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人狼と少女  作者: 冬忍 金銀花
第2章 シベリア紀行

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第25部 ロシア軍 モンゴル村の人狼捕獲 

              

 1926年(昭和元年) モンゴル地方 


*)幸夫とホロとユキの村


 11年位前のユキと両親らが暮らすモンゴルの村の事である。


 悠久の大地モンゴル。視界を遮るものがない広大な草原。たくさんの雲が流れ北海道のウトナイ湖からだと思う鶴の群れが飛んで行く。緑の大地がお花のじゅたんになる。夏は短い。春は無いのだろうか。雪が解ければもう夏。直ぐに茶色の世界に変わる。厳しい自然。冬は少しの積雪と空と雲の世界。


 赤茶けた大地。岩や砂、石が転がる。雪解けの水が溜まる土地は少しばかりのオアシス。風が吹けば砂が飛ぶ。不毛の大地としか思えない。岩の間の少しの土に花は咲くのかな。


 厳しい自然でも、動物たちはたくさん生きている。そんな動物たちを育む森。所々にある小さな木々の林は背丈が短い。もう少し南に下れば木々は大きくなり森となる。オオカミも生きている。そう、オオカミだ。


 こんな厳しい自然の中に、遊牧民の人々は住まい、生活をする。


 ユキはまだ両親のお手伝いくらいの仕事しか出来ない。出来ないが父の居る山羊の放牧地までは、愛馬のクロに跨りお弁当を届けている。帰りは同じ道は通らない。道は当然無いのだが、ほんの数日で草地の景色は変わる。クロは背の小さい仔馬だ。ユキが可愛がってきた。ユキ言うことが解かる利口な黒い馬。


 お父さんの手伝いで、クロと一緒に山羊を追う。そんな毎日が続く。



 ある日、人狼研究者が若い軍人を同行して村に来た。モンゴル村の風土病の研究という理由で滞在しての調査だ。


 もちろん、若い軍人は入隊2か月のペーペーを当てている。その方が軍人とは思われない。どんな優秀な人材を当てても、不自然さが残るから不適だ。地方の村の農民の出と、念の入れようだから感心もする。


 人狼研究者=イルクーツク図書館の書士の父である。名は? まだ無い。


 村の風土病の研究として、人狼の研究を1か月滞在して行った。まずは人狼を見つける為に血液検査を行う必要がある。自分から、私は人狼ですと申告する者はいない。どういう名目で血液採収を行うかが問題だ。


 なんでも無いようなウィルスを散布して、村人を病気にさせるのが普通か。若しくは、重大な病人を送り込み、発病させ村人を不安にさせる。治療の申請があって医者を送り込み採血をする。こちらが自然で良いだろう。


 当時はDNAの検査はまだ出来ないから、血液から見つける事が出来たかは不明。


 とにかく潜入調査が開始された。1か月の長期滞在は村人を信用させる目的であるので、若い軍人には村の農作業をさせたり、羊の世話をさせたりして、村人に馴染ませる事から始めた。結果は上々であった。


 名の無い研究者は、この地に何か病気・風土病が有るかを尋ねて回るのだった。


 特に採血させて頂けるような人物には、手土産持参で訪問を繰り返す。また、村の出来事や超常現象の聞き込みにも励んでいる。それとはなく人狼が居ないかを探して回った。そして見つける。名前も参考しているが、異様に長生きの老人が居た為に見つけられた。ユキの家族である。母は、ホロ、夫は、

ユキオ、娘は、ユキ。母親が90歳ほどであった。


 人狼は長生きするらしい、という情報があったからだが、ごく普通の老人よりも屈強で力が強かった。不幸なことである。研究者の眼が鋭かった。10年以上に亘り、文献を漁り聞き込みにも力を入れて来たから当然だろうか。目星が付いたので一度報告に帰る。戻るつもりがあったようで少し荷物を残していたが、そのまま村には戻っていない。



 翌年にロシア軍挙げての捕獲作戦が行われたのだった。


 研究者が帰って半年間は何事もなく過ぎた。翌年の春。ロシア軍が大挙して来た。とにかく人狼は強いので少々の傷では死なないという云い伝えがあるからだ。少しは殺害されてもいいように20人位で押しかけた。

 

 捕獲対象は、老婆と夫婦2人、と3歳位の娘であった。が、情報が少し抜けたので、3歳の娘が母親の腹の子、と伝わった為に娘ことユキは難をのがれる。老婆はかなり遠方に買い出しに行っていたから、捕獲から外された。もっとも第一の目的が人狼の男だからであった。ユキはとある兵士の愛情で逃れたのだ。


「捕獲対象は、老婆・夫婦2人と子供1人の4人だ。よし、全員小銃携帯のうえ捕獲作業を開始せよ」


 隊長の合図で捕獲作戦が始まった。夕餉前で全員が揃う時間に行われる。


「隊長、夫婦2人は抵抗がありませんでしたので直ぐに捕獲しました。子供が見当たりません。夫婦が言うには、あとは老婆だけと言うのです。老婆はウランバートルまで塩の買い付けに行って留守です。 情報は正しいのでしょうか。子供とは、妊娠中の子供でありますか」


「おい、あの若い奴を呼べ。訊いてみる」


 1年前に潜入捜査を担当したペーペーだ。この若い兵士はユキと仲が良くユキが自分の田舎の妹? にでも思えたのか、とある芝居を打った。


「隊長、お呼びですか」

「子供が居ないがどうしてだ。報告しろ」


若い軍人は、10日ほど前に思いついた芝居を始める。


「子供ですか、少しお待ちください。あぁ、これは当時妊娠中でありましたので、 今年には産まれているだろうと予想して、子供と書いております」


 うそである。1年前は確かに妊娠中だったかも知れないが確認されてない。事実3歳くらいの娘だからこの嘘は通用しないが。あえて、子供としか記入していないのだ。


「そうか、今にでも産まれそうだから、そうだろう」


 すっかり信じてしまった。若い兵士は喜んだ。その頃ユキは、あまりにも遠くまでクロと乗馬に行っていたので、帰宅が遅れていたのだ。


「クロ、遠くまで来たからもう帰ろう」


 そう言ってユキはクロを反転させてまた走り出す。遠くに村のテントが見える。もう夕飯の支度の煙がたくさん見える。近づくと沢山の兵隊だろうか、見た事もない武器を持っている。



 テントに行こうとして、村の男から制止させられた。


「ユキ!行ってはだめだ、ユキまで捕まってしまう」

「離して!お願いだから、離してよ!」


 抵抗するも大人は力が強いから逃れる事は出来ない。


 こうして、ユキと老婆は捕獲を逃れた。


 老婆はユキが捕まらないよう、村を離れる事にした。シベリアの北に向かい旅を続けた。果てしない道のりだが、クロが付いて来たからとても助かった。道は何処も同じように1本道だ。見つかる訳にはいかないから、並行世界に逃れた。


 これが、麻美=ユキの事件だ。


 母親の出産が近いので、ウランバートルに寄りお産を済ませた。少佐のヴァーシリーは、イルクーツクの軍施設より飛行船を呼び寄せた。お産の時間の有効活用だ。人狼は屈強だから出産の翌日に飛行船に乗せ出発した。


 モスクワに立ち寄り荷物を積み、5機の戦闘機を従えてサンクトベテルブルグへ向かう予定であった。



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