第13話 忍び寄る軋轢!! 不穏な瀬戸内海!
しまなみ海道の因島でこの旅初のキャンプ、慣れないテントで一夜明け……
「マズいぞ……このままではマズいマズい!」
一人早起きしテントから出て思い悩むまごめ、その表情は焦りと苛立ちに満ちていた。東京を出発してから12日目、予定では既に沖縄に渡っているはずだった。しかし現在地は未だ瀬戸内・広島県に入ったばかり。スケジュールが押しに押して計画と大きく乖離している。このままでは47都道府県制覇が黄色信号、ペースを上げていく必要がある。
「いつまで寝てるの! とっとと目を覚まさんかーい!!」
テントから出てこない他の3人を恐母のごとく叩き起こす。蒸し暑さと連日の疲れもあり全身が怠くなかなか起動しない。特に豪邸育ちブルジョワのゆきやには辛いものであった。朝食は抜きで撤収の準備を急かす。グダグダになりながらもようやく荷物をまとめ出発する。陽はすでに45度の高さに昇っていた。
「もうこれ以上グズグズするわけにいかない、今日は一気に九州まで行くよ!」
しまなみ海道のラスト向島を抜け本州本土に渡る。そこは風光明媚な尾道の街。坂と裏路地、そして千光寺公園からの展望は山陽地方屈指の観光スポット。映画やドラマのロケも数多く行われた。そんな素敵な街に是非とも寄っていきたいと言うゆきやであったが、まごめは一喝。遅れている日程を取り戻すべく先を急ぐ。新幹線でいつでも来れる観光地は全て通過する意気込みだ。
(まごめったら急ぎすぎやなー、何もそこまで47都道府県に拘らなくてもええんとちゃう?)
カノンは遮二無二に突き進むまごめを懸念していた。サークル仲間みんなで長期旅行できるのもこれが最初で最後かもしれない。全国をコンプリートする達成感も大事だが、なにより楽しい思い出を残すことが重要であるのだが……ゆったり観光気分の千鳥・ゆきやに対してまごめがフラストレーションを徐々に溜めてきているのは明らかであった。
尾道を素通りして西に向かって国道2号線をまっすぐ突き進む。本格的にお盆に突入し、周りの車は家族連れだらけ。まったり流れる道路と照りつける太陽に4人はイライラを募らせていった。どうしてせっかくの夏休みにこんな修行みたいなことをしているのだろう。大学の同僚をはじめ世間一般は冷房が効いた実家でのんびり過ごしたり海外旅行を楽しんでいる。直射日光と排気ガスを全身に浴びながら広島市に入っていった。
「おなか空いた~、お好み焼き食べていこうよ~!」
千鳥は昼食に広島名物を希望する。まもなくお好み焼き屋の看板が見えてきて駐車場に入るがバイクですら止めるスペースがない。そして店の外には空席待ちの列ができている。ちょうどお昼時でしかもお盆期間のため飲食店は混雑していた。泣く泣く店を後にして昼食はコンビニで済ませることにした。ひとときの休息に心安らいだが間髪入れずにまごめは出発を促す。広島市も遊覧せずに通り抜ける気満々であった。
「まごめちゃん先を急ぐのはわかるけど、せめて広島県で一ヵ所くらい観光していきたいな……世界遺産の厳島神社に寄っていこうよ。」
ゆきやは連日の疲れが溜まり走り続けるのはしんどくなっていた。まごめに観光がてらの小休止……いや大休止を申し出る。だが寄り道する暇はない、しかもフェリーで渡る島など言語道断とこれを却下する。がっくりとうなだれそうになるゆきやであったが、千鳥は多数決で寄っていくかどうか決めようと提案。結果は明白であったが3対1で厳島行きが決定。納得のいかない表情のまごめ。だがカノンはまだ慌てるような時期ではない、いざとなったら夜中に走ればいいと宥める。
こうして一行はバイクを駐輪所に置いてフェリーで厳島、通称宮島へ渡る。対岸には大鳥居が見える近さでわずか10分の船旅。デッキには観光客が溢れていたが、4人は冷房の効いた室内の真ん中で涼んでいた。さすがの世界遺産とだけあって混雑していたがバイク乗車時の暑苦しい恰好から解放されて身体は楽になった。神社を参拝・鹿と戯れ・もみじ饅頭を頂き……結局何時間も島に滞在し結構出費もしてしまった。
「もー結局また夕方じゃないか、みんなダラダラしすぎだよ!」
まごめは怒りと呆れを交えながら文句をつける。再びかったるいライダー装備に身を包み走り出す。広島県を抜けようやく本州の西端・山口県に突入した。このまま今夜中に九州入りを狙うまごめであったが、ゆきやはここらで宿泊していこうと願い出る。本日は150km程度の移動距離だが猛暑と渋滞の中で走行し疲弊していた。一昨日は廃屋、昨日はキャンプ場と宿に泊まっていなかった影響も出ている。
「ホントしょーがないなー、ただしキャンプだよ! 明日は早起き6時出発!」
まごめは泊まるなら宿泊料金の安いキャンプ場にすると言う。またしてもベッドで眠れないことにゆきやは落胆するが、お盆真っ只中の今は宿泊施設の手配が難しかった。近くの風呂で一日の疲れと汗を流したが、蒸し暑いテントに戻ると瞬く間に全身はベタつき寝苦しい夜を迎えた。
翌朝一人起床するまごめ、いつものように3人を叩き起こす。未だ荷物の積載が円滑にいかず一時間ほどでようやく出発の準備が整ったころ……
「まごめちゃんちょっと待って、メイクまだ終わってないから……」
ゆきやは化粧室に行ってくると言い出した。ほぼすっぴんに近いまごめと千鳥。いつの間にかバシっと化粧を終えていたカノンだったが、おしゃれで女子力の高いゆきやはメイクアップが完了していなかった。まごめは出発が遅れることに不満げな顔、二人の間にはこの数日間で亀裂が生じていた。
「あんたのせいで日程が遅れてるんだからね! 昨日もわざわざ船に乗る観光地に寄るなんて…… 船か……もう仕方ない大分県までフェリーで渡るよ!」
ペースが上がらないことに不安を感じ、関門海峡を通らずフェリーでショートカットすることに。周南市の徳山港から国東市竹田津港まで2時間の船旅。周りの乗客は和気あいあいとしていたが、まごめとゆきやの間には険悪なムードが漂っていた……




