第22部 シベリア紀行 並行世界 エカテリンブルク
1927年(昭和2年)8月11日 シベリア
桜子、霧、杉田先輩、ミーシャ、スミヤ、阿部教授 の6人
*)ロシア軍の襲撃
私たちはシベリア鉄道で、モスクワを経由してエストニアに向かう。
シベリア鉄道の道中のオムスクで、50歳位の人狼の人に会ったら、私たちが3個の宝石を持っていると言うのだ。話しの最後に情報を教えてもらった。
エカテリンブルクの北方約30Kのウラル山脈に、黒の宝石を持つ女性が居る。名はニキータ、25歳くらいだという。
さっそくシベリア鉄道を下りて、黒の宝石のニキータを探す事にした。
私たちが下車するのを待っていたのか、ロシア軍と遭遇した。即銃撃を受ける。ただ街なかだった為、激しい銃撃ではなく回避できた。街を少し出た所で再度銃撃を受けた。私たちは武器を所持していないから応戦が出来ない。
メンバーは分断されて、私とスミヤさんの2人になった。先輩が私たちを逃がしてくれたのだ。私とスミヤさんは無事に逃れた。
問題が生じていた。先輩が銃撃を受け負傷したのだ。霧たち4人は、クロを呼んで並行世界に飛んだ。霧たちにはもうこれしか無かった。
*)桜子とスミヤ
桜子は先輩の負傷や、霧たちが並行世界に飛んだ事に気づかなかった。大っぴらに探す事も出来ず八方ふさがりの状態で思考停止になった。ここは大きな街だから、見つからないと思いこっそりと宿に泊まる事にした。
色々考えたが、2人ではどうも仕様も無い。翌朝、徒歩になるが、北方約30Kのウラル山脈に女性を探しに行く事にした。キョロキョロとして歩く訳にはいかず、始終怖い思いで過ごした。とても長い時間に感じた。
北に行けば最初の大きい湖がある。この町にに住んでいる、と言う事しか情報は無い。とにかく行く事にした。30Kは歩くには遠すぎであり到着には7時間あまりかかっている。タヴァトゥイ、という町に着く。ここは森の中の街だ。木々を縫って進めばよかった。
1915年(大正4年)並行世界 シベリア
*)杉田先輩とキリの結婚
霧、先輩、ミーシャ、教授 の4人
一方霧たちは危機的な状態に追い込まれていた。負傷した先輩の傷が深い。このまま治療しなければ死んでしまう。霧はもう、泣くばかりでどうしたらいいか分らない。小半時は泣いていたろうか。
教授もオロオロしてるが、考えもあった。霧の親としてこういう事は禁句だ。もう時間が無い。ミーシャも長い事考えていた。霧たちは恋人でも無い、だが、どうしよう、と。
ミーシャが霧に強い口調で言い放つ。
「霧、杉田先輩を助けたいか、どうだ。直ぐに返事しろ!」
霧は、しくしく泣きながら答える。
「はい、助けたいです」
ミーシャは霧に再度、強い口調で言い放つ。
「霧、ブローチの力と私の血をあげる。だから言う事をきけ!」
霧は小さく、はい、と言う。ミーシャはもう待てないという強い気力で、自分の右手に嚙みついた。同時に霧の左手にブローチを握らせ、霧の右手に嚙みつく。
「霧、先輩の名を叫んで、右手を先輩の傷口を刺せ」
そして、ミーシャは右手に流れる血を、霧の右手に注ぎ込む。
「叫べ!キリ!」
「智治先輩ー!」
二人の叫び声が響いた。血液の授受は出来たのだ。
教授はもうどうしていいか、オドオドしている。霧は聡い子だ。この意味が理解出来ていよう。ミーシャは穏やかな口調で、
「霧、私たち親子はあなた達に命を助けて頂いた。その恩返しという事ではないんだけれども、私も霧の先輩を助けたいの。分かって、お願い」
霧は静かに先輩を見つめている。そして、下を向いたまま、一言いう。
「ありがとう」
ミーシャは無言で霧の右手にハンカチを巻いた。ミーシャの傷はもう治りかけている。意識の無い先輩が目を覚ました。霧の表情が明るくなった。
