第24部 シベリア紀行 並行世界 桜子とニキータ
1916年(大正5年)8月 並行世界 シベリア
*)ニキータの封印はフライパン?
桜子、ニキータ、スミヤ の3人 とニキータの両親
並行世界でニキータを見つけた私たちは、ニキータのスカウトに実家へ行く。
「さぁ、ニキータさん。私たちを案内しなさい」
「どうして案内しなければならないの?」
「お腹が空いて堪らないわ! ニキータそうでしょう?」
「何がそうなのよ! 黒の宝石のお礼をしろと?」
「桜子さん、ニキータの封印解除しないとダメみたいね」
「そのようですね、クロを呼びましょうね」
「はいはい、ご案内いたします」
「ニキータさん、身長はどれ位でしょうか」
「150cm、ね」
ニキータは、小柄な女の子、という感じだが、年齢は確か、25歳だったか。髪はやや赤茶で、ショートで可愛い。服はなんだか、メイドさんのような服。黒の宝石はクサリを通して小さなネックレスに。首にかけた姿が綺麗に見える。ネックレスにしたのは、昔落として無くしたから。可愛さの反面、性格は可愛くない。
「ここで待っていて、すぐに戻るから」
ニキータは家の横の小屋に入っていった。
「がちゃーん! バンバン!」
「お待たせしました。これを元に直していました」
「先ほどの大きい音はなんですの?」
スミヤさんが尋ねる。ニキータはペンダントを指輪に作り替えていた。
「なんでもないわ! これが本来の姿なの」
ニキータは軽く笑った。やはり宝石が戻ったので嬉しいのだろう。
「ここよ、入って。お母さん、お客様よ」
「は~い、よくおいで下さいました。こちらのテーブルにお座り下さい」
「私たちは日本から来ました。ニキータさんを探しに来たんです」
「宿六から聞いたんかい? あの人は死んでないのか、残念だね~!」
「ご主人は死んでいた方がよろしかったのでしょうか」
と、スミヤさんが言う。私は少し会話が続いているような感じがするから訊いた。
「私たちがシベリア鉄道で会ったのをご存じですか?」
知らないと返事をもらうが、ニキータの母は私たちが訪ねてくるのが、判っていたような感じがした。この母娘も、同じようにロシア軍から追われて逃げてきている。
気さくな親子だ。本当と冗談が混じっている会話ばかりしてる。この並行世界に来ていることから安心しているのだろう。
ニキータの家は、小さな食堂だった。旅人は少ないからお客も少ないようだ。私たち二人から三人分の昼食代を巻き上げようとしている。この地に流れて来た母娘だ。土地も仕事も無かったはず。この小さな食堂が在ったのは、ただ単に運が良かっただけだろうか。
「ニキータ!お前の客だろ? 一緒にお客になって稼いでね!」
「ニキータのお母さん、ありがとうございます。序でにお嬢さまのテイクオフをお願いします」
私まで冗談を言うのか? とニキータさん言われたが、冗談では無い。
「いえいえ、冗談ではありません。一緒に来て欲しいのです」
「でも、俺は飛べないぜ? アウトなら可能だがよ」
母娘で驚き、母娘で大笑いをしているが、ニキータはただの愛想笑いだった。私の言葉が笑えない内容だからだ。
「ハィィ?」
「ワッハッファァ。喜んで差し上げるよ」
「嫁に行けと言うんですね。分りましたわ、お母さま」
「で? どちらが旦那さまかしら?」
「桜子よ、人狼の巫女を3人従えているから。あなたの娘で4人目ね」
スミヤさんがそう言うと、
「嫌です、娘のバカは渡しません」
ニキータの母には、冗談が通じなかった。たぶん、人狼の巫女を3人という言葉が悪かったのだ。母娘でロシア軍から逃げてきて、また娘を戦わせるのか!と、頭をよぎったに違いない。
ニキータの母は真顔になり、私を睨みつける。怖いという感じはない。だって、母が娘を守るのは当たり前だ。母の顔をしているから怖くはない。だから私も真顔になり、ニキータの母娘に事情を話した。
人狼の事や他に10人位メンバーが居て、ロシア軍に追われていること。人狼の調査もしている滔々(とうとう)小一時間は話した。
「そうね、私たち母娘も見つからないようにね、暮らしているしね」
「ところでお母さん、ニキータさんの封印は掛けたままですか?」
「ええ、昨日にね。なんならまた掛け直すかい? ニキータ!」
「まだ、封印中です、お母様」
ニキータは、よほど封印が嫌いらしい。その忌み嫌う表情で理解できた。まぁ、その方法を聞いたら、私でも背筋が冷たく感じられた。ちなにみ、封印を解く方法が桜子に伝授されて、娘らへと実行される未来がある。
「おやおや、ニキータ! その指輪はどうしたんだい?」
「桜子さんからいただきました。隠してたのに母さんにばれたわ」
「お母さん、宝石が無くても封印が出来るのものでしょうか」
「この子には出来るんだよ。鍋で頭を叩いてね、封印解除してあげるわ」
「あら、ニキータさん、昨晩は夜遊びしてたのかしら?」
「止めて!母さん、凄く痛いんだから。嫌よ」
「じゃぁ、痛くしないで封印を解いてやるね」
「ぶ~」
ニキータの母は、黒の宝石を見て驚いた。忌まわしい巫女のシンボルだと考えているのだ。この宝石がなくなり母は安心していた。
人狼の巫女の争いは、宝石どうしが呼び合うと知っているからだ。だから、娘が無くした宝石を身に着けているのを見て驚いた。母はこころで、また争いが起きるのか! と思った。母の表情は、さらに暗くなっていく。
