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人狼と少女  作者: 冬忍 金銀花
最終章 エストニア市民独立運動

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41/41

人狼と少女 もう一つの物語 霧と麻美

エストニアの惨劇の少し前に二人目の人狼の巫女が生まれた。名前をキリという。

霧が母になるまで成長を遂げる劇的な物語。キリは次女で、麻美は長女。

本名はユキという。二人は二歳違いの姉妹なのだ。

                1936年7月22日(昭和11年)北海道・札幌


 霧は桜子に抱きつかれた瞬間に、無き母の面影を感じたのだった。

ただ向かいあっただけでは理解出来ない何かは、母への感情だった。幼い霧は

母のぬくもりを知らずに育った。同性である女としての感情が爆発したのは当然

だっただろう。

 同性への憧れなのか、はたまた、畏怖の念なのかは判らない。ただ、幼い子供

の霧に込みあげる感情とは、そういう激情が優先するはず。


 桜子から流れ出す未知の力、霧には畏怖するだけの感情としか言い表せない。

桜子の力に、どっぷりと浸かれば安らげる感情となり、相反する感情をむき出し

にすれば、威圧感に押し潰されそうで、恐怖となって襲いかかるようだった。


 幼い霧は、桜子の未知の力に対して、どちらを選んで良いかが判らない。

ただ、判らないだけなのだ。なのに、桜子は平気な顔をして、霧の心に侵入

しようとする。それが 霧には耐えられなかった。今まで独りで籠ってきた

自分をまるで否定するかのようだ。桜子はもしかして? そうか、自分を否定

しに来るのか? とまで考えてしまった。それくらい畏怖した。



 霧は幼いながらもずば抜けた知能を有している。きっと、桜子には負けない

自信もあるかとも考えた。


 昨日は、桜子が流れるほどの涙を私に見せた。この事実はどのように解釈

したらよいかも理解が出来ない。


 あ、そうか。これは私自身が感じた感情なのだ。ならば、桜お姉ちゃんの

感情からの、視点に変えたら? ならば・・・・。きつとそうだ。


 そうなのだ、桜お姉ちゃんには、母から受けた莫大な愛情がある。この、母から

受ける愛情とは、物事を慈しむ、育む力があるのだ。それは、親から子へと永遠

に受け継がれるべき親の愛そのものだ。


 霧はふと思った。自分には自分自身を育てる親の愛が無い事を悟る。これは、

桜お姉ちゃんを親に見立てて、たくさんの愛情を得る事が出来るチャンスなの

だと考えた。


 そうだ、桜お姉ちゃんから、たくさんの愛情をもらおう。そして、自分自身

を育てていこうと決心した。学校では、自分以外は無知の人間に見えていた。

 これは、自分が無知の塊だった事を意味するものと、解釈が出来た。

自分は独り。これは最悪の環境だ。この環境からは絶対に抜け出す必要がある。


「桜お姉ちゃん。今日は一緒に眠ってもいいかな。霧は、霧はね? とっても

 淋しかったようなの。だから、ね?」

「霧ちゃん。いつでもおいで。これからはいつも一緒だよ。だからさ、

 う~~んと、甘えていいのよ。」

「桜お姉ちゃんの身体、温かいね。今日はたくさん眠れそう・・・・。」


「もう、霧ったら、眠るのが早いのよ。桜は一緒に眠りたかったな。」


 霧は少しだけ涙を見せて眠っている・・・・・。桜子はそんな霧を見て幸せ

だと感じた。感じたのだった。


 これは、桜子が巫女として覚醒する前だから、桜子自身にも判らない感情

だった。この後は、霧も女として急激な程に成長していく。


 そう、桜子のライバルとなるのだ。桜子は心では気づいているが、霧が9歳

という見かけに囚われて、本当の霧の器量を見つけられていなかった。


 霧は現生で9年を生きている。並行世界でも9年を生きている。歳は

すでに18歳になっていた。このことは誰にも判らない並行世界の事象だった。



                1936年9月2日(昭和11年)北海道・札幌



「霧ちゃ~ん。朝だよ~。」

「うん、おはよう、お姉ちゃん。」

「霧ちゃん。おはよう。」

 今朝も二人の笑顔が交差する。教授は独りで新聞を読んでコーヒーを飲む。

今では教授が独り?となった。


「パパは新聞が面白いの?」

「はは、そうだね。戦時中に比較したら面白いだろうね。」

「ふ~ん。そうなんだ。」

「だってさ、戦時中のような、国民誘導の記事がないからさ。」

「だったら、霧とはお話をしないんだ。」

「そのような事は絶対にないぞ。あ!そうだ。霧は学校が終わったら、パパの

 大学へ遊びに来るといいよ。かっこいいお兄ちゃんが、いっぱい居るからね。」


 この教授の考え無しが、後々の火種となる。


 大学では?

