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にほいち47  作者: 多摩みそ八
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第5話 旅は道連れ!! 東海道珍道中!

 日本一周初日はふりだしへ戻る! 翌朝は今度こそ西を目指して……



 朝5時、千鳥のアパートにて。

「ピピピピピピピピピピッ……」

 千鳥は寝ぼけながら時計のアラームを止める。二度寝に関しては天才的な眠り姫で、あらゆる目覚まし時計も彼女を目覚めさすことができずにいた。だが今日は隣にまごめがいたので叩き起こされる。昨日のように10時出発なんてことは避けたい。早朝にスタートダッシュをかけて首都圏を脱出する作戦だ。昨日の反省を活かしすぐさま他の2人にもモーニングコール、昨日しつこく早起きするよう念を押したためさすがにちゃんと起きていた。これで一安心、昨夜あらかじめスーパーで購入しておいた缶コーヒーとパンを口に入れ迅速に出発の支度を済ませる。朝焼けが見事なグラデーションを彩る中、集合場所の川崎市役所前に向けバイクを走らせる。まごめのGSX-R125の後に千鳥のスーパーカブC125が後に続く。


「おはよー! 今日はまごめちゃんに怒られないよう早めに来たよ。」

 待ち合わせ場所にはゆきやが既に到着していた。フロント2本・リア1本タイヤの3輪バイク、トリシティ125には大型のパニアケースが3つ。原付二種とは思えないようなボリューム感のスタイルである。まもなく4人のうち唯一の川崎市在住のカノンがやってきた。小柄なZ125をまるで我がしもべのように颯爽と乗りこなす。これで全員揃ったところで今度こそ西を目指して走り出す。世間は朝の通勤が始まろうとしていたが、4人は日本一周というかつてない長い長い帰宅へ向け走り出した。


「うわー、さすがにこの時間なら江の島でも空いているねー。」

 湘南海岸から突き出た藤沢市江の島を横切る。海水浴シーズンには牛歩のごとく大渋滞する海岸線であるが、今は平日の朝で車の流れは順調であった。平塚市の湘南大橋を渡りまもなくすると自動車道との分岐が見えてきた。4人は小型二輪なので通行することはできない、ぼんやりしているとうっかり乗ってしまうのでナビを頼りに一般道へ。紙の地図頼りに旅してた20世紀の苦労などいざ知らず、今は125ccバイク用にアプリで設定し安心して走ることができる。いい時代になったものだなあ……


「あっちゃー、高速乗れないとなかなか進めんなー。」

 並走する自動車道・西湘(せいしょう)バイパスはすいすい車が流れどんどん追い抜かれていく。対してこちらは片側1車線の下道。路線バスも走っておりなかなかスピードが上がらない。そして高速との最大の違いは信号の有無、待ち時間で平均速度は大きく下がってしまう。高速は渋滞さえなければ巡航速度=平均速度だが、一般道は最高速度の半分程度、またそれ以下にまで平均速度が落ち込んでしまう。高速なら1日で東京から大阪まで余裕で着くが、下道なら名古屋ですら到着は厳しい。


「高速なら単調でつまらないじゃん! 下道で行ってこそ旅が楽しめるものさ。」

 まごめは苦し紛れな負け惜しみを言う。125ccのメリットは車体の軽さ・本体価格の安さ・燃費の良さ、そして学生にとっては一番大きいのはファミリーバイク保険が付帯できること。これは自動車保険のオプションであり同居または別居の未婚の子にも有効で125cc以下のバイクに適用される。つまり実家の車の保険でバイクの保険も賄えるので保険料を大幅に安くすることができる。維持費は安いものの高速は有料無料関わらず乗れないことは期間に余裕がない日本一周旅行にとっては大きなウィークポイントであった。


 一行は小田原を通過、いよいよ箱根峠を越えていく。このあたりまでは東京からの日帰り圏内であるので芦ノ湖をはじめ数々の観光名所はスルー。未知のエリアである静岡県へ突入しひたすら西を目指す。ここまでは快調であったが陽が昇ってきて不快指数は一気に上昇、たまらず道の駅へ逃げ込む。たいした用もないのについつい寄り道してしまう道の駅、ツーリングのペースが落ちる大きな要因のひとつである。結局1時間以上休憩してしまい蒸し暑さの中なか足取り重く三島市に向け下って行った。


「あっ、見て見て富士山だー! おっきいー、さすが日本一だね!」

 信号待ちで千鳥が右手を差し出し屹立する富士山を遠くに眺める。東京からは天気の条件に恵まれていなければなかなかはっきりとは見えないが、ここはお膝元の静岡県。8月なので頂には雪が残っていないものの、その威風堂々たる姿をばっちりとその目に収めることができた。そして富士市で再び休憩、この暑さだと1時間おきに休まないと厳しい状況。一度冷房の安らぎにつかまるとつい長居してしまう一同であった。


 静岡県に入ってからなかなかペースが上がらない、ようやく由比に差し掛かる。ここは海岸線に高速道路・一般道・鉄道がずらっと集まり並走している。撮影スポットは高台にあるため幹線道路をはずれ自動車の離合が困難な狭隘な坂道を登っていく。前方から対向車がやってきたがこちらは車幅が小さいバイク、難なく行き違いをして“さった峠”展望台に到着した。東名高速道路が緩やかなカーブを描きながら国道1号線とクロスしている。正面奥の駿河湾超しには富士山が映り見事に風光明媚な景色であった。

挿絵(By みてみん)

 峠を下りていくと静岡市中心部へ入ってきた。清水駅前を通り過ぎ日本平(にほんだいら)へ。こちらも富士山を望む名勝地であり、写真撮影・お土産物色に時間を費やす。早朝に出発したものの結局は休憩や観光であっという間に時は過ぎ陽が傾きつつあった。本日の到着目標は浜松市であったが想像以上に静岡県は横長でまだ半分も終わっていない。日本平を後にして浜松を目指すが雲行きが怪しくなってきた。ポツポツと雨が降り出して静岡市を抜けようかとしたときには完全に土砂降りになってきた。一向に治まる気配はなく、この大雨のなかで浜松まで走るのはいささか厳しい。するとホテルの看板が見えてきて千鳥が口を開く。


「あっホテルだ! 今夜はそこに泊まろうよ!」

 少し走っただけでもずぶ濡れになるような雨、藁をもすがる思いでホテルに向かうがそこはなんと……ラブホテルであった。唖然とするまごめとゆきやであったが、もう少しも動きたくないので仕方なく泊まっていくことに。女子4人でフロントに行くと明らかに受付スタッフは仰天していたが、旅の恥はかき捨てといわんばかりにカノンはぐいぐい進み部屋に入る。こうして初日に続き2日目も予想外の宿泊地となってしまった。4人の奇妙な冒険はまだまだ続く!

挿絵(By みてみん)

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