第33部 シベリア紀行 終章 ダイヤの封印解除の呪文を求めて
1916年(大正5年)12月12日 ウラル地方
*)ダイヤの呪文
桜子、ロク、アンナ、アンナの両親 の5人
シベリア、ウラル山脈北部に存在するコミの原生林へ向かう。
雪の少ないウラル山脈南部を横断して北上した。徒歩で向かうと言って、アンナの家族を驚かせてしまう。私にどうしてクロがついて来るかが、解らないが今回もお願いする。しかし、人数が5人だから、クロも一度には運べない。12回はかかるだろうか。
クロは何処にでも飛べて便利だが、宿やホテルが無いと困るので、一日目はトロイツコ・ペチョルスクまで。中継を入れて6往復した。アンナの家族はもうビックリだ。これで2回驚いた事になる。
トロイツコ・ペチョルスクは、綺麗に区画整理されたような街並みで、日本とは段違いに木々の緑が多い。雪がどれだけ積もるかは不明だが歩けるようだ。東に大きい、リカ・ペチョラ川がある。夏は穏やかのように見える。水の色が不気味でセグロークの色だ。
ここで一泊する。アンナさんの両親からも色々教えて頂いた。
北にインタ、という町がある。ここも鉱石・宝石を大量に産出する古い大地で、至る所に露天掘りの跡があり、放置された跡は水溜り状態だ。ロシアの鉱工業を支えている。
どこもかしこも掘り放題。しかし、冬が仕事にならない。露天掘りが一番お安いのだからしようがない。社会主義だから残土の処分も考える必要もない。
明日は、ここへ6回に分けて飛ぶ。クロも大変だ。クロのエネルゲンは何だろうか。私の寿命かもしれないと思ったら、泣けてきた。
無事に着いて宿も確保した。冬だからがら空きだ。ここの主人も不思議でしょうがないようだ。
「どうやって着きなさった」
理由を尋ねているのでは無いが、
「ここあたりで語り継がれている、口承の英雄叙事を探している」
としか言わない。後でロクさんからは、情報の与え過ぎだ、バカと言われた。
「さて、ロクさん。ロクさんのお庭に着きましたよ。どこに向かえばよろしいでしょうか?」
いじわるに尋ねた。答えは簡単、すぐ其処だったりした。
「まずは、食堂だな。後は明日だ」
飲みたい一心だ。ロシア軍の追跡はまず無い。安心している。でも、この世に霧が居ないとは思いもしてはいない。おおよそ2か月前に他界している。
翌朝になった。
今日は、アンナさん家族に働いてもらった。ロクさんは用無しだ。
「ちょっと! 桜子さん。着いて早々に私たちを働かせるとは、いい度胸をしていますわね!」
「ここは割り勘だから、いいでしょう?」
「いいえ、ここはロシアです、日本の文化は通用しません。雇い主の貴方が勘定を支払うべきです!!」
「ニキータ、明日は私たちだからね、お願いします」
「ふん!」
「ご主人、この村に長老さんは居ませんか? 年は90くらいの」
どこかで聞いたフレーズだ。長老さんは見つかるだろうか。片っ端から訪ねて廻った。初日は空ぶりに終わる。
「今日も沢山歩いたわね。この地では無いかもしれません」
「だがよ? クロが連れて来たから間違いは無いだろう」
「じょうちゃんよ、クロに訊いたか?」
「いや、出てこないんだもの。きっと疲れているんだわ」
桜子たちは、1916年12月から1917年3月までここに滞在する。エストニアで交戦が始まっている。だから、クロはエストニアに呼ばれている。
1916年12月25日 ウラル地方
雪で私たちの調査が進まない。路銀を飲んべ~が飲んでしまう。女たちは強かった。男2匹をとうとう追い出した。1か月分の宿代を温情で持たせたが。女3人も稼がなくてはならない。冬に仕事が有るものか。私が最初に見つかった。とある酒場の主人が見つけた。ウェイトレスとして採用してくれた。
お産で嫁っ子が働けなくなったからである。利口な亭主だ。客が少ない時期を出産期に選んでいるから。ただ、ほんの少しお産が早かった?