「杉田先輩!おはようございます。」

「やぁ~、さくらさん。どうだい? あのやもめ教授の面倒を見るのは、大変

 だろう。」

「いいえ、霧ちゃんが居ますので、とても楽しいですよ。次はいつ教授宅へ

 いらっしゃるのですか? 楽しみにしていますのよ。」

「あの教授が楽しみにしているはずはありませんよ。霧ちゃんがでしょう?」

「いいえ、違います。絶対に違いますから。早く遊びに来てください。」


「桜子、おはよう。」

「うん、麻美。おはー。」

「今日の民俗学の授業はどうするの? また一番前の席に座って・・・・」

「そうね、家でも聞くことだし、また寝ようかな、アハハー。」

「もうのんきだね~」


「ねね、桜子。あの先生の面倒って、面倒ではないの?」

「身なり以外は合格よ。いつも万年背広に赤の蝶々でしょう? 教授の頭の中は

 きっと、お花畑なのよ。」

「そうね、きっと奥様と離縁されたからだわ!」

「麻美!もう朝から何と言う事を言うのよ。死別だわよ!もう不謹慎だわ。」

「間違えました。桜子奥様がいらっしゃいますものね!」

「勝手に嫁にしないでよ!」

「どうしようかな~」

「こ~ら、麻美!もう怒るわよ。」



                1936年9月10日(昭和11年)北海道大学


「今日は火曜日よ。あの天使さまが来る日ね。」

「そうね。麻美は初めてかな。霧ちゃんに会うのは。」

「初めてだよ。だって、桜子に引きずられてオカ研に行くんだもの。」

「お二人の教授の超常現象の体験談を聴いて、私がこの超常現象研究会を作った

 のですもの。面白いわよ。」

「そう、どじっこ教授の顛末記?かしら。」


 ちょうど居合わせた安部教授は、

「おいおい、瀬戸さん。それはあまりにもヒドイ言い方だよ。取り消して。」

「あら、先生。今日からお世話になります。」

「瀬戸くんは、何を研究したいんだい?」

「はい、ジンギス・カンの末裔の研究ですね。もしかしたら?この私もカンの

 末裔かも知れないと? 考えたら身体がゾクゾクしますわ。」

「それは無いわ。アハハハー。」


 麻美は、安部教授だけには、先生”という。傍から見ても、麻美はこの教授を

好きなのだと感じる。しかし、事実は異なる。麻美の父の弟、という続柄だ。

安部教授には、幼児期の2年ほどを過ごした父の、面影を慕っているのが本当

の理由だ。


「教授。杉田先輩との共同研究は進んでいますの?」

「いや、無理だね。第一に経験したのが、俺と三浦くんだろう? 書籍とか何も

 無いでしょうが。研究の方法が無いんだよ。」

「そうですよね~~。」


 桜子が、教授に杉田先輩との研究が進んでいるのかを訊ねた。始めから無理と

分かっているから、安心して研究が出来るのだ。桜子には、その意味が判らない。


 キャンパスを、霧ちゃんと先輩が歩いている姿が見えた。


「では、先輩にも声を掛けますか。ちょうど外を歩いてあるわ。」

「ねね、あのちびちゃんが天使さまなの?」


 私が屋外を歩いている先輩を見つけて変な事を言った。

「えぇ、そのようですわ。この私を差し置いていくんだもの。最低の野郎だね。」


「桜子、何を言うの? 顔が怖いわよ!」

 麻美は隣を歩いている女児の事を訊ねた。

「ええ、あの子が霧ちゃんよ。もう先輩ったら、他の女と歩いている。」

「ほぇ!・・・・・・。」


 これらの2つの言葉の意味が、麻美には理解出来なかった。第一に、霧ちゃんを

女呼ばわりするのは、なんなの?

