第32部 シベリア紀行 紫の宝石 アンナ
1916年(大正5年)12月10日 ウラル地方
*)異人と外人の旅
「ウラル山脈は俺の庭だ!」
と豪語する輩が居るがどうしたものか。親子とも思えない二人の旅が始まった。
私とロクさんは、ダイヤ能力解放呪文を探す旅に出た。クリミア半島で得た情報だと、シベリア、ウラル山脈北部に存在するコミの原生林にある。今からは冬で雪に覆われてしまう。見つける事は不可能だろう。
ウラル山脈は、古代ギリシアから存在を知られていて、鉱石、宝石を大量に産出する古い大地で、ロシアの鉱工業を支えている。
私たちは、ウラル山脈の東、ポカチ、に飛んだ。ポカチも上記理由で小さな村がある。近くには、露天掘りの跡だろうか、大小の池があり、リカ・アガンという大きな川が流れている。荒れくれた川で、大小さまざまな三日月湖が多数ある。クロはここを探せという。
*)三日月湖は高校の地学で習えば、上記のようになる。ウラル山脈の降水量は
日本の半分以下。だから、ここの三日月湖は別の要因で作られている。思う所は氷河期に名残りになるが、どうだろうか。北の国だからと言って、沢山雪が降る事は無い。日本の気候と日本人の無知が考えるだけのことだ。
「じょうちゃん、ここを探せと言うのかね?」
「ええ、すてきでしょう? ??・・・そうですね。また、クロに頼みますが」
「クロ、お願い。また、クロの力を貸して。クロ!」
「ロクさん、クロはお宿を探せ! と言うてますが?」
「じょうちゃん、あんたクロの言う事が判るんで?」
「はい、私が言いました。が、何か?」
「そうだろうな。先に宿を探すか。山だからな、無いだろうな」
でも、ここも鉱物・宝石の資源を求めて開拓された村だから、当然バイヤーも買付けに来る。生活物資の行商人も来る。来るからには当然宿は存在する。おりしも冬だから、がら空きだろう。
ロシアは露店が多いと聞いてはいたが、流石に真冬には出ていないだろうよ。でも、冷凍の魚類とウォッカが出ていたのには驚いたものだ。
歩けば直ぐに見つかった。赤提灯が下げてあった。ちょうちんには、酒、と漢字で書かれている。日本人の移住者が居た。嬉しい。
日本語で話し掛ける。
「宿泊したいのですが、お部屋はありますか?」
ここの主人はこちらを見るなり、眼を大きく、口は少し大きく開けてフリーズした。ロシアは寒いのだ。
「いや~、べっぴんさんが来るとは驚きだぜ。あんた、幾つだ?」
「年はいいでしょう、15歳よ」
20年もの過去に来ているから、-1歳だ。
ロクさんが、
「俺の娘だ、触るなよ。触ったら殺すゾ」
「へいへい、ひと部屋ですね」
私はガ~ン。同じ部屋か。でもロクさんは、私が襲われるようにとの思い遣りだ。
「はい、お願いします」
「お前は俺から襲われてもいいんだな?」
「はい、間違えました。襲われないように! と、訂正させて頂きます」
「旦那! 外の馬はどうすんでさ?」
「馬は居ませんよ。見間違いでしょうか?」
クロは消えていた。ここの主人は首を傾ける。何に乗って来たんかな? とね。
部屋に案内されて落ち着いた。まだ、暖炉には火が無い。ロクさんは急ぎ火を点けた。私は毛布に包まるしかない。ロクさんはウオッカを貰いに行った。この部屋は上等なのだろう、綺麗にされている。嬉しいが、宿泊料金をふんだくる気かもしれない。同じ泊めるのだから、高い料金で・・・・・す。
また階下に夕食を食べに行く。ロクさんは酒をあおっていて、こころは酒瓶の中にでもあるようだった。
私は「瓶詰の妖精にしたろか!」と思ったが、出来はしない。
「ロクさん、明日からどうしましょう」
宿の主人は落ち着かない様子で、こちらを見ている。日本語で尋ねた。
「あんたら、何しに来なさっただか? 駆け落ちでっか?」
日本語で言われても、ロクさんには通じるのか。あろうことか、返事をする。
「いやね、この地方の伝聞が無いか調べに来たんだが、この子が、方向音痴なもんで、道を間違えてね迷い込んだんでさ」
一応話の筋は通っている。不思議だ。
「方向音痴ですみません。道案内はクロですからね」
「序でさ! ここでも聞いて廻るとするかな」
「ご主人、この村に長老さんは居ませんか? 年は90くらいの」
「あぁ、居ますでさ。アンナの爺さんな。朝になったら道教えてやる・・・・いや、ちょうどアンナが来たね。酒買に来たんだろう」
私たちは入口を見たら一人の女性が入ってきた。アンナだった。酒瓶を出し、
「お爺さんのお酒買に来たよ。いつもの分をお願いね。はい、入れ物」
アンナは、27歳位で、身長は高く170cm、肌色は白、長い髪は丸めてかんざしの髪留めを使っている。顔はぽっちゃり。顔と言葉が一致しない。
「アンナ、お前さんとこにお客さんだよ。爺さんに会いたいとさ」
「あんただね! あんたんとこの馬が煩くてさ、文句言いに来たんだがね?」
「いや~、クロが居なくなったから帰ったと思ってたんだが。お邪魔しましたか。明日にお伺いしようと、道を聞いていまして」
「私を案内したから、もう帰ったよ。何の用だい」
「ニキータさんと、どっこいどっこいね」
「俺の娘だ、可愛いだろう? 文句言うな!」
ロクさんは、ニキータの弁護をする。
「できたぜ、1ルーブルな」
「すまね~な、いつも格安にしてくれて。沢山飲むから、ほ~んと助かるよ」
「なに言ってるんだい、格安の酒さ~ね.裏で沢山出来てるし?」
この頃は密造酒で、国に税金が入らないので、とことん取締を行っている。
ちなみに、ここではジャムから製造すると教えてもらった。恐ろしい話しだ。ロシア人は、接着剤、整髪料などからもアルコールを取だす知識がある。戦車の不凍液はそのまま飲んでしまい、戦車を壊したという。普通の家庭では、ここと同じくジャムが多いらしい。ロシアンティーじゃないの?
