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人狼と少女  作者: 冬忍 金銀花
第1章 はじまり

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第7部 はじまりの章 キリの覚醒



 1937年(昭和12年)7月28日 北海道・札幌市


*)キリの覚醒


 皆は旅行準備の他人の荷物を批判しながらも、楽しく作業は進んでいる。


「レポート用紙は足りるかな」

「それよりカメラとフイルムは忘れるなよ、早くリュックに入れておけ」等々


 そこへ事務室の女史が慌てて駆け込んできて阿部教授を見るなり、


「良かった、見つかった」


 女史は見付からない阿部教授をあちこち探していたのだろう、肩で息をしている。そして私を見るなり飲みかけのジュースを奪い一気飲みした。私にとっては大事な物ですよキ~~!!


「あ、あ~それは杉田先輩の飲みかけジュース……あっぁ~……」


「なんだ、アルは入って……無いのね」

「大変です教授、三浦教授から電報です」

「え?なんだろう」


 なんですか? と言いながら皆が集まってきた。教授が電報を拡げて読む。


「大変だ、麻美さんが倒れて意識が無いと書かれている」


 私は教授から電報を奪うように取りあげる。本当だアサミ タオレルと書いてある。


「教授、麻美は大丈夫でしょうか」

「最後まで読みたまえ、2行目に意識は無いが大丈夫と書いてあるだろう」


 あ、ホントだ。でへっ。杉田先輩も心配顔で続けて、


「麻美さんは元気いいし、だからきっと大丈夫だ」

「ならいいけど……」


 私は不安でいっぱいだった。いくら大丈夫だ! と言われても心配は心配だよね。


「教授、電話とか出来ないんでしょうか」

「ん~、無理だ」


 一呼吸おいての返事がある。


「第一電報が届くようじゃね。シベリアの奥地だから電話機は在っても電話線が……無いよ。」


 しごく当然で真っ当な答えだ。


「次の連絡があるから、ここは落ち着いて待とうではないか」


 教授は女史に、三浦くんから連絡があり次第に家に電話するよう頼んでいた。皆もまた作業に掛るが、私の元に霧が寄って来て話しかける。


「あさみおねーちゃんは大丈夫かな、霧は何だか変な感じがするの」

「大丈夫よ霧ちゃん。あさみおねーちゃんはきっと無事よ」

「さくらおねーちゃん、霧は何だか朝から気分悪い」


 すると霧がそのまま倒れてしまった。限界だったのだろうか、私は旅行に浮かれてて気づいて遣れなかった親失格だ。


「教授~大変です、霧ちゃんが倒れました!」


 私は霧を抱き起こしながら教授に叫んでいた。教授は駆け寄り、


「どうしたキリ。おい霧、しっかりしろ」


 意識が無い。


 阿部教授は女史を呼び止めて三浦くんに霧が倒れたと、電報を返すように頼んだ。はい直ぐにと言う返事からすると、返信先が分かるようだった。


「智治くん、霧を抱いて家まで来てくれないか」

「さくらちゃんは先に帰宅して霧を休ませる準備を早く!」


 阿部教授は石川くんを呼んで、商店から氷を買い求めて自宅に行くよう指示した。


 教授宅で霧を休ませて、


「さくらちゃんは霧の看病を頼む」

「はいそうします。教授は皆の夕飯の出前をお願いします」


 そうだなと言って立ち上がり、ドア先で杉田先輩と鉢合わせになる。


 教授、来てくださいと杉田先輩が声をかけた。リビングに移動して相談するのね。



「旅行は中止しますか?」

「やむを得ないだろうな、麻美さんも倒れているし」


 教授は考え込んでしまった。


「智治くんには悪いが今日泊ってくれないか。三浦くんから連絡も有るから」


 二人で睡眠時間を交代して連絡を待つと決まった。私は到底眠ることは出来ない。十二時を過ぎた頃に三浦教授から電話がかかってきた。杉田先輩以外の全員がまだ起きている時間だった。先輩は四時位になれば起きて阿部教授と交代する事になっていた。