 ただ単に桜子が好きな先輩と霧と歩いているのを見て、嫉妬心が芽生えただけ

で、それ以上の意味は無かった。こんな怖い言葉が桜子から出て来るとは、普通

だったらありえないはず。付き合いの長い麻美には判らなかった。


 桜子は、麻美が初登場した旨を部員に紹介した。

「みなさん、初めまして。瀬戸麻美です。よろしくお願いします。」

「杉田です。」

「石川です。」

「・・・・・・・・。」

「霧ちゃんです。当オカ研のマスコットガールですよ。」


 霧は麻美を見つめ続けている。終始無言を貫いた。そんな霧を桜子はどうしたら

良いのかが判らない。霧から見つめられる麻美も気持ちが悪いらしい。ついに桜子

へ助け舟を要求されることになった。


「ねぇ、桜子。霧ちゃんはどうしたのかな。気になるわ。どうかして頂戴。」

 桜子は少し考えて、霧を売店まで誘う事にする。

「霧ちゃん。ちょっと売店まで行くから、一緒に行こうか?」

「うん、一緒なら行く。」

 霧は、桜子との会話以外、部室ではこの一言のみだった。


 霧は麻美を見て、とても懐かしいような気が伝わってくるのだった。

この感情が桜子と初めて会った時とは違うと思えた、どことなく伝わってくる

不思議な感情。恐怖とは違う、母のような感情でもない。ならばなんだろうか。

この日の夜までこの思考探究が続いた。


 夕食でも無口になり、桜子も匙を投げてしまう。そうして就寝の時間となり

初めて霧の考えが桜子に告げられた。


「お姉ちゃん。今日も一緒に寝てくれないかな。霧は何だか淋しいような気が

 してきたの。」

「あらあら、どうしたのかな~」

「うん、麻美お姉さんを見た時からね、霧は変な感情が湧いて来たの。なんとも

 言えない感情なの。判らないのよ。」

「そっか、判らないんだ。」

「うん。」

「じゃぁあ、お姉ちゃんが質問するね。考えてみて答えてね。最初は、そうね、

 霧ちゃんのお母さん。・・・・どお?」

「違うと思う。お母さんは桜お姉ちゃんだよ。」

「まぁあ、うれしい! それでは、そうだな、お友達というのはどうかな。」

「友達は少ないけれども、出来たよ。」

「あらぁ、そうなの。良かったわね。いつかお姉ちゃんに紹介してね。女の子

 なの?」

「ちがうよ、智治お兄ちゃんだよ。」

「もう、霧のいじわる。噛みついちゃうからね。」

「ふふ~ん。びっくりした?」

「ええ、とても驚いたわ。当然でしょう?」

「今度は何があるかな~。お兄ちゃんというのは、・・・無しだよね。だったら

 お姉ちゃん。霧ちゃんの姉妹とかは?・・どうかしら。」

「・・・・・お姉ちゃん?・・・うん、お姉ちゃんだ!」

「あらまぁ、麻美お姉さま?」

「うん、麻美お姉さまだ。わーい、霧にお姉さまが出来た!」

「そうなんだ、良かったわね。おめでとう。」

「うん、ありがと・・・・・・。」

 霧は直ぐに眠ってしまう。長い事考えた疑問が解決したんだ、疲れた脳が

睡眠を要求したのだ。これが寝落ち?というのかしら。


 桜子も今日はとても疲れた一日になった。霧を追うようにして眠る。



                1936年9月11日(昭和11年)北海道大学


 翌日になり桜子は今日の予定を考える。昨晩は霧につられて眠ったから、思考

が出来なかった。霧のお弁当を作りながら考えた。


「ねぇ霧ちゃん。今日はおうちで待っていてね。麻美お姉さまを連れてくるから

 ね。今晩は三人で食事にしようか。」

「うん、楽しみ。でも、パパは居ないの?」

「そうなんだよね、パパは忙しいから学会に呼ばれたのよ。明日もいないの。」

「お土産があるかな~。」

「もちろん、無いわよ。期待したらダメよ。」


 桜子は小さい霧に向かって冷たい言葉を放った。当然霧は反撃にでる。


「そんなことはないもん。必ずお土産はあるもん。あるもん。絶対にあーる。」

「霧ちゃん、ごめんなさい。お姉ちゃんがいじわる言ったわ、ごめんね。」

「うん、いいよ。まだお弁当は出来ないの?」

「あらあら、もうこんな時間。パパのお弁当から霧ちゃんのお弁当へ、おかずを

 ワープ。」

「ワープ? なにそれ。おかしい。」

「ほら出来た。いってらっしゃい。気をつけてね。走ったら転ぶからね。」

「もう転ばないもん~。」

「いってきま~す。」

 バターン。玄関ドアが閉まる音が先に聞こえたような?

