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人狼と少女  作者: 冬忍 金銀花
第1章 はじまり
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第2部 私と麻美

第1作 人狼と少女 訂正中

第2作 人狼 Zweiツバイ 後日訂正します

第3作 人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女  亜依音 執筆中

第4作 人狼夫婦と妖精 ツインズの旅 休止中

第5作 過ぎし日々の物語 白いハンカチの木 立ち消え中?

第6作 異世界物語 只今奮闘中につき、閲覧不可

    

1937年(昭和12年)7月16日 北海道・札幌市



 私は教室に向かう二人の友人に追いついた。


「麻美! 午後の授業は何だったけ~」

「退屈な民俗学よ。またサボる気かしら」

「ねぇ舞ちゃん、午後の授業はなにかしら?」

「面白い民俗学よ! また、サボるの?」

「夜に講義してもらう事にしようかな~。だって二回も聴きたく無いし」


 安部教授は民族学の授業内容を事前に私に話して反応を見るらしいのだ。


また二人に追いついたというのは私の誤認で本当は、


「桜子は少し変だよ、この教室は今からは何が始まるのかしら」

「うん、学生が超~少ないから民俗学だね」

「舞、このへんちくりんに何か言ってよ」

「桜子、め!」


「それで二人は私を待っていてくれたんだ、嬉しい~」

「桜ちゃん、それはね……」

「舞、言わなくていいのよ。」

「どうして、言わないと桜ちゃんが判らないわよ」


「二人とも教室に入ろう?」


 と言いながら私は麻美の手を引いた。麻美はくるりと回るだけで私の手を振り払うのだった。待つ相手は私ではなかったんだな。


「待っているのよ。敵は先生、これは戦争よ!」

「なによそれ、私のフレーズを横取りしないで、」

「麻美さん、来たわよ敵機襲来よ」


「おうどうした。早く教室へ入れ。」

「先生、どうして今日は逆から来るのですか!」


 麻美は大きな声で意味不明な文句を言う。


「今日の講義は退屈しないぞ。ヒマラヤのイエティーの見聞だ」

「教授! 嘘は言わないで下さい。昨晩は先住民のコロポックルの内容だったでしょうが」

 コロポックルは「人狼と少女、垣根の上を翔ぶ女」の第二部に出て来る。


 麻美は安部教授に駆け寄り、


「阿部先生? 私も同行させて頂けるなんてすばらしいですわ」


 教授を先生と呼ぶのは、私の友人こと瀬戸麻美である。高校生気分がまだ抜けていないのかもしれないと思う。私と麻美は少しばかり受講科目が違うだけでいつも一緒なのだ。舞とも多くつるむが舞は言葉が少ないので居ないのと同じ。小学校の先生を目指すのだとか、だったらどうして農学部なのよ、ね~教えなさいよ。



 どうも気のせいばかりではない、麻美は阿部先生が好きなようだ。呼び方からして他の先生とは違う。麻美はじゃれつくのだ、みょうに馴れ馴れしい。


 みょうじゃなく奇妙が正しいかも知れない。禁断の恋をしているの?




 麻美は背の高い美人であるのだけれど、私からすると困った問題がある。それはね私が好きな杉田先輩がどうも麻美のことを気にいっているような節がある。オカ研に麻美を引き入れたら間髪を入れずに先輩が入部して来たからだ。他にもなんとなくだがそんな素振りが見受けられる。


 麻美には私が先輩の事を好きだ”と、それも毎日のように話している。かように熱く語って予防線を張っているので麻美は別段先輩を気にしてもいない。


 麻美は赤茶色の髪でショートカットのスポーツが大好きの闊達なお嬢様で乗馬がとても上手い。実家が競走馬の肥育を受け持っているから。なんたってね白馬のナイトさまから手ほどきを受けている。とにかく大の馬が好きだ。人間の男はどうなのだろうと気にもなるが急転直下の数年後に判るのである。


 実家は最強のサラブレッドを掛け合わせて仔馬の生産もしているし、函館競馬場から専門の騎乗訓練、調教師を招いている。一度だけだが母屋が焼失したし、小屋なんかは二度も火災に遭ったらしいと聞いた覚えがある。


 麻美が自由に乗馬を許されているのは現役を引退した競走馬だけである。現役の競走馬に乗るにはナイトさまの許可がいる。


 文句を言いながらたまに二人で競争もしているナイトさんが居る。文句の内容はね、農耕馬は背が低いし第一速く走らないということだ。他には馬にブラシを掛ける作業をしているから兎に角馬が可愛いのだろうね。


 大学では競走馬の乗馬が出来ないので、札幌競馬場まで専属の騎士さまを追っかけて乗せて貰っている。しかし見返りの要求があって、馬術部の部員と共に札幌競馬場のバイトの手伝いをさせられているらしい。麻美は一言も話してはくれないのだが内容は霧が報告してくれる。どうして?