「先輩?・・・・大丈夫ですか?」
先輩の傷口は塞がり始めている。出血はもう無い。杉田は、
「霧、ありがとう」
一言だけ言った。他にはもう言葉が無い、何も言えないのだった。
少し、いや沢山の時間が過ぎていた。霧はミーシャを見て、
「ミーシャ!ありがとう。あなたのお陰でもう泣かずに済むわ」
「ミーシャ!ありがとう」
と言いながらブローチを返した。教授も先輩も無口のまま、さらに時間が過ぎてゆく。
1916年(大正5年)8月 並行世界 シベリア
*)ニキータ
一方の桜子とスミヤの二人は、
私たちは歩き続けてようやくタヴァトゥイ、という町に着く。スミヤさんのお陰だ。私だけだと辿り着けない。間もなく夕方になるから、女の人に宿が無いか尋ねた。
「1K進んだ所に下宿屋があるよ、赤い屋根の家が3軒あるから左の建物ね」
スミヤさんが、良かったね、と言ってくれた。ホッとした。もう、クタクタ・ペコペコだ。
部屋に通されてベッドに飛び乗る。霧がいたら競争だろうな。バッグから着替えを出した時、この前のシベリアの山間の祠で見つけた人形が見えた。ついでだからと、スミヤさんに見せる。
スミヤさんは、
「何だか見たような気もするわね」
この中に黒の宝石の指輪が入っているのだが、まだ気づかない。
タヴァトゥイという街は湖に面して造られている。70年もすれば綺麗な街になるだろう。先輩!お休みなさい、無事かな・・・・・。
先輩は元気になったが翌日も現地に留まり養生している。重大な事実が分っていなかった。1915年の並行世界に飛んでいたことに。
朝になり、黒の宝石の持ち主のニキータを探す。日本人の私が尋ねるのも変だからスミヤさんに担当してもらう。尋ねて回っても見つからない。
私はおしゃれにと、見つけた人形をバックに下げていた。クロが並行世界から飛んで来た。私が黒の宝石を持っているのは知らないし、どうしてクロが来たのかも理解出来ない。
クロは私たち二人にじゃれつくように廻り出した。私たちは必然的に寄り添う形となり、同時に並行世界に飛ばされた。1916年である。霧とは1年の差が出来た。
バッグに下げた人形が光り出すのを、スミヤさんは気がつく。クロは空に向かい嘶き始めた。何度も、何度も嘶く。暫くしたら、髪はやや赤茶でショートの女性が現れた。黒の宝石の持ち主のニキータである。
「グーテンターク。あら、こんにちは、かしら」
「グーテンモルゲンよ」
「はい、すみません。ところで私に何の用でしょうか?」
「ええ、ニキータさんを探しています」
女性は黙り込む。不思議な馬を見ていう。
「クロ、かしら」
スミヤさんが怒り出して、
「何言ってるの、最初から分ってるんでしょう?」
「はは、ごめんなさい。黒の宝石を届けに来てくれたんでしょう」
「ええ、そうよ。私は、スミヤ。こちらは日本の桜子さん」
私は意味不明で、取り残されれている。ニキータは知っていながらも、ふざけていたのだ。スミヤは初対面から気がついていた。
「こんにちは、私は、杉田桜子、といいます」
「ニキータよ。それよりも、早く黒の宝石を渡してちょうだい」
「持ってませんが」
「そのバックに下げている人形よ。早くちょうだい」
私はは人形をバックから外し、ニキータさんに渡した。
「うん、ありがとう。これで元気になるわ」
「桜子さん。封印を解く言葉が分るかしら。分るなら解いて欲しいんだけど」
「ええ知っていますが、ニキータさんは封印されているのですか?」
「変ですね、封印された人が言う言葉では無いですわ」
またもスミヤさんが怒こり出して言う。
「馬に蹴られて死んじゃえ」
私は叫んだ。
「クロ!お願いね、ニキータの眼を覚まさせて。封印解除!」
「バーロー!」
ニキータはクロから逃げる。クロは嘶きながら消えてしまう。




