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人狼と少女  作者: 冬忍 金銀花
第1章 はじまり

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第5部 はじまりの章 旅立ち

第1作 人狼と少女 

第2作 人狼 Zweiツバイ

第3作 人狼と少女  垣根の上を翔ぶ女  亜依音

第4作 未定



 1937年(昭和12年)7月17日 北海道・札幌市


 もうすぐ心騒ぐ夏休みだが我らオカ研に休みは無い。旅行申請は明日に学長の許可が下りるので決まったようなものだ。出立日は8月1日に決まったというか両教授がすでに決めていた。皆で騒いで討論して来たが両教授が申し訳なさそうに、頭は下げずに教授会の出席で東京に行った序での手土産を提げてきた。


 理由はこうだ。三十一日がお給料日だから七月中には出発出来ない。かく言う私もそうなのだ、阿部教授のお給料が出ないとお手伝いのバイト料が入らない。下宿代は相殺されてはいるが、これはこれで結構実入りがいいバイトなのだ。


 何なの? このサークルは。

 

 昭和十二年八月一日はシベリア鉄道経由による欧州への国際連絡運輸再開される日であり、七月中の出発は出来なかったかもしれない。ロシアの国際情勢が不安定で教授は皆の安全をとても心配していたからだよね。


 さて旅行の準備に一週間しかない。話の出なかった石川くんだが出なかった理由がある。講義にも出ていなくて休みが多かったのだ。


 ピンポーン、そうです旅行の軍資金を稼ぎに薄野に行っていたのです。バイトの業種は完全黙秘を貫いている。十日あまりでの稼ぎで路銀が足りるのかしら?

 

 阿部教授がにこやかな顔をして部屋に入ってきた。胸まで上げた手には分厚い茶封筒が握り締めてあったのだ。それには見えない熨斗が私にだけ見えている。


「お~いみんな大変だ喜べ。学長さまが、あの頭のうすい学長さまが軍資金の援助にと千円もの大金を出してくれたぞ」


 キャッホー、みんなは大きい声を上げて喜んだ。


「千円か、凄いですよね」


昭和十二年の千円とは如何ばかりだろうか。蛇足ながら百~百二十万位になるようだ。


「石川さん、これで路銀の心配が無くなりましたね」


 と麻美が囃し立てる。また三浦教授は、


「何を言うかね麻美くんは。不測の事態も想定しなきゃならん、まだまだ足りぬぞ」



「そんな時には阿部先生が出してくださいますわ」

「何を言うかね、どの口が喋ったのかな?」

「だって私たちに内緒で出かけるんでしたわよね?」


 麻美が食い下がる。私も応援で次の畳かけの一言を発する。


「教授は家宝の幸福の壺を骨董屋に持ち込んでましたわよ」


 こんな昔でも幸福の壺は存在したらしい。一体幾らで売り払ったのだろうか。


「おい、いったい誰のせいで骨董屋に行く羽目になったと思っているんだい。後期は赤点にするぞ!」


 安部教授はふてくされているようだ。もっとも安部教授は誰に向かって赤点宣言をしたのかは分らない。


「ねぇ石川さん。札幌で何か事件があったかしら?」

「いいや何も無いと思うけど? 安部教授。学長からの金一封は安全ですか?」

「ああ、あれね。大丈夫だ、とあるスポンサーが儲けさせてくれるからとニコニコして言っていたぞ」


 麻美は安心したが、この金一封の根拠は麻美の父が関わっているので当然とうの娘には何も知らされない。



 そのようなじゃれごとで騒いでいた所に、とある企業の名前を出して一人の女史が三浦教授を訪ねてきた。


 その企業名とは?


「株式会社 新興社の浅井と申します。この度は当社のお誘いをお受けして頂きまして真にありがとうございます」


「三浦くん、何をするんだい?」


 安部教授がどうも気になったようだ。浅井女史が三浦教授に尋ねた。


「はい社長のお願いとは三浦先生、申し上げてもよろしいでしょうか?」

「ん~恥ずかしいのだが、生物学の範囲でもあるから、その~」


 教授、教授とみんなは囃し立てる。いったい何だろうか。女史は何も言わない。


「シベリア旅行手記、なんだな~これが」


 シベリア旅行手記の何処が生物学の範囲でもあるのがか解らない。


「ん~つまり、シベリアには競走馬よりも速く走る馬が存在するんだ」


 と三浦教授は目を光らせて話し出す。日本の農耕馬の二倍の大きさで、それはとてつもなく速く野を駆け巡る黒い馬がいて、その馬を探して研究する。そして競走馬に仕立ててその遺伝子を取り入れるのが目的だと話す。


 手記は蛇足のようでもあり、目的は馬の確保なのか!


 ならば株式会社 新興社とは馬主なのか……道楽社長が馬主であってはならない。


 この情報を探して来たのが他ならぬ麻美であった。麻美、グッジョブ!


 新興社の社長と学長、麻美の父と三浦教授、いったいどのようにして繋がっているのだろうね。

 


「はい、ご要望通りに調査・旅費としての300円でよろしいのでしたら、明日にでもご持参いたします」


 阿部教授は下を向いて何か呟いている、「私の壺よりも高いとは」と聞き取れた。


 皆はさらに喜んだのは無理も無い話。三浦教授も策士だったようで、今日のこの時間に来てくれるよう頼み込んでいたから。


 今度の旅行は更に過酷度を増していて馬の確保という大きな仕事が増えた。黒い馬を捕えて麻美の牧場で掛け合わせることも決定済みというから先恐ろしい。


 実際に三浦教授は数年前から調査をしていて、すでに見つけているような口ぶりなのだ。


 三浦教授は皆に向かって、


「すまぬ、みんな聞いてくれ。私の計画が実現しそうだ。それで瀬戸さんの親父さんも同行する」


「あらあら!」


 麻美は驚いたように呟くから知らなかったんだよね~。


 阿部教授も叫ぶ。


「あ~学長も馬が好きでしたな。もしかして一枚噛んでいる?」


 総員うなずく。


 三浦教授が麻美を助けた村がそうらしいのだが何故か秘密である。と言うことで三浦教授と麻美と麻美のお父さんが先に出発する事が決まった。


 これは別な意味でも幸運だったと言える。


 出発の2日前になって阿部教授になにやらバイトが有るから、全員で協力して欲しいと三浦教授から相談が有った。何でも行の船内の仕事だそうだ。


 阿部教授からサークルの皆にはバイトの内容が改変されていた。楽な仕事だと嘘のバイト内容が説明された。


「杉田先輩! 今日は出番が無かったですね」

「おう、その事だが農機具の修理をしていたのさ」

「まぁバイト! お疲れ様です」

「なにを言う。おまえんちの農機具だぞ無給に決まっているだろう!」

「わ~先輩。ゴメンなチャイ」


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