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人狼と少女  作者: 冬忍 金銀花
第2章 シベリア紀行

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20/41

第20部 シベリア紀行 逃避行


 1937年(昭和12年)8月9日 シベリア



*)母とミーシャと人狼の秘密


 またしても霧からの逆襲を受けながら私たちは出発した。


「杉田くん、この道はとにかく真っ直ぐに頼むよ」

「霧、どこか隠れることの出来る横道があったなら、迷わず曲がる様にしなさい」


 教授は霧にも指示を出している。どこに向かえばいいかなと、地図を広げる。


「さて、このお嬢さんはどうしたものか」


「さくらちゃん、何か名案は無いかね」

「無いと言われれば、無いです。有るかねと訊かれたら、有るにはあります」

「ほほう、私と漫才したいと仰せかな? いい度胸だ、受けて立とう」

「して、その方法とは?」


「このミーシャさんに尋ねるのですよ。お父さん」

「お父さん?」

「そう、これからは私たちは家族です、姉と妹、妹の婿、でどうでしょう」

「無理がある。杉田夫妻では無いが、いいのかね」

「あ、しまった、間違えた。という事で、直ぐにユーターンしましょう」


「この先の村で隠れて、尾行の車をまいて直ぐに全速力で元のイルクーツクに戻ります」


「そうだね」

「それからミーシャさんは絶対に見られないようにしないといけないですね。ニジネウディンスクという街があります。ここで宿泊しましょう」


「先輩、ニジネウディンスクまで、一っ飛びでお願いします。そうしましたら疲れませんから」

「よっしゃ! ワープするぞ。」


「いつミーシャさんに尋ねるの? お嬢さん?」

「お父さんが訊くんです、さ、早く。そうしないと、お話が進みません」

「もう着きますから、ホテルを探しましょう」



*)桜子は策士だった



「ボコ~ン!」


「先輩!この先に警察署が在りませんか。有ったら少し先で止まってください」

「了解!」

「それと、警察署の前はゆっくりとお願いします。様子見します」


「お父さん、一緒に警察署に聞き込みですよ。口から出まかせで、ん~適当に人相を話して女の人を探しています、とか何とか。ね? いい名案でしょう?」

「さくらちゃん、確かに名案だ。」


 警察署が在った。素知らぬ振りをして親子で入る。受付の女史に尋ねた。


「年の頃40~45歳の女性を探しています。こちらにお邪魔をしていませんか?」

「ああ、しょっ引いてありますが、たぶん、そうでしょう。身受け人の方ですか? 早く引き取ってください。めし代がかかり過ぎるので迷惑してます」


「で、何の罪でお邪魔してるのでしょう?」

「無銭飲食!」

「やはりそうでしたでしょう? お父さん。私が言った通りでしょう」

「全くその通りだ」


 教授は脱帽した。


「面会だよ、起きとくれ」


 牢屋の中に女性の姿が見えた。教授は桜子を先に歩かせる。と、


「・・・・・・・あ、あ、あなた達! そのブローチは?」


「お父さん、正解のようよ、ブローチを知っているよ」

「さ、お父さんお芝居を頑張って!」


「ああ、こちらでしたか。方々探したんですよ。もう勝手に行くからこうなるのですよ」


 教授は年の功で演技が上手い。


「お姉さん、こちらの女性で間違いありません、保釈料はお幾らでしょうか?」

「ちょっと待って。署長に尋ねるから」


 桜子は尋ねた。


「ミーシャさんのお母さんですよね?」

「ミーシャを知ってるの? 今どこに居る? そのブローチはどうしたのかい?」

