第13部 人狼の秘密 ウランバートル国立図書館
1937年(昭和12年)8月6日 モンゴル
*)ウランバートルの国立図書館
モンゴルの調査は、三浦教授と麻美と麻美のお父さん、そして石川くんの4人。だが、麻美の父はすぐに抜けてしまう。三人になる。
麻美のお父さんは大事な用件が出来たので、シベリア鉄道で別れた。娘の事が心配だから、何度も頼み込んでいる。教授にお金を渡そうとしたら、手よりも先に袖が伸びてきた。三浦教授! この袖の意味を教えて下さい。
これからは、石川くんだけが頼りだね。麻美はそう思った。
ウランバートルの国立図書館では、
(お姉さん、どうしてるかな~。私たちは大きな秘密見つけたよ~。)
麻美の頭の中に聞こえてきた。
「三浦先生!霧から連絡がありました」
「大きな秘密見つけたそうです」
「やるな阿部くん、秘密とは何だい?」
「キリが自分で思いついたから、秘密にします。と」
「なんで秘密なんだ、教えるように言いたまえ」
「ええ、そうなんでしょうが、教えたくないから、秘密なんでしょう?」
麻美の言葉に反応して返事を返すが、三浦教授は条件反射的な返事だった。何の考えなしの返事ばかりで、全然覚えていなかった。
だんだんと二人は能力が使えるようになってきた、テレパシー。これは多分必然の能力だ。三浦教授はまだ不思議とも思ってはいない。
「さて、我々もこの膨大な風土記を読んで、人狼の秘密を探そう」
と言う三浦教授に対して、石川くんは、
「教授、お茶入れますね、肩もみしましょう」
と、紅茶が運ばれ、教授は肩のマッサージを受ける。
「すみません、教授。後は任せた!」
「おう!任された!」
石川くんは、教授が可哀そうと言い出す。私は冷たく突き放す。
「教授しか本は読めないよ、石川くんは読めるのかな~」
「教授、私たちは他当たります、頑張ってください」
やはり石川くんも冷たい。冷たい天然水だな。
「残された教授は、上期の試験に赤点つけてやるから覚悟しろ・・。」
「人狼の研究とジンギス・カンの研究のお題目はどうした」
三浦教授が聞こえるように呟く。ちなみに試験は受けていない。受けられないのだ。
教授もサークルのメンバーも1年半は帰れない。すでに2回級もの落第が決定済だ。
私たち二人は聞き込みを始めた。私は言葉を忘れた所もあるが理解できる。4才児の語彙知識では話すのはやや困難か。
「瀬戸先輩、これからどうしましょうか」
石川くんが心配して尋ねる。
「なに、簡単よ、図書館の生き字引を探すのよ」
「まずはここの館長ね、さあ行こうか!」
「はい」
「あのう、館長さんは今いらっしゃいますでしょうか?」
受付女史に尋ねる。手を休めて辺りを見渡すが、見つからないようだ。
「ご用件はなんでしょうか。お約束はお取りですか?」
やや冷たい。
「すみません、約束はしておりませんが大丈夫でしょうか」
「この地に人狼伝承があるか少しお伺いしたいのです」
「はい? 人狼伝説ですか、館長は喜びますわ」
「喜ぶ????」とは?
「ご案内いたします。さ、こちらへどうぞ!」
この受付の女史は、はい?と、スッキョントンな高い声を発した。次はにこやかな顔になり、笑みを浮かべる。もう笑っているようだった。この女史の歩きは軽やかでリズムがある。お尻ふりふりだった。
案内を受けて通された所は、小さな書庫だった。
「こちらへお掛けください、直ぐに呼んでまいります」
ノック・ノック・ノック、紅茶が3客運ばれた。すぐさま
ノック・ノック・ノック、館長の大きいお腹が見えた。
「よくいらっしゃいました。館長をしております、ゴルバチョーフと申します」
「お忙しい中、ありがとうございます。私は瀬戸、こちらは石川です」
「さぁ、冷めないうちに紅茶をお飲み下さい、おいしいですよ」
「ありがとうございます」
紅茶を飲むよう勧められたので二人とも飲みだす。紹介が終わらないうちから先ほどの女史が、紅茶を持って部屋に入って来た。
「こちらにお二人がいらっしゃいます、どうぞお入りください」
「あら!教授、どうしてですか?」
二人が驚くと館長は、
「いやね、あなた達を入館当初からお見受けしていたんですよ。序でにお話しの声も聞こえてましたから。これはもうご一緒にお話ししたがよろしいかと」
「あのう、声が聞こえたんでしょうか。聞こえるような声は出してはいません」
「そうでしょうか? しっかりと聞こえていたそうですよ!」
不思議がる私たちが見る館長さんは、メガネのレンズを通して眼からは煌々と光が出ているようだ。館長のマシンガントークが始まった。もう止まらない。教授は館長の顔を見る事無く下を向いて必死にメモを書いている。石川くんは何も出来ない影が薄いのだ。
説明の内容は、ジンギス・カンの東アジアと北欧の侵攻。それに女どもの略奪。それとウクライナ人のみを10人位を引き連れて帰還した事を。これらは知られていない史実とも話された。
「館長、少しお休みください。私がついていけません」
館長は笑いながら紅茶をすする。冷えていておいしいという。どんだけの熱弁かお分かりできよう。
館長はおもむろに立ち上がり電話を掛けた。先ほどの女史だろうか。明日から休暇を3日ほど取りたい、と聞こえた。