「酒場なら人は向こうから来る。探す手間が省けるものだ」
とはいかなかった。なんのことは無かった。新年でお客が多かったのであった。私は、忙しいだけで終わった。
1917年1月10日 ウラル地方
アンナさんが雇われた。薪割りだった。
1917年1月24日 ウラル地方
男2人が帰って来た。ひげは伸び放題で、服はボロボロではなかった。確たる情報が有ったのだ。
悲劇が起こる。10日分のお給金が酒に変わる瞬間を味わう。
「私のお金がぁ、ああああ・・・・・・・。」
宿代の清算に5人で働いた、15日間も働く。働く傍から流れていく。
おのれ!男共、ひどい目に遭わせてやる。女3人で先に旅立つ。3人の道中は気にしないで欲しい。男の二人はどうしただろうか。
この村には、何も情報は無かった。クロはどうしてここに連れて来たのかが判らない。おそらく、クロは私の専属ではない。麻美たちの方が危険が多いということで、私たちが安心して過ごせる村を見つけてくれたのだと、先々で考えた。
1917年2月20日 ウラル地方
ゴード・ヴ・ボンという小さな村であった。南に200k行った所に在った。ようやく、語り継がれている口承の英雄叙事詩が見つかったのだ。
言霊を伝承する老人を見つけた。私は、息せき切ってマシンガンをぶっ放した。相手は、盾を召喚して防ぐが、女の言霊には適わなかった。
「ウッフゥン!」
90歳でも陥落させる桜子が偉いのだろう。
「私たちは、ロシア軍の人狼兵増産を阻止しようと、宝石を持つ巫女を探しております。クリミアの聖地で黒の宝石を見つけました。直ぐにダイヤも見つけました。宝石の宝飾の意味も少し分りました。ですが、ダイヤの意味や力や呪文=言霊が分りませんので、どうかお教え下さい」
老人は私が差し出したダイヤを見ると、
「他の宝石もそうだが、これはワシも見た事は無い。言い伝えがあるので言霊を代々で守ってきただけだ。ワシの代で、この役割も終わるのだろう」
老人は嬉しいのか、悲しいのか、判らない顔の表情をした。しわが多くて判らないだけか!
ダイヤの封印解除の言霊を、老人が口にする。(伝説の勇士の名)
「ヴォルフ・フセスラーヴィエヴィチは、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、ヴォルフェンリード」
「これで封印が解けた。これはワシが解いただけであって、宝石の持ち主が各自に解く必要がある。お嬢さんが持ち帰るならば、お嬢さんも封印を解除する必要があろう」
「唱えなされ」
「ワシの真名をあなたの名前に置き換えるだけじゃ」
私は唱えてみた。
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、ヴォルフェンリード」
何も変化は無い。少しして思い出した。宝石の紫が居るではないか。宝石は見せて貰ってはいないが。
「アンナさん、紫の宝石を貸して頂けませんか?」
「いいえ、アンナは持ってはいませんよ」
「ほえ~!」
アンナの母が答える。どうしたことだろうか、最後の最後でつまずいてしまう。私はもうどうしたらいいか分らなくなった。そういえば、アンナの家に行っても宝石の事は尋ねなかったのを思いだした。
「わ~~~、私は、どじった~わ!!」
老人がアンナに尋ねた。
「アンナさん、あんたの髪飾りは何かいのう」
「これは、お婆様の形見です」
アンナは髪飾りを外した、長い髪が背中に流れた。私は驚いた。紫の宝石が髪の中に来るように作られていた。紫は在ったのだ。
「あった!」
私は大声を上げた。皆は驚く、それほどの大きい声だった。
「アンナさん、持っているじゃありませんか。それ? 違いますか?」
「これが? お婆様の形見という事で、お婆様から直接貰ったんです」
「アンナのお母さん、ご存じ無かったんですか?」
「いいえ、形見の髪飾りは知っていましたが、特にはなにも」
老人は試してみなされ、と言われた。アンナさんにダイヤを渡した。変化は無かった。私はさらに落ち込む。
「あのう、アンナさんのお母さん、アンナさんの封印とかご存じでしょうか?」
「封印?なんですか、それは」
「そうか、宝石と宝飾とかの意味を、お母さんは何も聞かされていないんですね。」
「はぁ!」
アンナは知らない、お母さんはお昼の用意で説明を聞いていない。お父さんは碌に知らない。ではお爺さんしか知らなかったのだろうか。だから、家族3人を行かせたのだろう。