「安心してお母さん。ミーシャさんとは一緒に居ますからね」

「私たちの会話に合わせてください。無言でもいいです」


 暫くして女史はキーを持って来て開けてくれた。


「8ルーブルだよ」

「少し高いな。はいこれね。領収書下さい」

「はぁ? うんいいよ。これね」

「お父さん、いつまで漫才してるんですか」

「なに、あの女史さん、領収書を見て溜息をついていたから、10ルーブルを渡しただけさ。喜んでいたろう」


「まぁ!呆れた!!」


「さ、ミーシャのお母さん、行きましょう。お嬢さんがお待ちです」


「杉田くん上手くいったよ、さ、急いで車出してくれ、後ろに乗るから」


教授はそう言って、荷台に乗り込む。


「教授、お尻を押して下さい。登れないです」


喜んで押してやった。


「・・・・・?やだわ、教授、40過ぎでもいいかしら?」


 ミーシャは身動きせず見つめる。母は涙目で見つめ返す。うん、親子だ。確認終了ね。


 教授は尋ねる。


「お母さん、ミーシャさんでしょう? 記憶が無いようですが? 間違いありませんか?」


「ありがとうございます。ミーシャです、なんとお礼を言ったらよいやら」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「ミーシャさん、探していたお母さんですよ、判ります?」

「お母さんなの?」


「ボコ~ン!」


 何とも言えない響きであろうか。先にレストランが見える。


「杉田くん、あのレストランに行ってくれ。食事にしようか」

「さんせ~い!!」


霧は元気がいい。私は緊張で喉が渇いた。教授!生ビールね。却下される。


 レストランに行き、着席して教授は軽食を頼んだ、ビールは無い。


「さ、急いで食べようか。このあとは服屋に行って、親子の服を買って来てくれ」

「霧とさくらちゃん、2人と一緒にね」

「杉田くんはホテルの確保に行ってくれないか」

「私は、暫くここで見張りをしているから


 食事が済んだら皆は行動に移った。教授は外を見て考え込んでいた。ビール飲みたい。


 教授が見張っていた範囲では何も無かった。服の買い物が済んで皆はホテルに集まる。娘たちは燥いでいた。


「杉田くん、部屋はとれたかい」


「はい、3人部屋を2つ。部屋割りは、霧ちゃんと、ミーシャさん親子の3人。それと桜子と僕、そして、教授の3人です。よろしいですか」

「そして?、とはなんだい。私は、付け足しのパセリかね、参るね」

「すみません教授、ここはスイートルームなんです」

「先輩、グッジョブ!」

「何がスイートだ、超過料金払えよ。やや、部屋割りに異議あり!」

「非常階段の横だったからです。逃げる事にも注意しませんといけませんから」

「先輩!私が払います。その代りに・・・・・・をお願いします」

「桜子さん、・・・・・だね。分かったよ」・・・ダッコソイネデイイカシラ


 夕食を済ませて、一同、霧たちの部屋に集まるが、直ぐに男共は追い出された。


「シャワータイムよ、出て行って!」

「今日買った服の着替えもあるから、終わったら呼びに行きます」


 教授は先輩に何やらひそひそ話しを始めた。覗きはダメです、教授。


 教授と先輩は、ビールを飲みに行ったのだ。その後は、男2人の前に、綺麗な村娘姿の2人が現れた。



*)ミーシャの覚醒


 さて、女性人の用意が済んだので、忘れた頃に母娘おやこを前にして。


 私たちは日本から来て、人狼の調査に来たこと。そして娘が人狼の末裔でつい最近覚醒した事。シベリアの村で会った女性からブローチを貰った事。それから、並行世界であなた達2人の事を知った事等々を話した。