「教科書を忘れた。」

「もう、そそっかしいんだから。」

「いってきま~す。」


「霧は早いな。俺も行くか。明後日までよろしく頼んだよ。」

「はい、お任せください。」

「はい、お弁当。教授、お気をつけて。」

「なんだか、このお弁当は軽いな。」

「あら? そうかしら。」


 その日、麻美を連れて桜子は帰宅した。

「霧ちゃ~ん、ただいま~。」

「おかえり~。」

 二階から元気な声が聞こえる。

 バタン! ドテ!

 ドアが閉まる音と、霧が転んだ音が聞こえた。

「霧ちゃ~ん、大丈夫~。」

「う~ん、平気だよ~。」

 この夜は女三人で楽しいひと時が過ぎた。霧にはもう迷いが無くなっていた。




                1936年11月2日(昭和11年)北海道大学


 お題目の文化祭だ。11月2・3日は文化祭が行われた。麻美が居ると霧は

べったりと、くっつくよになった。傍から見たら歳の離れた姉妹に見えるように

仲が良かった。教授は、霧は人見知りしないよ”と言われたが、人当りの良さは

うわべだけで、本当は人見知りする方だった。それも強くである。


 霧が心を開いているのは、私と麻美、それに智治さんの三人だけだ。教授は除外

すべきだろう。三浦教授には一応懐いてはいるようだ。その他で言うと、私たちの

女友達には興味しか持ってはいなかった。霧は、どうも人間観察をしているふしが

ある。相手をとことん見つめて結論を出す。出したら、はい、それまで。それ以上

には興味を示さない、のだった。


 文化祭。私は高校で少々悪い事をした。クラスの出し物は自分の意見が採用された。

それとこれとは関係がない。霧の事だが・・・・。


「霧ちゃん。お姉さんは馬術部に呼ばれているから、また明日会いましょう。」

「いや、霧も行く。行くと言ったらいく。」

「もう、だだをこねるんだから~、困ったちゃんね。」

「桜子、一緒に来てくれるかしら。」

「嫌だわよ。だって、馬術部は遠いのですもの。」

「そうよね、あ、木村君に迎えに寄越すからさ、二人で馬に乗って来て!」

 その安近短の思考が、後々の麻美と霧の関係を生んでしまった。


「お待たせしました、霧お姫さま。お迎えにまいりました。」

と言う木村君であった。この馬は有料の曳き馬であって、子供らには人気がある。

霧は怖がることもしないで、逆に興味津々なのだ。


「わーい、お馬さんだ。早く乗せて。」


 桜子と霧は馬に揺られて馬術部の馬場に行った。着いても霧は降りようとは

しなかった。麻美は最初こそ笑っていたが、そのうちに笑えなくなった。

 木村君は、麻美に泣いて助けを求めに来たからである。


「さ、霧ちゃん。もう降りてくれないかな。また今度乗せてあげるからね。」

「麻美お姉ちゃん、約束だよ、絶対に絶対だよ。」

 口から出まかせの口約束のはずが、・・・・・。


 最後の方では、二人して競馬場通いまでするようになって、霧はとてもうまく

馬を乗りこなせるという。殆ど毎週になるほどに・・・・・。


 翌日の3日も馬場に留まり何度も馬に乗っていたそうだ。最後は農耕馬に跨り

得意げに馬を走らせたという。まさに天才かしら? と言われていた。


 この日から霧は毎晩のように、黒い大きな馬の夢を見るようになっていた。

麻美も大きな黒い馬の夢を見るという。とにかく野山を駆け巡る夢だそうだ。

これは、来年の8月に実現する。




                1936年11月11日(昭和11年)札幌市


「霧ちゃん、今日も長雨で退屈だね。お父さんの研究室に行こうか!」

「うん、でも、今日は家に居る。何だか気分が悪いの!」

「そうか、今日も雨だし、憂鬱だよね。」


 この日は豪雨で大きな被害が出ていた。(中沢ダム決壊事故)それほどひどい

雨だった。霧は文化祭以降、馬に乗りたくてしようが無かった。こうも雨が続く

と馬場にも通えないのだ。霧の頭の中では、鯛が靴を履いて行進するらしい。


「こんにちは~」

 玄関で麻美が大きく声を上げた。霧は、それこそ雨が上がったかのように、

顔がぱっと明るくなった。