そうか、アンナの家には、巫女のお婆ちゃんがもう他界して居なかった。
私は、封印を解く呪文をかけてみる。これで変化が無ければもうお終いだ。
「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ アンナ」
アンナさんが倒れた。しまった、椅子のままだった。お父さんが抱き上げ私たちの長椅子と場所を替わる。
「お父さん、ごめんなさい。自分の事しか考えていませんでした」
「なぁ~に、丈夫が取り柄だから、いいさ」
暫くはアンナさんは起きない。起きたらダイヤの呪文を言ってみよう。
「お爺さん!黒の宝石の意味と、ダイヤの意味を教えてください」
お爺さんは話し出した。
「ダイヤで7個の宝飾の封印を解けばいい。そうすれば、ソード等の巫女の武器で、人狼が人間に戻る」
老人はさりげなく重大な事を口にした。私は口に手を当てて驚いた。
「そんな~」
大きい声を出していた。
「わ~、凄いですわ、お爺様! 今晩はお赤飯ですよ。お爺さん」
言霊が失われた黒の伝承が解った。
「我は汝の力を司る。我は汝の真名を唱える、アクス・ファティーマ」
これは、8個の宝石が全て揃わないと意味が無い。
黒の宝石で7個の宝飾の力を吸収させ8個の力とする。そして、7個の宝飾に再度、黒の宝飾に宿った力を吸収させると、能力が全宝石の力と変化する。黒の能力を持った武器になる。自由に瞬間移動が出来る。どこにでも行ける。
ダイヤの封印解除で人狼と同じ万能の力が持てる。容姿は変化せずに人狼と同じ能力が持てるのだ。
赤 ソードダンサー、剣 ペンダント
黒 ソードダンサー、剣 指輪
緑 コボドダンサー、弓 ブレスレット
白 ブリュンダンサー、盾 ブローチ
紫 バルハーダンサー、槍 髪飾り
青 スクトゥムダンサー、両手剣 ペンダント
ピンク グレイプソードダンサー、薙刀 イヤリング
濃緑 ツヴァイヘンダー、両手剣 ネックレス
凄い事だ。巫女が人狼に変化する事なく人狼の力を得るのだ。美女が人狼に変化するのはイヤだろう。一人居たが桜子は見られなかった。
アンナが目を覚ます。ダイヤで封印解除をする。紫は光り覚醒した。
「やったー」
呪文の整理。
ダイヤの封印解除の言霊
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、ヴォルフェンリード」
アンナの封印解除
「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ アンナ」
全ての宝石の力の解放呪文の「我は汝の力を司る。我は汝の真名を唱える、アクス・ファティーマ」。これは8個の宝石が全て揃わないと意味が無い。
この村には22日間滞在した。お礼にと、私は老人の身体をもみほぐした。老人は嬉しそうに娘の事を話しだす。
「ワシはのう、シベリアの方から来たんじゃが、娘がのう、満州に行って結婚したんじゃよ。もの作りが得意でのう、竹で檻とか罠を作ってのう、鹿や熊をようけ捕まえよった。今でも生きておれば、83歳にはなるのう。あれにも娘が居るからあんたと同じくらいの歳になっておるだろうて」
「そうですか。私には両親がいますので、こうやって肩もみしていますと、両親の事を思い出します」
桜子はお孫さんの歳を計算してみた。???理解できなかった。娘さんは晩婚で孫は二十歳位の娘だという。私は、母の年齢から20年を引いた。確かに二十歳ほどになる。
「そうなんですか、私の母と同じくらいかもしれませんね」
「そうだろうよ、あんたは、不思議な事も言われるが、玄孫だね。ワシには判るよ」
「嫌ですよ、お爺さん。私は母以上のお婆ちゃんは知りませんもの」
私たちが去ってから約1か月後にこの老人はとても穏やかな顔で他界されたという。
最後の言葉が、
「玄孫に会えて嬉しかった! ワシは長生きして良かったよ」
桜子のダイヤの力を強く受けたのだ。人狼から人間に戻ったのだろう。桜子が20年前に飛んで来たのには、意味があったのだ。桜子の高祖父だった。
紫の宝石が見つかり、私たちはエカテリンブルグへと南下する。シベリア鉄道でモスクワ経由で、エストニアに行く。
1917年3月3日 エストニアに着き、悲しい出来事共にみんなと合流した。