「すみませんが、お二人についてお話しをお願いします」


 母が話し出す。


「私たちを助けていただき、深くお礼を申し上げます。わたしは、スミヤといいます。この子はミーシャ、仰る通りです」 


「私たち親子は、ロシア軍から追われています。お分かりだと思いますが、私たちは真祖になります。そちらの娘さんもそうですよね」

「私はキリと言いますが、私がそうでしょか」


「真祖? 真祖ですか。真祖とはなんでしょう。初めて聞きました」


 阿部教授が尋ねた。


「ええ、そうでしたか。真祖とは、クリミア人の巫女を祖先にもつ一握りの娘たちと、ジンギス・カンとの混血児の末裔を指します。宝石を託され者だけが真祖になります」

「もしかして、人狼の事はまだ理解されてないのではないでしょうか」


「はい、男が大きくなってオオカミのように変身する位しか知りません」


「そうですか、ではお話しします。その前に娘のミーシャを覚醒させてよろしいでしょうか」

「ええ、お願いします。さくらちゃん、ブローチを返してあげて」

「はい、教授。スミヤさんこれをどうぞ」


 スミヤは受け取ると強く握りしめた。暫くして宝石が光り出す。


「宝石にも封印をいたしておりました。キリさんが触られても何も無かったはずです。これをミーシャに渡せば覚醒します」


「ミーシャ!いいかい、今からお前の記憶の封印を解くよ。解いたらお前は長く眠るから、先にベッドで寝なさい」

「はい、お母さま」

「このブローチは胸に抱いてておくれ」


「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ ミーシャ」


 ミーシャさんは、ピクンとして直ぐに気を失ってしまう。今から深い夢の中だ。スミヤさんは続きを話す。


「クリミア人の巫女を祖先にもつ娘たちと、ジンギス・カンとの混血児だけだと申しましたが、その前にジンギス・カンも同じような数奇な運命があります」

「ジンギス・カンですか? あの!」


「はい、ジンギス・カンの先祖はバイカル湖の伝説、ボルテ・チノ「蒼き狼」とその妻の、コアイ・マラルの子供が、真祖という事です」

「ジンギス・カンの蒼き狼の血と、私たちの真祖の赤き血が混じった事で生まれたのが人狼です」

「巫女と蒼き狼の末裔、という事ですね」


「まだ重要な事は沢山あります。白き宝石がバイカル湖で生き続けていた為にこのような事実が判明したそです」

「ジンギス・カンが死んで真祖の巫女が逃れて来た土地です」


「人狼とは、私たち宝石を持つ真祖が結婚して伴侶となる男のみが、変身する能力を持ってしまう事象のことです」

「人狼という事象が発生した時は、それは大変な騒ぎでしたそうです」


「では、誰でもが人狼になれるのでは無いのですね」


 と、教授は尋ねた。霧も同じく尋ねる。


「私は10才から急に大きくなりました。私には姉が居ますので姉の年齢から考えても、14か15才にしかならないんですが、もう20歳くらいに見えますが、これはどうしてでしょう、分りますか?」


「はい、誰でもなれますが、ルールに反しますので、過去には一度もそのような誰でもという事はありませんでした」

「でした?」

「はい、モンゴルで誰かがロシアの軍隊の捕虜になり、偶然に判ったようです」


「お父さん・お母さんかな」


 霧が気に掛ける。


「ご両親は違うと思います。それと、先ほどの質問は、私には解りません」


 そうですか、と霧は少し沈み込む。


 私は話についていけないから無言のままだ。


 暫くしてミーシャさんが眼を覚ました。やや大きく成長している感じがする。スミヤさんは固まる。理解出来なようだ。


「ミーシャ、もう大丈夫かい?気分は悪くないかい?」


他に掛ける言葉が浮かばなかったのだろう。ミーシャは、


「はい、お母さま。すっかり思い出しました。でも少し頭が痛いような気分です。あなたが、キリさんね? 眠ってる間も感じ取っていました」


 私がお水を持って来て差し出すと、一気飲み。


「えぇ~と、あなたが私を見つけて頂いたんですよね。母共々助けていただきありがとうございます」

「いえいえ、私は大した事はしておりませんから」


 ことの顛末を聴いていた先輩が、


「もしかしたら教授、時間断層のせいではないでしょうか。霧ちゃんが10年も記憶の封印をされていたので、同じ10年が別次元でも成長していた。現実の10年の成長を加算して、合算されて20歳にまで大きくなったとは考えられませんか?」


