更もやむを得なかった。兵庫県はカノンの地元であるため寄って行かなくていいのかと問う千鳥であったが、カノンはいいからいいからと和歌山出航を強引に押す。こうして6日目は先に大阪を目指すことになった。