私は黒の宝石を手に入れた事を話した。先ほどはロシア軍から逃げる事ばかり考えていたから、失念していた。入手の経緯を話しだした。
シベリアの寒村で10年前に麻美が見つかった事。つい先日同じ場所で赤の宝石を麻美が見つけた事。3日遅れで私が祠で人形を見つけた事。滔々(とうとう)。
ニキータさんのお母さんは黙り込む。スミヤさんが口を挟んだ。
「あの寒村で、私の白の宝石を渡してくれた女性が居まして、多分私の姉だと思うのです。この黒の宝石も多分姉かもしれません」
「ニキータ。黒の宝石は何処で無くしたかね?」
「14年前の10歳の時かな、ロシア軍に追われていて落としたと思う」
「そうだったわよね。スミヤさんの経緯は?」
「そうですね、ほぼ同じです」
桜子は、
「どうして私が2個とも見つける事が出来たかが、気になるんです」
母の思考回路がフル回転を始める。
10年以上前からロシア軍に追われたから、他の巫女も宝石を無くしたんだろ。それに、赤と青の2個を姉妹で持っている事も不自然だし、この子に2個の宝石が集まったのも理解できないわね。
「シベリア鉄道の道中のオムスクで50歳位の人に会ったんですが、ニキータのお父さんでしょうか? あのようなこのような人相でした」
「あのようなこのようなでは分からぬ。でもそれは間違いなく家の宿ロクや」
「そして、人狼の事や並行世界、宝石の数とかを少しですが、聞きました」
「初対面だから少ししか話さなかったんだろうね。最後に宝石の持ち主と気づいてニキータの事を教えたと思うよ」
「そういえば、あの時は、まだ宝石を持っているだろう? と、訊かれました。この黒の宝石には気が付きませんでしたので、持っていませんと答えましたが」
私の話に頷いて聞いていたお母さんは、顔を私に向けて。
「でも、持っていたんだね。あの宿ロクのせいかもしれないね」
「桜子さん、家の宿ロクを呼んでくれないか?」
「そうですね、クロに頼んでみます」
*)夫婦喧嘩もフライパン
私は、皆と外に出た。ニキータから黒の指輪を借りて手に持った。
「クロ!出て来ておくれ」
嘶きながらクロが現れた。ニキータのお母さんは驚く。
「クロ、ありがとう。ニキータさんのお父さんを連れて来る事が出来るかい?」
「ブルル~」
「そう、やってみて、お願い!」
クロは、スーッと消える。ニキータのお母さんはどうしてか、フライパンを持ってきていた。そしてクロと一緒にお父さんは現れた。
「パ~~~ン!」
フライパンが勢いのよい音を出した。ニキータのお父さんが帰ってきた。
20年ぶりになる家族の再会だ。とりとめの無い声が、音が、悲鳴が、響いた。
ニキータの家は小さなパブ。お昼の定食で2時間くらいお店を開けている。夕方からは12時まで営業している。本日は9時で閉店となった。
私とスミヤさんは、臨時の店員となった。お昼の定食や夕食と宿の代金だ。お昼過ぎと10時以降がお話しタイムとなった。9時からの1時間はバスタイム。
昼はおかみさんの恨み辛みのマシンガントークだった。夜は人狼や宝石の話し。お風呂も頂いたのでサッパリした。宿ロクさんから沢山の情報が出た。
「あの時はすまなかった。嬢ちゃんが黒の宝石を持っているのは、判っていたんだよ。でも持っていないと言われた時には、がっかりしちまってさ」
「どうして持っていると判っていて、がっかりしたのです?」
「ああ、あれか。あの時は他の宝石の感じしかしなかったからさ。黒の宝石は力を失っていたんだな」
私は亡くなったお婆さんが、赤と黒の宝石を封印していたのだと考えた。
黒と白は自分が見つけて、途中で知り合ったスミヤさんのお姉さんに預けた。宝石の数は、全部で7個。この並行世界に残る2個がある。紫とダイヤ。ダイヤは最強であるが、どういう力なのかは不明。ダイヤの封印を解く呪文が存在する。滔々(とうとう)。
宿ロクさんとは? 宿屋のロクさん 略して宿ロク?
「念願の並行世界だ、今まで帰りたかったが宝石はあっても、自分が使えないので帰られなかった。ゴメンな母ちゃんよ、ニキータさんよ」
とりあえず謝ったような? 言い方だ。
私は何度も、ニキータのテイクオフをお願いした。ニキータはオフは出来ないというから、意味が分からなかった。スミヤさんが私の無知に呆れて、「桜子さん、テイクオフは離陸という意味ですよ。お持ち帰りは、テイクアウトです。」
「へ~、そうなんだ。ロシアでも使えるの?」
「使えませんよ。敵国でしょう?」
「で、お母さん、どうしてもニキータさんの力を借りたいんです。ニキータさんが居ないと、私の旦那様が死んでしまいます」
「おやおや、物騒な事を言いますね。・・・・ロク!・・どうするね」
「あ、お前さんは居なくてもいいのだよ!」
この一言は、ニキータに向けられたのではなく、ロクさんにだったが、ニキータは、自分へと受け取ってしまった。最悪の一言として、ニキータの頭に残った。
「すまね~な、かあちゃん。また旅に出るぜ! もう俺を一生分を殴っただろう?」
「そうかい、判ったよ」
話は早かった、一方通行で幕引きになる。あとは、おやすみなさい。明日から、4人で並行世界の調査の旅に出る。紫とダイヤを探しに行くのだ。
ニキータは、両親の事は忘れてしまい、二度と家には帰らなかった。生まれる娘には如実に遺伝をする。不幸な人生のスタートとなった。