 バタバタバタ・・・・霧は大きい足音を立てて、廊下を走り階段を駆け

下りた。

 バタン! 最後は玄関マットで滑った音だ。

「もう霧ちゃんは。そんなに忙しいの? ゆっくり歩きなさいよ。」

「あ、それからね、お父さんも直ぐに帰ってくるからね~~~~。」


 私はお風呂場からバスタオルを持って麻美を出迎える。私は麻美にタオルを

渡しながら会話に加わった。麻美は濡れた髪や服を拭きながら話している。


「え!麻美。それ、ホント?」

「そうね、私もお手伝いいたします。これでよろしいでしょうか。はい、

 これ、お土産よ。」


 麻美は、馬のおやつを持って来たのだった。

「おいしそうなリンゴだね。これ、高かったでしょう。きれいな色ですもの。」

「いいえ、これは霧ちゃんに渡して欲しいと、お馬さんがくれたのよ。」

「麻美はもう、冗談ばかり・・・。」

「お姉ちゃん、ほんとなの?」

「ほらほら、霧ちゃんが疑っているわよ。どう返事をするの?」

「簡単よ、こう言うのよ。」

「霧ちゃん。お馬さんがね、霧ちゃんに会いたいから、お土産に持ってって

 と言うから、持ってきたのよ。」

「わーい、お馬さんからだ!わーい。」


 私も麻美もはしゃぐ霧を見つめて、二人して笑い出した。


「桜子には、これね。・・・少し早いから小さいわよ。」

「あら、大きい大根ね。麻美の方がもっと大きいわ。」

「わー、桜子はひど~~い!」

 桜子は麻美をからかうために、小さい大根を大きいと言った。


 霧は果物ナイフでリンゴの皮をいで食べている。お腹が空いていたと

いう訳ではなく、いだリンゴの皮が、5mm幅のとても細い皮だった。

霧はとても器用だ。退屈でリンゴで遊んでいたのだ。


「霧ちゃん、この大根を細く切れるかな~。」

「うん、やってみる。麻美おねえちゃん、早く足出して!」

「もう、嫌よ。霧ったら。これも桜子の影響だわ。」


「アハハハハー!」

 桜子は豪快に笑った。同時に玄関ドアが閉まった音がした。

「もう、教授が帰宅されたのかな。」

 霧なら台所で大根で遊んでいるし?誰かな。

「こんばんわ~、お邪魔しま~す。」

「キャッ、先輩だ!」


 霧は? もう居ない。テーブルには大根が置いてある。


「霧ちゃん、もう危ないよ~。これは持って回ったらダメじゃないか~」


 玄関で先輩の声がした。話の内容が判らないので、桜子も玄関へ行く。

「あ、先輩!ごめんなさい。霧に大根の細切りを頼んでいたのよ。」


「智治おにいちゃん、ごめんなさい。もうしません。」

「そうだね、気をつけるんだよ。」

「は~い。」


 台所から麻美が出てきて、

「先輩も呼ばれたんですか?」

「そうなんだよ、急に呼び出しがあってね、これを持って行けって、頼まれた

 のだよ。」

 杉田先輩はそう言って、竹の皮で包んだ包を桜子に渡した。

「こ、これは、牛肉かしら!」

「今日は、牛大根ね。おいしいわよ!」

「桜ちゃん、他にもあるんだ。野菜がいっぱいね!」

「今日は、すき焼きよ。たいへん楽が出来るわ!」


 私は霧を見て、ギョ!っとした。霧が私の真似かもしれないが、先輩に

バスタオルを手渡した。

「お!霧ちゃんは良く気がついたね~、えらいぞ」

「うん、お兄ちゃん大好き!」

「ほっほう~」


 桜は台所でごそごそ始めた。まずは大根をぶっ叩いたのだった。

「霧のやつめ~!」


「桜~、1合とっくりは何処にあるの~」

「は~い、直ぐに行きま~す。」

「霧ちゃんは、座布団を人数分を用意してくれるかな~。」

「うん、出来るよ。5枚だね。」

「そうだ。多分、・・6枚になるわね。6枚を出してちょうだい。」


 台所では女が二人奮闘して、すき焼きの準備を進めた。杉田先輩は一人で

飲み始めている。お酌は? 霧がしていた・・・。

「はっはー、霧ちゃんは上手だね~」

「先輩!一本だけでお願いします。教授は帰宅まではもう暫くかかるでしょう

 から。男が 揃って飲んでくださいね。」

「桜ちゃん、そうだね。あと一本だけ!」

「麻美~、お酒を三本つけてちょうだい。」

「それは多いよ。」

