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にほいち47  作者: 多摩みそ八
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第6話 尾張が見えぬ!? 遥かなる旅路!

 静岡市まで来た一行、大雨で緊急退避した宿はまさかのラブホだった!



「ふわあ……ここは? ってんなっっ!?」

 まごめは目が覚めると隣にはカノンが眠っていた。豪華絢爛に装飾されたインテリアの室内の中央には特大のダブルベッドが配置されている。昨夜は大雨にうたれて路頭に迷ったとはいえ勢いで泊まってしまったことを後悔。今夜の宿こそ計画を立てて予約しようとしたものの、夏休みシーズンの週末でなかなかいい条件の部屋が見つからない。天気も降水確率40%となんともはっきりしない不明瞭さなのでどこまで進めるかわからない。結局とりあえず午前中走って様子を見てから目星をつけることにする。バイクだと悪天候で大きく旅程が変わってしまうでむやみに宿を予約できない難しさがある。


「う~、恥ずかしかった~。早く行こっ!」

 駐車場で他の客に凝視されながら逃げるようにホテルを後にする。女子4人が重装備のバイクに乗ってきたというなかなか見られない珍妙な光景であった。初日と2日目に猛暑の中で走行した疲労が蓄積し昨夜は早めの就寝。ダブルベッドとはいえぐっすり眠ることができ体調は良好、日本一周3日目のスタートを切る。


 どんよりとした曇り空であったが逆に真夏の熾烈な日差しを遮ってくれるので、バイクで移動する身としては逆に好都合であった。本日最初の目的地はかつての東海道の難所・大井川。“箱根八里は馬でも越すが越すに越されぬ大井川”とうたわれた大きな幅広の一級河川である。その大井川に長大な木造橋が架けられていた。歩行者と自転車専用の蓬莱橋(ほうらいばし)、全長は897.4メートルで語呂合わせで“厄なし”と縁起が良い。江戸時代は架橋と渡船が認められておらず川越人足に頼るしかなかったが、明治時代に入りこの蓬莱橋が建設された。


 蓬莱橋を観光し終えた後は一路浜松へ。静岡市と双璧をなす政令指定都市であり、通り抜けるのに時間がかかった。横に長い長い静岡県もやっと終盤、広大な汽水湖・浜名湖が見えてきた。鰻が有名である浜名湖であるが、昨夜予想以上に出費が嵩んだためうなぎパイで妥協する。


 ようやく愛知県へ入る、時刻はすでに正午をまわっていた。まごめは先を急ごうとする。自分が計画した旅程ではすでに奈良県を抜けている予定であった。1日250~300kmの走行を目標としていたが、現実は下道で観光しながらとなると1日200kmの移動ですら骨が折れるものであった。実際初日と2日目の移動距離は170kmほどにとどまっている。だが他の3人はこの状況に危機感を持っていなかった。はじめての長期ツーリングで長大な日本列島の感覚がいまいちピンとこず、まだ3日目であったこともあり観光・寄り道していくことを楽観視していた。


「せっかくだから寄っていこーよ~、パワースポットだよパワースポット!」

 千鳥とゆきやは日本三大稲荷といわれる豊川稲荷に寄っていくことを希望。この2人はバイク歴が浅く長距離移動に慣れていないこともあり休憩を多めに望んでいた。愛知県は東京から新幹線やバスで手軽に訪れることができるので極力観光はせずに通過するつもりだったまごめ。しかしさすがに昼下がりのミストサウナのような蒸し暑さに心が折れ参拝していくことにする。豊川稲荷は織田信長や今川義元など名だたる戦国武将が信奉したとされる歴史深き寺院。奥の院にはきつねの石像千体“霊狐塚”がこっちを見て待ち受けていた。

挿絵(By みてみん)

 すっかり参拝に時間を費やしすでに午後3時、今夜の宿泊地を70km先の名古屋市に狙いを定める。ちょうどドミトリーの相部屋が空いておりネットで手配。宿を確保し安心したのか今度は国道沿いの岡崎城へ寄っていくことに。岡崎は徳川家康の生地であり三河国岡崎藩の中心地。天守閣は1959年に復元され日本百名城のひとつに選定されている。


 観光に寄り道ばかり、交通量もあっという間に増えてきてなかなか名古屋に辿り着かない。熱田神宮に到着するころにはすっかり黄昏時になっていた。あれもこれもと名所巡りに欲張りすぎて、自由きままな旅行のはずが慌ただしいハードスケジュールになってしまうことはよくあること。しかし現役大学生のみなぎるテンションで宿に着いてからも再び外出、夜の名古屋の街へ繰り出していった……



「ん……朝か……ってしまったぁ~!!」

 翌朝やらかしてしまったといわんばかりに狼狽えベッドから飛び起きる。時刻はすでに朝の9時をまわっている。基本的には早朝にスタートを切り距離を稼ぐ作戦であったが見事に大寝坊。昨夜は夜遅くまで飲み食い遊び歩き、観光疲れもあったため深い深い眠りについてしまった。ここまで遅れると急いで出るのもバカらしくなり開き直ってシャワーを浴びてからチェックアウト。開店直後に名古屋名物のきしめんを頬張る、鰹だしのあっさりとしたつゆは朝食に丁度よい。中央にバスレーンがあったりと名古屋独特の道路事情に戸惑いつつ伊勢へ進路を向ける。


 木曽川(きそがわ)・河口で揖斐川(いびがわ)と合流する長良川(ながらがわ)を渡り三重県へ。工業地帯の四日市・サーキットで有名な鈴鹿・最も短い地名“津”・牛肉の名産地松阪を通過。昨日は寄り道しすぎてさらに夜更かし、今朝は思いっきり寝坊した反省で本日は一気に伊勢神宮を目指す。お伊勢さんは神社本庁の最上位。社格は対象外というまさに別格であり、神社好きでなくとも参拝しておきたいところである。


「せっかくだから両方お参りしないとね!」

 伊勢神宮は外宮と内宮に分かれている。外宮は伊勢駅のすぐそばにあり、火除橋を渡り広大な境内を歩いて行く。内宮は5kmほど離れた場所にあり杉の木が立ち並ぶ閑静な場所にある。日曜日だったのでかなりの参拝客がいた、さすがといったところ。両方参拝しお土産屋にも寄って行くと2~3時間はかかってしまった。名古屋を出遅れた影響もあり気づけば夕刻、今夜は伊勢のビジネスホテルに泊まって行くことに。少々ヤニ臭い昭和の香りがする古いホテルであったがドミトリーに比べれば十分に快適であった。


 4日かけて東京から伊勢までのゆったりペース。このツケが回ってくることを思い知るのは、まだまだ先の話であった。

挿絵(By みてみん)

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