「あの~、アンナさんは、紫の宝石をお持ちですか?」
「明日きな!」
「亭主、また来るぜ」
アンナは用件を聞くかと思ったが、さっさと帰ってしまう。私はあっけにとられてしまう。
「おい、あんたら、アンナが何か置いていったぜ」
拡げて見ると地図が書かれていた。
「酒はこれくらいでいいだろう、漫才になるからさ」
「ありがとうございます。ご主人さま!」
ロクさんは地図を見ているが、解らないようだ。私も見てみた。ここが宿で隣2軒のしるしがあって、後は何も無くて、離れた所に、ここと書いてある。
「なぁ、この地図は合ってるか? 俺、解らね~」
「どれどれ、う~ん、合ってる。それでいい。しかし、なんでアンナはこれを書いて来たんだろう?」
さっきの言葉はうそだった。ロクさんが自分から、酒はこれくらいでいいだろうと言ったが、私には飲んだ酒の量かと思ったのだ。事実は注文した量の事だった。
ロクさんは、安酒でヨロヨロになった。私が薪を暖炉に沢山入れたら、この宿を燃やすのかと怒られた。火の番で眠れなかった。
*)アンナと両親と
「ちょっと、あんた! この酒を買ってから持っていきな! 日本人なら分るだろう!」
「はい、2ルーブルね!」
朝になりロクさんと、アンナさんの家を尋ねた。30分で分った。途中に家は2軒だけで他は無かった。30分も歩いたね。アンナさんは待っていた。
「アンナさん、こんにちは」
「おう、入んな。お爺ちゃん来たぜ。親父は起きてるか?」
「母さんは薪とりに行ってるから直ぐに来るよ」
薪とりとは、別の意味である。真冬に薪の採集とかはしないはずだ。
アンナさんの家族が揃ったので、私はこれまでの事を話した。2時間はかかったかもしれない。お母さんが昼食の用意を始めた。
「そうか、ついにこの時が来たんだな。お前ら行って手伝ったれ」
お爺さんは家族に向かい、嬉しそうに私が渡した2本の酒を抱いていた。
お爺さんからは、人狼の史実が判る。人狼の実話が出てくる。人狼の言い伝えが出てくる、などなど。沢山の事を話して頂いた。
最後に、
「アンナ、あそこに案内してやれ。覚えているかい」
「コミの原生林、だろ? 遠いぜ」
お爺さんは、続けて、
「あのあたりで語り継がれている、口承の英雄叙事詩がある。これがダイヤの封印を解く呪文だよ」
「お爺さんは覚えてらっしゃらないのですか?」
「半分は覚えているさ。でもな、肝心な文言は伏せられているんだよ。代々で守っているんだね」
「俺のこたぁ~いいから、明日にでも、三人揃って行ったれや」
「親父、母さん。行けるか?」
「ああ、いいよ。アンナも来るだろう?」
私は間髪を入れずにお礼の言葉を述べていた。
「ありがとうございます」
私は燥いだように明るくお礼を言った。もう、お昼の時間は過ぎていた。今晩は、宿泊させていただく。飲んべ~が居るからなおの事。
5ルーブルでお酒を買いに行った。クロと3往復した。合計で15分足らずだが。ここは星は見えない。いつも曇天だ。流星群を見たいな!
朝、荷物を取に宿屋に寄り、コミの原生林に向かう。アンナのお母さんはお爺さんの事を頼んで行った。宿屋の料金はどうなったかは不明。