 それはね、


 私の代わりに霧が同行しているんだな。私は地下室のチーズ製造教室に入りびたりできて誰にも邪魔されないから幸せだ。


 ただ麻美たちが函館から帰ってきたら競馬場の雑菌も付いてくるので、私は付着した雑菌が落ちるまでチーズ製造教室に行く事ができない。それはどうしてかだって?


「毎日洗濯なんて出来ないに決まっているじゃない」


 私と教授、それに可愛らしい三歳の霧の洋服で洗濯物は一杯になるが、お掃除に食事に育児にと私は忙しいのだ。それに学業だって民俗学だけで優を貰っても卒業は出来ないからね。


 そうそう大事なチーズ製作中に雑菌が一つでも落ちたら大変な事になる。朝食で納豆を食べたふとどき者のドジッ子がいたが、この時のチーズは文化祭に使うピザパイの原料に払い下げられた。



 麻美には秘密がある。小さい時の記憶が全てが欠如しているという。


 麻美は四才位の時に、ロシア北部の寒村に続く道で倒れた老婆と一緒に三浦教授が助けて保護した子供だそうだ。そして瀬戸家で養女ととして育ってきた。それはこの家には子供がいなかったからだ。子供を熱望しながらも出来ないのは苦痛だと、三浦教授に話していたからだ。


 このことは私も麻美もまだ知らされてはいなかった。家族の中でただ一人赤茶色の短い髪型なのだが、幼馴染だから何とも思わずに今日まで過ごしてきた。


 そう、今年の夏までは何もなかったのだから。事件さえ無ければ知らずに終わっていた事なのにね。


 オカ研の部室の会話では安部教授が私らの目的を確認していく。ノートには自分の用件が事細かに書かれてあるらしく、それに追加で部員の希望を聞いては書き込んである。


「瀬戸さんは夏の旅行で中央アジアに寄りたいんだろう?」

「はい先生。バイカル湖の南がモンゴルですもの当然です」


 麻美はとても喜んでいる。麻美の頭の中は訪問地でぎっしりなのだろう。バイカル湖? シベリア鉄道はモンゴルも通るのだろうか。


「教授、シベリア鉄道ですがモンゴルも通るのですか?」

「あら桜子さん、何にもご存じないんですの?」


 うわ~また麻美の講義が始まる。ジンギス・カンの歴史が何でこんなにも好きなんだろうと理解に苦しむ。一言で済まないのが麻美の悪い癖だ。麻美の性格はサッパリなのか、ネッチリなのか、人により話しにより変化している。


 麻美、貴女はジンギ・スカンじゃなかったの~!


「通っている訳はありませんじゃないの」


 そうか通ってないんだ。私は余所では東西南北すら分からない方向音痴。他国の事なんて分かるものか。ましてモンゴルとか天国に近いのかしら。


「そうだね石川くんの実地調査もあるから、四日間は予定にいれてるよ」

「三浦教授と石川くんとで訪問地を打ち合わせしといてくれ」


「あれ? 先生、ご一緒ではないのですか?」


「智治くんと、ちゃんちゃんの4人で、イルクーツクの軍施設へ人狼の調査報告書の閲覧に行くから」

「4人とも仲がいいんですね」


 4人とは阿部教授と杉田先輩、それに私と霧ちゃんのことだ。麻美は私と離れるのが淋しいからか、ブツブツとつぶやいていた。


 石川くん、何処いるの~早く出てきて~。男のくしゃみが薄野で木霊する。出てこれないのである。後輩くんは最後までバイトの内容を教えてくれないのよ。


「は~い。ただいま薄野でバイト中で~す。旅費を稼いでいま~す」



 私は麻美の顔色をうかがいながら、


「麻美、今日! 寄ってかない? 霧が喜ぶし、来るのを楽しみにしてるからさ」

「そうしようかな。先輩も来るの?」

「かもしれない。キャベツひと玉貰って来てね。待ってるから」

「男爵芋とかは要らないの? リンゴもろばくんから頂戴してくるから」



 麻美は今日も馬術部のコーチに行く。私は帰宅部。屋敷の掃除とご令嬢の霧さまの夕食の準備。遅く帰る教授の夕食の準備と家政婦の仕事をこなさなくてはならない。毎日、毎日、仕事はあるのだ。



「霧ちゃん!ただいま~」

「お帰りー」


可愛い声が聞こえる。


「今日はね~、麻美お姉ちゃんが来るよ。」

「へ~、し~らない。」

「リンゴが来るのよ~」

「楽しみ。」

「?」



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