第3話 煉獄に仏!? 朱炎の房総半島!
最初に入ったのは千葉県。浦安市から富津市を目指す一行であった。
「あっつううううう!!」
8月真夏の炎天下、気温は35℃近くになり排気ガスの熱気も身に浴びる。半袖シャツで悠々自適、クーラー全開の箱の中。お車とは打って変わってこちらは全身剥き出しのおバイクである。直射日光と熱風をもろに受け、身も溶けるような苦行さながらだ。気持ち良く風を切って走ることが出来るなんて幻想であった。ここは首都圏、絶え間なく行き交う車と焦らされ苛立たせる信号で進んでは止まっての繰り返し。スタートから1時間、旧江戸川を渡り千葉県へ突入。右手にはかの有名な夢の国が見える。
「あーつーいーよー! ねーまごめちゃんそろそろコンビニ寄ろうよ~。」
ミッ〇ーとおそろいの(?)の髪型の千鳥は堪らず休憩を持ち掛ける。予定より大幅に遅れて出発したので先を急ぐまごめであったが、さすがにこの酷暑には堪えたのか一休みしていくことにした。……ところがなかなかコンビニが見えてこない。用が無い時は連続で出てくるのに、いざ寄ろうとした時に限ってすぐに巡り合えない儘ならぬ存在である。数十分走ってようやくオアシスが見つかった。
「ああ~涼しいいいいい!!」
冷房が効いている店内で一息つく。炭酸飲料とアイスを買い喉を潤す。しかしそれも束の間、すぐに蒸し苦しい空気が身体を包んでくる。まだが始まったばかりだが早くもバイク旅の厳しさを痛感する4人であった。すると1人のトラック運転手が声をかけてきた。
「お嬢ちゃんたち、この暑さでよくバイクに乗るね~、随分な大荷物だけど遠くに行くのかい?」
あきらかに日帰りとは思えない量の装備品のレディが4人、それも緑髪と金髪がいるので傍から見たらとても目につく。すると一番目立つグリーンヘアーのカノンが口を開く。
「ウチら日本一周してるんや! といっても今日始めたばっかりやけど。」
運転手は目を丸くして驚きたまげる、おおかた北海道行きのフェリーが出ている茨城県の大洗に向かっているのだろうと踏んでいたが、耳にしたのはまさかの日本全国。これから沖縄を目指しているなんて信じられない様子であった。するとすこし待っててくれと言いレジに向かった。
「後でこれでも飲んで元気づけて! そんじゃ気をつけてなー!」
キンキンに冷えている冷凍飲料を4本いただいた、これはありがたい。バッグにしまっていてもバイクなら冷たい飲み物はすぐにぬるま飲料になってしまう。冷凍なら少し時間が経ってもひんやりしておいしい。4人はこの差し入れで元気が出た。再び東京湾をなぞるよう進行し千葉市・袖ヶ浦市を越える、そしてようやく対岸の川崎市とを結ぶ木更津市までやってきた。
「やっと木更津まで着いたね、そろそろお昼にする?」
ゆきやは昼食とるかどうか問う、というより寄りたいという意思表示。しかしまごめは時間が押しており、先ほどコンビニに寄っているので目的地まで我慢しようと反対する。
カノンは多数決をとろうと提案し結局は……1対3で昼食をとっていくことになった。まだ到着までは1時間近くあり、3人はクーラーがきいたファミレスの誘惑に負けてしまったのだ。初日から予定が大きく狂ってしまったことに不満そうなまごめ。複数人で移動するとなると最も遅い人にペースを合わせるのでなかなか思い通りに進まない。
「まったく先が思いやられるなあ、本来は今ごろ平塚あたりまで進んでいるはずだったのに……」
初日の計画は朝6時に出発、午前中に千葉県を観光し終え神奈川県に渡る。午後には江の島・箱根を越え夕方には静岡県に入る予定だった。しかし準備が出来ておらず4時間遅れのスタート、道の流れも悪く未だ最初の目的地にも着いていない。そのうえファミレスで休憩していくときたもんだから今日中に静岡着はほぼ不可能となった。せっかちでガンガン前へ進んでいくまごめとは対照的に、ゆきやと千鳥はのんびり屋なのでスケジュール通りに走るのは難しかった。
「やっぱクーラーは天国だよ~、生き返る~ありがたや~!」
現在はお昼過ぎ、最も気温が高くなり屋外にいるのは厳しい時間帯である。一度涼みにきたらなかなか店内から抜けられない。ドリンクバーを注文したので何度もコップを汲みに行く。昨日まで試験だったので打ち上げさながらでありトークが弾む。気づけば2時間近くも休んでしまい現在午後の3時。とうとうまごめが痺れを切らして立ち上がった。
「いい加減に行くよ! こんな調子じゃいつまでたっても日本一周なんて出来ないよ! ホラホラとっとと席を立つ!」
冷房から離れられない千鳥たちを引きずり出し今度こそ目的地へ。木更津市街を抜けると交通量が減ってきてスムーズに進む。富津市街も通り抜けてさらに南へ、道は対面通行の片側1車線となり右手には東京湾が広がってきた。そして予定より6時間遅れの午後4時、ようやく目的地の富津市と鋸南町の境にある鋸山へとやってきた。
「やっっっと着いたー、結構登るらしいので着替えていくよ!」
真夏とはいえライダーは長袖長ズボン、この暑苦しい格好で観光するには厳しいのでトイレで半袖半ズボンまたはスカートに着替える。鋸山は標高330メートルの低山であるが、山全体がお寺の境内であり一通りまわるとなると結構歩く。まず目に入ってきたのは特大の大仏。総高31メートル・御丈21メートルの日本一の大きさだ。深緑の山肌を背に威風堂々と鎮座し強烈な存在感を放っていた。だが鋸山は大仏だけではない、一同は長い階段を登り山頂を目指していった……