 教授が慌てて電話に飛びつく。


「三浦くん連絡ありがとう。時間は大丈夫だが麻美さんはどんな様子だ、こちらでは霧が倒れてしまった。え? 霧も大丈夫だと?」

「……」

「どうしてそんな事が判るんだい」


「実は十年前になるんだが、キリちゃんを託した母親が……」


 三浦教授は話し出した。


 あの子の名前はキリという。そして、青のロザリオを手渡された事。この子が七歳を過ぎるまでは絶対にロザリオは持たせてはならない。


 不意にこの子がロザリオに触れたら眠ってしまう。そしてどこかで生きている姉が意識を失うと、この子もきっと倒れるだろう、と。

 


 三浦教授は話を続けている。 


「私の家から、その渡されたロザリオを持ってきてくれないか」

「お前の家に行けばいいのだな」

「家には連絡しているから、行けば女房が待っている」


 阿部教授は杉田先輩を起こした。


「智治くん! 真夜中で済まないが三浦くんの家までロザリオを受け取りに行ってくれないか奥さんが待っているそうだ」


 自転車があるから使っていいよ、急いでとまでは言わない優しさがある。


 杉田くんが帰ってくるまでいったん電話を切ることにした。


 私は教授に紅茶を淹れたし、私も飲みたい気分でもあった。勿論石川くんにもね。


「さくらちゃん、麻美さんも霧も大丈夫だから安心してくれ」

「本当に大丈夫なんですか?」


 私は怪訝そうな顔をして尋ねた。


「智治くんが帰れば直ぐに分かるから」


 阿部教授から三浦教授の話の内容を教えてもらう。チキンポイポイのように理解出来ない、だって真夜中で頭は寝ているからね、それと頭に浮かんだ呪文はなに。


「そうなんですか、八年前にそのような出来事があったんですね」


 私は数日前の三浦教授と先輩の話を思い出して考えた。あの話がこの時だったのかと思い出してみた。


「教授、少し話しは変わるんですが霧ちゃんの夢の話です」

「霧の夢? がどうした」

「実は霧ちゃんが夢の中だと、麻美がお姉さんだと言うんです」


 教授は唸りながら時間をおき、


「三浦くんの話からするとな、霧ちゃんは麻美さんの妹になるんだ」

「ええ~! そうなんですか?」


 大きい声を出してしまった。私は大いに驚いたのだ。


「だって霧ちゃんはヨーロッパで引き取ったんでしょう?」

「じゃぁ麻美はどうなんですか? 瀬戸さんの子供でしょう、私たち幼馴染ですよ」

「うん三浦くんから電話があるから一番に尋ねようか」


 小一時間が過ぎて杉田先輩が帰って来た。自転車のブレーキ音が聞こえたのだ。

同時に私は冷蔵庫のドアを開けるのだが、玄関が良かったかも!


「キキー! ガチャ~ン」


「智治くん急いでもらってすまないね」

「いえいえ道中大丈夫でしたよ、これがロザリオです」


 道中に転倒や衝突はしていませんという事だが、先輩が車庫でぶつかったのは?


「これどうぞ、冷たいですから」


 杉田先輩には冷たいビールを出して、私は阿部教授が手にしたロザリオを見つめた。綺麗な十字架だこと、赤の宝石が綺麗だな。


 杉田先輩には私から教授から聞いた事を半分にして話した。思い出せないから半分になるのだ。


「三浦教授、早く電話……くれないかな」

「直ぐに掛かってくるだろう、あれから一時間が過ぎたよ」


 電話のベルの音がする。


「三浦くん待っていたよ~。それでどうすればいいんだい?」


 私は教授の袖を掴み少し引っ張った。私が疑問の思った事を訊いて貰う為だ。


「すまんが、先に麻美さんになにか秘密があるのかい?」


 三浦教授は麻美の出生の事実を話しだした。小さい時の記憶が欠如していて名前はユキという。麻美は三~四歳の時にロシア北部の寒村に続く道で倒れた老婆と一緒に三浦教授が保護して瀬戸家の養女ととして預けた。歳の計算が合わない事に、この時は気づかなかったね。そう考えてみたら私と麻美の歳がおかしくなるわ。


