第18部 モンゴル紀行 山岳調査その2
1937年(昭和12年)8月9日 モンゴル
*)山岳調査
「ユキ!ユキ! 分るかい? ルカだよ、応えて!ユキ」
「ルカさん、やっと会えた。もう探したんだから」
「私たちの家族を連れて来てくれて、ありがとう」
「山の中腹にある洞窟の中に居ます。緑の宝石があれば大丈夫。お願いね!」
麻美は疲れて夢の時は起きれなかった。朝起きて、流れ星を沢山見たのを思い出す。今朝は皆さん、ゆっくりだ。起きれる筈は無かった。
私は館長さんに夢の話をした。
「山の中腹に洞窟があるから、ここで待って居る、という事でした」
「そうですか、分りました。頑張って探します」
どの辺りでしょうかと訊かれても答えようがない。
「館長さん、緑の宝石のブレスレットをお貸しください」
「ええ、どうぞ!」
「ルカさんは、このブレスレットが導くから、会えるそうですよ。良かったですね!」
「本当に麻美さんが居てくれて助かります。わたくしどもだけでは、やはり どうしようもなかった、ということですね」
麻美は館長さんのしんみりとした、今まで諦めるしかなかったという現実が込められた言葉に、返事が出来なかった。館長さんは私からの言葉は、望んでもいないとも、思われた。
石川くんが、食事の誘いに来た。
「お姫様!朝食のご用意ができております。こちらへどうぞ」
朝食の支度が出来ている。ああ~そうか、分ったぞ。3分の、チンだ。しかしここは2000mの高地だ、30分はかかる。沸騰しても60度位にしかならない。
「これ!おいしい。ナイスの石川くんね!」
「種明かししますと、これは全部調理済みの食品です。加熱だけでいいのです」
朝食が済んだ。レトルトだから早いんだ。レトルト最高!
*)ルカとクライ
これからは徒歩による登山になる。石川くん、登山の3点ルールを教えて!3点ルールは、両足と片手、両手と片足。必ず3点で身体を支える事だ。防寒服の用意も当然している。2000m以上と、とても高いのだから。
私には強力な助っ人が居るのを忘れてはいけない。兎に角、山の中腹を目指して進むしか無い。
クロの眼の前にブレスレットをぶら下げた。きっと方向が判るだろう。その時、緑の宝石が光り光線が山の一点を指し示す。(うそです)
私は左手にブレスレットを嵌め、ロザリオをも握りしめていた。クロと私の感だけが頼りだ。所々に残雪があり、岩の間に小さな花が咲く。岩しかないのだから、道らしい道を進んでみた。景色が素晴らしい。絵葉書にしたらいいだろうか。石川くん、写真頼むね!と言う教授の声がする。
「教授~私の雄姿も写してくださ~い」
岩山に黒い馬に跨る美少女!? う~んん、絵になるな~。
一方ロシア軍は、3人で尾行をしていた。ロシア軍のベースキャンプは2k位離れていたようだ。
「隊長、日本人の一行は4人で登り始めました」
「研究者殿!目標が動きました。尾行には2人つけます」
「では私たちも行こうか。ロープは忘れずに頼むよ」
「はい、巫女二人の確保ですね」
隊長たちはベースを襲撃するという。
「隊長、男は全員射殺でよろしいですね」
「ついでに、トラックは壊して行く。もしもの、仕損じで逃げたら面倒だ」
ベースには館長のお父さんとターニャさんを残しているので心配するが、クロに尋ねたら大丈夫だと言う。
「クロ!あんたは未来が見えるのね?」
「ミェヒヒ~ン!」「ブルル~!」
館長のお父さんは、大事な仕事をしていた。奇襲対策の爆発物の設置だ。
私は、直ぐに洞窟が見つかればいいのだが……。結構長く探したと思う。
「しっかし~、使えない男どもだな~。風景ばかりを見ている。どうして私を見てくれないの? いっぱい褒めてくれていいんだよ!」
館長さんだけは見る所が違っていた。大きな岩に見え隠れする黒い点を見ていた。
「そうよね~、館長さんからしたら、私たちは善意の協力者ですもの。ああしろ、こうしろ? とは言えないか!」
急に天気が悪くなって強い風が吹く。吹雪になった。凄く吹雪くのでメンバーと逸れてしまい、私とクロだけになった。
「ルカを近くに感じる」
クロと進む。吹雪くばかりで周りは見えない、。不思議な風の音が聞こえる。聞こえる方に進むと、山の斜面に黒い影が見える。?? ここだけが見えた。
「クロ!洞窟が見えるよ。クロ、大丈夫?」
クロは啼いて答えて先に進む。風の音はここから聞こえる。そして「ユキ!」と呼ばれているような気がした。洞窟に入ったら暖かかった。
「ルカ!ルカ!」
呼んでみる。返事は無い。再度呼んで、最後には叫ぶ。
「ルカ!ルカ!」 「お願い!返事して!!!」
「ユキ!ユキ!」
奥から、ユキと呼ぶ声が聞こえた。
見つけた! 母娘の2人だ!