「私が飲みます。」

「あはは~ぁ。まいりました。」

 桜子が先輩と飲みだしてしまった。


 食卓にはお皿と、七輪と鉄なべが置かれて、肉や野菜は大皿にてんこ盛り。

「さ、飲みましょう。」

 四人の前には、小鉢が一皿置いてあった。直ぐに教授が帰宅した。

「お~い、さくらちゃん。三浦君も一緒だよ~。」

「敵機来襲ね!さ、戦争よ。食べるわよ。」

「桜ちゃん、教授は放置するの?」

「そうよ、もう飲んでいるでしょう? 構わないわよ。」


 居間に現れた二人は、すでに酔っていた。


 揃ったところで食べだした時に、ガシャ~ンと、玄関で勢いよくドアを開けた

音がした。みんなは驚く。


「教授、教授は居ますか。桜ちゃん、居るか。」

「あらま~、お父さんだわ。私が行ってくる。」

 麻美は父が来た、と言って玄関に出向く。直ぐに親子の会話が。


「急になによ、お父さん。もう、びっくりしたじゃないのさ~」

「おや? 麻美か。ここで何してるんだい。」

「ご馳走になってるだけよ。」


 麻美の父は、急いでいる様子だった。

「ほら、まだ上がらないで。足を拭くまで待って。」


 親子で騒いでいると、三浦教授も玄関へ来た。

「おやー、瀬戸さんじゃないですか。どうされました?」

「あんたを探してここに来たんだ。見つかったよ。とうとう見つけた。」

「いや、私は逃げも隠れもいたしていませんが・・?・・。」


「違うよ。黒い馬だよ。」


 三浦教授は直ぐに喜んだ。

「そうか、見つかったか。で、捕まえた?」

「うんにゃ、まだだ。ここに居ては捕まえる事は無理だ。」

「それは、そうだ、ガハハハー。」

 三浦教授が笑った。この三浦教授は、人前では決して笑わない人として、

通っている。人前? 多分、独りの時でも笑わないでしょうけれども・・・。


「瀬戸さん、早く上がって。さ、飲みましょうや。」

「すまないね~、安部くん。お邪魔するよ。」

「瀬戸さん、また、黒い馬の事ですか。見つかったんですね。」

「ああ、そうなんだ。村の者が見つけたと、連絡があったんだよ。杉田君にも

 一緒に来てもらいたいよ。」

「どうして私もいくんでしょうか?」

 先輩は意味が分からないのだ。当然、私も麻美もだ。



「ほら、三浦くんが見つけたあのガイドだよ。ガイドから連絡があってね、

 黒い大きな馬を見つけた、と言うんだ。だから、また探しに行くから

 三浦くんを誘いに来たんです。」


「そうでしたか、で?」

「明日には発つよ。おお、麻美。お前も来い。」

「嫌です。お父さんだけで行って下さい。」

「杉田くんは? どうだい。」

「瀬戸さん、落ち着いて下さい。まだ大学では授業もありますし、直ぐに行く

 と言われましても、困りますよ。」


 瀬戸は急にしょげてしまった。瀬戸は直ぐにでも黒くて大きい野生馬を見て

みたいのだ。捕獲して競走馬にしたいのだった。


「そうだ瀬戸さん、冬休みに全員で行きましょうか。捕獲の準備にも時間が

 かかりますし、どうでしょうか。ね? そうしましょう。」


「そうですね。安部教授も来て頂けるのでしたら、そうしましょうか。」

「はい、お父さん。外は寒かったでしょう? 温まりますよ。」


 麻美は父におちょこを渡して、霧がお酌をした。

「はい、おじちゃん。」

「おう、ありがとう。良く気が利くね。」


 霧は座布団を持って来て麻美の父に差し出す。瀬戸は霧に、

「これ、お土産だ。」

「わ~い、ありがとう。」


「お父さん。それは、わた・・・・・。」

 麻美は途中で言葉を切った。それは自分の分だと言いたかったのだ。


「麻美!ありがとうね。霧が喜んでいますわ。」

 真っ赤なマフラーだった。



              1万文字程度を1章ずつで投稿いたします。

 これからは、麻美の出生の秘密も含めて、シベリアで三浦教授が見つけた

黒い馬の話しになる。夜更けまで話が続く。


 人狼と少女とは、内容を変えます。ここで麻美の出生の秘密をも含めます。

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