 昨日、偶然に麻美が赤いロザリオを拾って気を失ったこと、等々。


「三浦くん、こんな大事なことをどうして話してくれなかったんだ」


 阿部教授はやや怒り終いには怒鳴りだした。温和な教授が? ただ事ではない。私は手に取ったロザリオが最初から赤だと言った。


「阿部教授、これは最初から赤いロザリオですよ? 青ではありません」


「三浦くん、このロザリオは赤いよ、青じゃないのか?」


 三浦教授は少し考えたんだろう、返事が遅れた。


「青はキリで、赤は姉のユキが持つロザリオと聞いているよ」

「いや青です。でもなんで色が変わるのか、あ、こちらは青になっている」

「二人が倒れたせいで、色が反転したかもしれないな……」


「母親から封印を解く言葉を聞いている。メモしてくれないか」

「あ~あ、あ、待ってくれ。……さくら鉛筆と紙。……いいぞ教えてくれ」

「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ キリ」

「うん、メモした。直ぐに試してみる」


 この後直ぐに霧の部屋へ急いだ。霧は目覚めていたのだ。ロザリオに触れて気を失ったせいじゃないから目覚めが早いのかしら。私はそうでも無かったが、霧がこちらに振り向くと皆は驚いていて、中でも先輩は足が止まるほどに。


 キリの目が赤く輝いている。


 阿部教授は臆する事なくゆっくりと霧の傍に行き優しく声をかけた。霧は教授には答えずに私に怒りだしてしまう。


「おねーちゃんどこにいたの? さっきまで霧の横に居たのに」

「わぁ~ごめんね、淋しい思いさせたね……ごめんなさい」


 寝ていても私の存在を感じていたんだ。私は教授よりも早く駆け寄ってそしてこう続けて言った。


「これからね、お父さんが霧ちゃんにおまじないをかけるの」

「おまじない?」

「うんそうだよ。霧ちゃんが元気になりますようにとね、神様にお願いするのよ」


 教授は霧の傍に行きメモ用紙を見て確認し、そして霧に十字架を向けて言う。


「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ キリ」


 教授は唱えた。すると宝石が光り出し赤い石が青に変わりそれから十字架を霧に手渡した。霧は何も言わずに只管見つめている。目からは涙がボトボトと流れだしていた。


「キリちゃん……大丈夫?」


 私はキリを抱きしめた。霧の肩が小刻みに震えているが分かった。


 そして、霧は眠りについた。


「朝には目を覚ますからこのまま寝かせよう。」


 阿部教授は再度三浦教授の連絡を待つ。私は暫く霧の様子を見て自室へ戻った。


 朝になったので起き上がり直ぐさま霧の部屋へと行く。そこには教授が早く来ていてキリの寝顔を見つめてあった様が……それが異様に見えたのだ、ただ立ち尽くすような感じでだ。


 私はゆっくりと霧のベッドへ足を運んだ。


「あ、麻美? 麻美じゃないの?」

「いや、キリちゃんだよ」

「いやだって……麻美そっくりですよ? 胸大きいし」


 女が見る処は悲しいかな、女性としての体型だとは。


 阿部教授はキリを見つめながら考えたことを話し出す。どうしてここに麻美さんが居るのか、居たらおかしいでしょうがと。


「人狼の封印が解けて本来の姿になったんだろう」

「え”……そ、そんなことが起きるなんて……」


 私は口を押えながら、


「人狼? キリが人狼なんですか、なんでですか!」


 二人で騒いだせいかキリが目を覚ます。もう麻美と同じすっかり大人の女性の顔貌かおかたちだった。


 私はなんと言って言葉を掛けてやればいいのだろうか……。


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