元気そうだ。急ぎ駆け寄るがクロの方が早かった、クロは直ぐに頬ずりを始めた。先にクライを!そして母親を! そう、あの母娘に間違いは無い。
私は尋ねた。
「ルカさんとクライさんですね」
「はい、お待ちしておりました。見つけてくれてありがとう」
「やった、見つけた!」
私の大きい声に、ルカはクスリと笑った。
少しだけ会話をして洞窟を出たら吹雪きは止んでいた。雪の積もった跡が無いのだ。
ルカさんが教えてくれた。先ほどまでが並行世界だったと。親子は並行世界のこの山の洞窟で、私が来るのを待っていたという。
クライさんとルカをクロに乗せる。クライの喜ぶ声が、姿が、かわいい。早く館長さんに会わせたい。
*)ロシア軍の襲撃
ロシア軍でも急に吹雪になって先が見えない。移動すると遭難の危険が伴う。
「左に行けば風を避けられそうな岩場があるから、そこに避難する」
山に詳しいロシア兵が叫ぶ。このロシア兵は後続する研究者殿に、自分の長い銃の先を持たせて、発砲しなかった。銃を持たせて先導したのだ。
「ふん!ひ弱な奴だ」と、思ったかどうかは関係ない。
同じく、教授、館長らも避難を開始していた。運が悪い、としか言えない。両パーティーが鉢合わせしてしまう。館長が早く気が付く。
「教授、ロシア軍が来ます。もう少し上に移動しましょう」
吹雪で足元が見られないので、教授が躓き大き目の石を転がしてしまった。これにロシア軍が気が付き銃を構えだした。
急に吹雪が止んだ。三人が洞窟から出た瞬間だ。館長や教授たちには悪いタイミングだった。
館長も思わず石が転がった方を見た。ロシア軍だ!同時にベースのある下の方からは大きな爆発音が聞こえ出した。館長は襲撃されたと思い慌てた。館長が拳銃を構えていち早く発砲して銃撃戦が始まった。
麻美らの3人も気が付く。
山の下からは銃声の音が聞こえる。はるか彼方では爆発の響きが何度もしている。
「ロシア軍と、交戦が始まっている!」
麻美はルカにそう言った。
「石川さんは先に行って。教授、早くこちらへ!」
館長が叫んでいる。ロシア兵との銃撃戦が始まった。ロシア兵は3人のようだ。館長が応戦するが短銃しか持たされていない。1人は射殺出来たが、残り2人は無理のようだ。館長のお父さんが拳銃を2丁持たせていれば良かったかもしれない。弾も切れた。
パーン、パーン!
「うぐっ!」
「すまない、教授。撃たれてしまいました」
館長が撃たれて横たわる。もう逃げ場はないのか。教授は諦めた。
「もうダメろう石川くん!巻き込んですまない」
「教授、諦めたらダメですよ。それよりも手当てが出来るか、館長を診て下さい」
館長はまだ息をしているが、手当ての仕様がない。銃撃戦は予想の範疇にない。傷口を押さえることしか出来ない。
石川くんが石を投げる投げる、投げ続けた。山の上から投げるので十分に届いた。暫くして下から悲鳴が聞こえる。
大きい岩が転がりロシア兵が逃げる。石川くんが転がした、成功だ!ロシア兵は、石川くんをけん制するために発砲してきた。
1発、2発。さらに1発。・・・・・ もう銃声は聞こえないようだ。名の無い研究者殿は銃撃戦開始とともに下山していた。
直ぐに老人の呼び声が聞こえた。
「どでかい岩を転がさないでくれ!」
先ほどの岩が老人のとこまでも転がっていた。さっきの銃声は、館長のお父さんとロシア兵との交戦だった。
老人は肩で息をして登って来た。教授が叫んだ。
「息子さんが撃たれました。早く診てやってください」
教授はせかす。
「息子さんはどうですか、助かりますか」
老人は俯いて、
「ここにルカが居れば助ける事が出来るのに……」
声にならない。嗚咽が聞こえる。
「ルカ!…………」
*)ゴルの死そして……
「クロ!ゴルの元に私を連れて行け!」
ルカが大きく叫んだ。クロは私の眼の前からすうっと消える。そして直ぐにクロだけが現れた。理解するのに少し時間がかかった。
「クロ、私も早く連れてって!」
クロと私は消えた。直ぐにゴルの横たわる姿が目に入り、ゴルの胸を叩いているルカの姿が見える。ルカは大声でゴルの名を叫んで号泣している。
「ゴル! ゴル~……」
ルカが叫ぶ。
「ユキ!ブレスレットとロザリオを渡せ!ユキ手伝え。お前の血を寄越せ!」
矢継ぎ早に、とても大きい声で叫ぶ。
「ルカ!どうしたらいい!」
「私の右手にお前の血を少し乗せろ」
私はとっさに自分の右手を噛みつき血を出させる。そして、ルカの右手に注いだ。
ルカはゴルの前で立ちすくむ。左手にはロザリオとブレスレットを持ち、右手に嚙みつき血を流し強く握りしめてただ立っていた。暫くするとルカの様子が変だ。
ルカは、大声で叫ぶ。叫ぶ。遠吠えのように!叫び続けている。
「ゴル~!」
「私に巫女の力を~!」
「ウォ~~~!」
ルカの様子が変化を始めた。頭には耳が出て、腰からは尻尾が出て来た。ルカは最大の怒りを発して、なおも叫ぶ。全身にオオカミのような体毛が見える。右手を高く翳して、一直線にゴルの傷跡に指を立てて差し込む。同時に一言叫んだ。
「ゴルー!」
10分は過ぎただろうか、ゴルは生き返らなかった。ルカはゴルにすがり泣き続ける。老人は横で涙を流して見つめている。ゴルは動かない。動かなかった。
死んだ!