「ん~、ミーシャさんもそうかもしれない。少し大きくなられたようだし」


 ミーシャは慌てて胸を押さえた。私は霧がそうだったことを思い出す。


「桜お姉さま!今、頭でなにを想像しましたか?」

「うん? な~んも。」


「スミヤさんは、ミーシャさんを何年間、記憶の封印をされてありましたか?」

「2年くらいでしょうか。数えでは、今年23歳になります」

「教授、やはりそうです。ミーシャさんも5才ほど大きくなったんですよ」


 事実、23歳くらいに見える。


 麻美も同じだ。見つかったのが4歳位で、4+4で8歳、日本で10年だから麻美は、18歳。私が1歳上だ、やったね!いや、同じかもしれない。


 スミヤさんは続けて話した。


「キリさんは、覚醒せずにお産れですので、そういう事になりますでしょうか」


「人狼の巫女は産まれて直ぐに、母が封印を解く必要があります。不幸な経緯で産まれても殺害されずに済むようにです」

「封印を解かなければ、普通の娘のままですから、巫女とは判りません」


 霧は、「そうなんですか」と頷いた。事実、霧の両親が囚われて人狼の巫女として私が産まれたら、研究され放題になる。不幸の連鎖になる。だから両親は、封印を解かなかった。これが正解だ。


 教授は次々と事実が出て来るから、考え込むばかりだ。


 スミヤさんは最後に、大変な事実を話し出した。最悪の事態が予想される。


「人狼の巫女の血は、男に飲ませたり輸血もそうですが、身体の傷口からも巫女の血を注ぎ込むと、誰でも人狼になります」


教授はまた同じ質問を繰り返した。


「この事実をロシア軍が偶然にも知りえた? という事ですか」


「いいえ、ロシア軍は人狼の男の血が人狼にする、と思い込んでいました」

「ですので10年くらい前に、人体実験で男の人狼の血を軍兵に輸血したそうです。詳しくはロシア軍の秘密をお読みください」

「はい読んでみますがその前にもう少しお教えください」


「ご質問はなんでしょうか」

「男の人狼の血液でも人狼になるんですよね」


「はい、変化はいたしますが、人狼ほどには強くならない、と聞き及んでいます」

「だから人狼の巫女の血液が欲しいんです。5年前に判ったようです」

「それはもう屈強な兵を作りたいロシア軍は、血眼になって探し出しました」


 霧が教授に尋ねた。


「教授、私は覚醒したから、私の血液があれば、誰でも人狼に変えられるという事でしょうか? 嫌ですそんなの」


 スミヤさんは、


「そうです、そうなります。だから私たちは我が子を封印してロシア軍から長く逃避行を続ける事になりました」


「白の宝石が無かったから、並行世界には行けなかったんです」

「白の宝石は姉が持っていたんでしょう。多分、姉に会われたと思います」


 私は、白の宝石を託してくれた女性の話しをした。最後の一言が、


「長い事待っていた甲斐がありました、良かったですね」

「それなら姉でしょう。元気にしていましたか?」

「はい、お元気でした」


 スミヤさんの顔が少しだけほころぶ。


 すると、先輩が大声で叫ぶように、


「そうなれば、最悪ではないですか。霧もミーシャさんも捕まれば、人狼製造機にされてしまいます。絶対に阻止すべきです」

「ましてや、麻美さんも居ますし、わ~最悪だ~」

「ロシア軍からすれば、もう垂涎の的でしょう。その的が4人もいるのですから」


 教授は、


「絶対に捕まる訳にはいかないな。スミヤさん、他にご存じの事はありますか?」


 スミヤさんも塞ぎこんだように、


「はい、もうありません」


 霧が言い出した。


「ミーシャさんを覚醒させたのは間違いなんだ」


 一同は黙り込む。重たい話で終わる。


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