第2話 暴虎馮河!! それでも我らは二兎を追う!
にほいち47 第2話
「暴虎馮河!! それでも我らは二兎を追う!」
炎天下のなか日本一周へ向け走り出した4人、時計周りでまわるはずが最初に向かうのは逆方向の千葉県だった!?
「なあまごめ、やっぱ千葉も行くんか?」
「そりゃそうだよ! 47都道府県全部行かないと!」
カノンがまごめに問いただす。4人はヘルメットの中にインカムを装着しており、走行中でも会話することができる。最初の目的地は対岸の千葉県富津市。東京湾を横断するアクアラインで行くとあっという間だが、全員とも乗っているのは125ccの小型二輪。自動車専用道路は走行できないのだ。おかげで大きく迂回する必要がある、しかし幸いにも東京ゲートブリッジを通って新木場まではショートカット可能。ここが開通していなければレインボーブリッジまで行くはめだった。
「勢いで決めたとはいえ全部まわるのは大変だね……」
ゆきやが霧がかかったような先行きが不安なことを案ずる。大学生の夏休みとはいえ4人は看護・医療系。実習や研修があるので自由な期間は限られる。タイムリミットは1ヶ月半後の9月中旬、その間47都道府県を小さなバイクで訪れるのはかなりタイトなスケジュールだ。
「大丈夫! まごめちゃんがリーダーだからなんくるない……よ!」
千鳥は普段通りに楽観的である、元々は千鳥の地元・沖縄とまごめの地元・北海道に遊びに行く話が大きくなって日本一周、そして47都道府県制覇と膨らんでしまった。それは昨年の2年生の夏休み後の時であった……
平成30年(2018年)9月 ファミレスにて
「あー実習とバイトで夏休み終わっちゃったよー……」
大学生の夏季休暇はバカンス三昧……というのは彼女らにとっては幻想であった。1年次に続いて2年次もアルバイト・実習・アルバイト・実習の繰り返しで、夏休みにほとんど遠出することはできなかった。そもそも普段から勉強・仕事に忙しいのでバイクで旅行などする余地がなかった。
「来年こそどこか遠くに出かけようよ! せっかくこうしてサークル作ったんだし!」
部長そして創設者のまごめはロングツーリングの計画を提案する。一同はうんうんと頷いてこれに賛同、3年次は実習がやや少なく就職活動もまだ始まっていないので比較的時間があるのだ。
「北海道とか行きたいなー……そうや! まごめの実家があるやん、ウチらと一緒に行ったらちょうどええんちゃう?」
カノンは夏の定番である北海道旅行を持ちかける。熱気地獄の関東からすると天国のような気候であり、バイク乗りにとっては憧れの聖地さながらの大地だ。特に西日本出身のカノンと千鳥は大きなロマンを抱いていた。ゆきやは裕福な家庭であり何度も家族旅行に行ってはいたが、バイクで行くとなると初めてのことなので期待に胸が膨らむ。
「いや……その私んちは行かなくていいよ! それより千鳥んちの沖縄がよくない? 南の島でゆっくりするなんて来年しかチャンスないよ!」
どこか後ろめたそうにまごめは反論、北海道とは正反対の沖縄を勧める。千鳥の実家は沖縄本島より西に離れた久米島、東京からすれば北海道よりも訪れるのが容易ではない。真夏にわざわざ行かなくてもいいだろうと呟くカノンであったが、千鳥はカラっとしていて本州に比べると過ごしやすいと述べ、実家に来るなら歓迎すると喜びほころぶ。ゆきやは久米島には訪れたことがなく北海道・沖縄どちらも魅力があるとどっちつかず。北海道に行きたいカノンと沖縄に行きたいまごめで主張が分かれた。すると思わぬ意見が出る。
「じゃあどっちも行こうよ! それから姉者の大阪にも! えーとそれからね……九州と四国にも行ってみたいな~!」
地理のことは詳しくない千鳥は行きたいところに全部行こうと申し出る。カノンの地元は兵庫県であるがおおよそ関西=大阪と思っている様子。九州と四国は沖縄に行く道中で寄っていけるだろうと軽く考えていた。この案に当初はみな疑問視する。学校は期間が空くのだがアルバイトをそんな長期にわたって休めないだろうと。しかしカノンはバイト先には海外研修に行ってくると虚偽をつくか、またいっそのこと辞めてしまえばいいと半ば冗談、半ば本気で発案する。その後も様々な意見が飛び交い議論は長丁場に。まとまりがつかず部長のまごめが切り出す。
「それならいっそのこと日本一周するか!?」
日本一周……思いもよらぬ壮大な響きに一同は目を輝かせる。再来年の4年生には就職活動、医学部のゆきやには研修が控えておいる。日本一周なんて千載一遇のチャンスは来年のみ! 話は盛り上がりあそこに行ってみたいあの道を通ってみたいと想像が膨らむ。
旅はこうして計画を練り始めたときが一番面白い時だったりする。すると時計回りと反時計回りどちらで行くのかで意見が分かれた。
「8月やしまずは北に向かった方がええんちゃう?」
東京から北海道すなわち反時計回りを提案するカノン。最も暑くなる時期は北国に避暑する賢明な案であると思えるが、旅の後半の西日本で台風シーズンとぶち当たる可能性が浮き彫りとなった。北日本なら台風の影響は少なくなる。日数にあまり余裕がないので悪天候で停滞するのは避けたい。どちらで行くにも一長一短の選択肢である。
「時計回りなら左手、つまり自分の車線側に海が見えて眺めがいいって聞いたことがあるけど……」
ゆきやは以前知り合いから耳にした言葉を思い出した。3人はそれいいねと賛同する。こうして3年生……新元号最初の夏は日本一周の時計回り! とノリで決定してしまったが、この時点では本当に日数・資金の問題をクリアできるのかと半信半疑であった。だが時が流れるにつれ日本一周の思いが次第に強くなり正月には決意が固まる。
「一生の思い出にみんなで日本一周に行こう!」
4人は学業は必要最小限、アルバイトはめいいっぱい精を出した。遊ぶ暇がほとんどなかったので資金は図らずも貯まっていった。ルート構築は部長のまごめに託された。一度決めたらとことん突き進む頑固な性格なので、いっそのこと全47都道府県に訪れる想いに燃えていた。
そして令和元年8月現在、4人は本当に日本一周へ走り出した。最後はとある場所で締めると計画していたので、まずは一旦千葉県へ進路を向けた。