ルカは泣き叫んで館長にすがる。ルカの身体は徐々に人間の姿に戻った。人狼の巫女は、オオカミの姿に変身出来ないのが言い伝えだ。だが、ルカはオオカミに変身していた。ルカは巫女の長子の子孫で、一番強く巫女の呪いという祝福を与えられていたのだろうか。
小半時もの間ルカは館長にすがって泣いていたが身体を起こした。ルカはお父さんに話した。
「父さん、クライを連れて先にターニャの所に戻っていて」
「直ぐに私も行くから、ゴルの休める場所を用意して下さい」
父は黙って娘の指示にしたがい、クロの背に跨る。言葉を出せば、それは泣き声になるだろうか。
私は右手の傷を左手で押えていた。私も当然だが声も出せなかった。
ルカは、私に向かい言った。
「ユキ! クロを少しの間貸してね。直ぐに済むから」
とても穏やかな口調で話しかけてきた。私は一言しか言えなかった。
「はい」と、だけ。
老人がクロに乗る。ルカはクライを抱え上げてお父さんに託す。
「クロ!お願い、父さんとクライをターニャの元に!」
すぐさまクロは消えた。少ししてクロが現れる。そして同じようにゴルもクロに乗せてお父さんの元へ送る。
「クロ!お願い、私をゴルの元に届けて!」
ルカとクロはまた消えた。そして直ぐに戻って来た。
クロと私たち3人は、無言で山を下りた。教授は私に向かい、
「麻美さん、クロと先に戻ったらいい」
と、気遣ってくれた。でも私は、3人と下りたかった。小一時間で下りた。
ルカが私に気が付くと急いで駆けて来る。どうしたのだろう?
「ユキ!ありがとう。とても助かったわ、ありがとう」
ルカの顔は、泣いているのか、笑っているのかが判らない位にぐしゃぐしゃになっていて、そして続けて言った。
「ユキ、あなたの血のお陰で、ゴルが生き返ったのよ!」
「え?・・・・・。」
「見て、意識はないけれどゴルの気を感じるでしょう? 傷も直ぐに治るから」
お父さんは館長を見つめたままだ。クライはターニャさんに抱かれている。
「本当だ。館長は生きている、奇跡だわ!」
私は、どうしたらいいか解らない。周りを見渡した。かなり離れた所に黒い塊がみえる。道路には大きな穴が多数出来ていた。黒いのはミーシャが撃破したロシア軍のトラックようだ。こちらのトラックも多数の穴が出来ている。銃撃戦の激しさが垣間見れた。ターニャが私を見て笑っている。
「これ! ターニャがやったというの?」
クライを抱いているからか、ターニャはかわいく頷いた。
そう、館長さんが、生き返ったのだった。
ルカさんは私の所に来て、ロザリオを私に反してして話しかける。
「ユキ、これが人狼の力よ、私一人では到底ゴルを助けられなかった。でも、あなたが居たから助ける事ができたのよ」
続けて話す。
「人狼の血は、忌み嫌われるけども、素晴らしい力を持ってるの。人狼を嫌わないで、お願い」
「あっ、」
私の返事も待たずにそう言い終わると、ターニャさんに歩み寄り、クライを抱きしめるのだった。とても幸せそうに見えた。何年も再会を待ってのだ、当然だ。
「先生!無事で良かったですね」
「石川くんも頑張ったね」
キリは、きっとこの出来事を感じ取っているだろう。教授と石川くんは、「うん、うん」と言いながら涙目で家族を見ていた。
私も館長さん一家に目をやった
私たちは少し燥いで夕餉の準備を始めた。石川くんはお風呂の用意だ。クライがターニャさんに抱きつく。ターニャの大きい胸が見えた。仕切りの無い風呂だ。ペシペシとクライがターニャのお乳を叩いている。
「ママよりも大きい!」
?んな、馬鹿な!
なんだかとても嬉しい気分だ。今晩も流星群が見れますように。
「霧、クロ、おやすみ」
翌朝、館長さんも動く事が出来るので帰路についた。
ドンキで買った単四の電池。7日しか持たなかった。高い電池だ。
いくら価格が半額でも、7日間だったら普通の価格の1.5倍になる?
私が仕事をしているからですよ! という言葉はいりません。




