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にほいち47  作者: 多摩みそ八
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第4話 原点回帰!? 夕焼けの久里浜!

 千葉県鋸南町(きょなんまち)鋸山(のこぎりやま)



 一行は大仏を拝観し終え長い長い階段を登り山頂へ。午後4時過ぎとはいえ真夏の8月、地獄のような暑さである。その名のとおりといわんばかりの通称“地獄のぞき”へ到着。高さ100メートルの断崖が垂直に切り立ち展望台は大きくせり出している。もちろん転落防止柵は設置されているもののスリル満点の絶壁からの眺めは爽快。眼下にはまさに地獄のような奈落の底。あたりには房総半島の森林が広がり東京湾も一望できる。


「うわーいい眺め~、千葉にこんなところあったんだー!」

 千鳥は展望台から周囲を見渡し絶景に心躍らせる。沖縄の離島出身の彼女にとって本州の広大さは果てしなき続く大地のように目に映る。幼いころからほとんどを島内で暮らしてきた。長期休暇にはフェリーで島を出たことはあったものの、そこもまた沖縄本島の県内どまり。修学旅行でしか遠方に出かけたことがなく、今回の日本一周旅行は自身にとってかつてない壮大な冒険であった。


「私たちあそこから走ってきたんだよね! 苦労してバイクで来ると景色も一味違うね!」

 ゆきやは東京方面を指を差し、一同が猛暑の中で悶えながら走行してきた軌跡を振り返る。生まれも育ちも田園調布、厳格な父親とお淑やかな母親のもとで暮らしてきた。鋸山は小学生のとき家族でドライブで来たことがあり懐旧する。10年ほど時は流れ大学生となった今、こうして自分で運転して再びこの地に辿り着く達成感と充実感に満たされていた。


「絶景やな~わざわざ寄った甲斐があったわ~。六甲山を思い出すな……」

 カノンは山頂からのパノラマに納得し唸る。東京から時計回りに進もうとすると千葉県は逆方向で遠回り。それにいつでも日帰りで来ることができるので今回の日本一周には含まなくてよいと当初は考えていた。彼女は兵庫県の明石市出身で神戸市の六甲山は近場にあり何回か登りに行っていた。ありしの故郷を懐かしむと同時に、その表情はどこか寂しげなような気もした。

挿絵(By みてみん)

「ね、ねえ……もういいでしょ! 早く次行こっ!」

 高所恐怖症のまごめは切り立った展望所に足がすくんでいる。実際に来てみると想像以上に高い場所にありとても下方向には目は向けられない。山頂は傾斜がついており先端は少し下がった位置にあるのでいっそうスリルがある。バイクは高校時代から通学で乗っており怖いという感覚はないが、高い所は大の苦手であった。


 カノンは怯えるまごめをいいからいいからと腕で引き寄せ先端へ。後ろにいた観光客に頼み4人での記念撮影フォーショット、シャッターを切ってもらう。山頂“地獄のぞき”での用は済んだが鋸山の見所はまだある。大仏方向から登ってきた道とは別の階段を下りていくと現れたのはこれまた特大の観音様。岩場をざっくり縦長の長方形に切り抜かれその奥の壁にそびえ立ち存在感を放っている。戦争と交通事故の犠牲者の供養のため昭和41年(1966年)に石切場跡に刻み込まれた。高さ百尺(約30メートル)の荘厳な佇まいはまるで異国の修行地さながらの雰囲気であった。


 4人は鋸山を満喫して後にする。日が傾きはじめて暑さも真昼と比較すると少しは和らいできた。さて……次なる目的地は神奈川県であるが東京湾を挟んだ対岸である。またひたすらはるばると湾岸の一般道を通っていくのは面倒である。アクアラインは125ccのバイクでは通ることはできない。そこでフェリーの出番。鋸山からすぐ近くの金谷港と三浦半島・横須賀市久里浜を結び、バイク・車も積載することができる。午後6時25分発の船に乗り込み千葉県に別れを告げる。


「本島は今ごろ静岡に着いているはずだったのに……今晩どこに泊まろうかな?」

 スケジュールが押しに押して予定がすっかり狂ってしまった。4人は船上のデッキで夕焼けの東京湾を眺めながら今夜の宿泊地を決めることに。ところがスマホで検索してもなかなか安い宿が出てこない。夏休みシーズンの湘南、しかも宿泊当日の夕方に都合よく見つかるはずもなかった。初日から宿が見つからないという幸先の悪い展開となってしまっていた。するとカノンが一声をあげる。


「あ! ウチ、パンク修理剤持ってくるの忘れたわ~。なあまごめ、横須賀なら東京に近いし今夜は戻った方がええんちゃう? 荷物整理して明日から仕切り直しや!」

 今晩は各自の家に戻り明日から静岡へ向け西進する案を出す。ゆきやも持っていきたい服があったので帰宅することに賛成。まごめは家に帰るのは日本一周とはいえなくなってしまうとこれに反対。日程に余裕がないので少しでも先に進んでおきたいところであった。意見が割れ千鳥はどうするのかと皆に問われたが、ドラマの最終回を録画していたので戻りたいと発言。結局多数決で東京に戻ることになった。


「まったく初日から家に戻るなんて……あたしは家には帰らないからね! 千鳥、あんたの家に泊まるぞ、どうせ朝起きられないだろ!」

 まごめはルームメイトが見送ってくれたシェアハウスにはノコノコと帰りづらいので、千鳥の家に一緒に泊まることに。不満げな顔をしながら久里浜港へ降り立つ。あたりはすっかり黄昏時、横須賀の港町を通りつつ帰路へつく。夜の7時をまわったがまだまだ交通量は多く気温も蒸し暑い、横浜まで来ると完全に陽は沈んでおり華やかにライトアップされたみなとみらいの街並みが目に映る。国道15号・第1京浜道路に入るとあとは大学まで一直線、懐かしさなど微塵もない見慣れた道である。


「明日こそ6時に出るよ! そんじゃおつかれー!!」

 一行はまごめを除きそれぞれの自宅へ。日本一周なのにいきなり帰宅するという体たらく。こんな調子で果たして完走できるのか? 神すら予測不可能!? 結末はいかに!!

挿絵(By みてみん)


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