次に驚く言葉が館長から教授へ投げられた。
「教授。情報の提供代として、明日から3日間の調査の同行を許可されたい」
まさに驚きである。館長も実地調査で行きたい所ができたと言われた。もう、鬼に金棒である。とんとん拍子に進む筈が無い。落とし穴が存在するのか。本当は、館長さんが行きたくてたまらないのだ。
私は、事の進捗をテレパシーでキリに送っていた。私も忙しいのである。かなり疲れた。
「すみませんが少し失礼します。直ぐに戻りますので暫くお待ち下さい」
館長が席を立って出て行く。
10分位過ぎただろうか。館長が入室された。またすぐにノックの音がした。「ノック・ノック・ノック」紅茶が3客運ばれた。サンドイッチともう一つの白い器があって、館長はこれらを私に勧めた。
*)テレパシ-
「お嬢さんはこちらをお召し上がりください」
何だろうか、器が冷たい、スプーンも付いている。アイスであった。疲れた様子の私を気遣ったのだ。本当に優しい館長だ。直ぐにキリに報告しようと頭にイメージすると、館長は、
「こういう事は内緒が、よろしいのではないでしょうか?」
「いいえ、大丈夫です」
意味不明な言葉を言われたので、あいまいな返事しかできなかった。続く言葉で理解が出来たのだ。
「お姉さま?ですか、相手の方は悔しがるでしょうから、話し掛けるのは止められたほうが良いかと存じます。先方の教授が困るのでは?」
私はかなり若く見られている。
私は驚く。それも、とてもとてもだ。そして教授の困る姿が目に浮かんだ。少し顔がほころんだ、何だか嬉しい。
すぐ目の前だから私のテレパシーが、館長の私にも聞こえますよ、と言う館長の眼が笑っている。
「はい、そうします。相手は私の妹ですの」
「そうですか、妹さんですか。ならばなおさらでしょうか」
教授は二人の会話が理解できない。館長は私と何を話しているのかと尋ねる。
「もし差支えなければ、お二人の真名をお教え下さいませんか?」
「私は、ユキと申します、妹は、キリ です」
「そうですか、ユキさんとキリさんですか」
館長は何か瞑想に入られたのか、眼が閉じられたまま、少し頭が揺れている。
私は頂いたサンドイッチとアイスを食べた。どうしてサンドイッチなのだろう。その間に教授に話す事がある。少しお行儀が悪いが食べながら説明を始めた。
「教授、私たちがテレパシーを使えるのはご存じですよね」
「いや知らないな、できるのか?」
「教えたのに分らないのですか、もう~教授は酷い!」
私は強めに言った。こころでは、「この教授は~」と思いながらも、
「で、朝からキリとのやり取りを報告したではありませんか。キリは此処には居りませんのよ。先ほど人狼の秘密が分かったと申したではありませんか」
教授は??!!、ようやく解ったようだ。
「そうなんだ、電話が通じて良かったよ」
この教授は私をおちょくるのか? テレパシーを電話と申される。やはりヒドイ教授だ。
「教授、もうよろしいですか?」
「お嬢さんは頭の疲れは取れましたかな?」
「館長さん、ありがとうございます。お陰様で楽になりました」
私の秘密に館長は気がついたのだ。テレパシ-を使って疲れた事と合わせて。
「先ほどの事ですが、種明かしいたしますと、お嬢さんがですね、テレパシーで通信されてあって、そのテレパシーがターニャにも届いていたんです。それで、私に報告が挙がって来て判った次第なんですよ」
「では、もしかすると、お二人も人狼の末裔にならねるんですね」
と言った私に、二人が驚いたのは言うまでもない。石川くんはやや遅れたが。
館長は静かにうなずいた。
「お嬢さん、あなたがお持ちの宝石を見せて頂けませんか?」
私はロザリオを首から外して館長さんに渡した。館長は暫くして言った。
「私がここの館長になった事をきっかけに、探していたのです」
「赤のロザリオですね。よく見つかりましたね」
「ターニャに探させましたが、どこからも感じないからと言うので、とうに諦めていました」
私が北シベリアで馬と一緒に雪の中から見つかった事と、この十字架もつい先日に同じ場所で見つかった事を話した。館長さんは驚きを隠さなかった。
「このロザリオは、以前モンゴルで生活していた時の、老婆とご両親と娘のさんの四人で暮らしてあったお隣さんです。お母さんから娘さんに贈られたロザリオですよ」
「それって、私の両親ということでしょうか!」
「そう、なりますね。確かに幸という日本の名前でした」
「わー! 教授、私たちの両親の情報ですよ、喜んで下さい」
教授も石川くんも喜んでくれた。(キリ! 両親の情報が出来たよ)とテレパシーでキリへ連絡した。
燥いでいる私に対して、館長はニコリともせずに話の続きを始めた。そこには笑えない話しの内容だった。
「ある日、ロシアの兵隊がやって来て、ご両親のお二人を連行していきました。この時、村人も数人殺されました。お嬢さんとお祖母さんは留守でしたので、連行されずに済んだのかもしれません」
私はとても驚いた。口に出た言葉が、
「そ、それ、私は見た記憶があります。両親のところに行こうと、全力で走っていましたら、誰かに止められたようです」
「それは幸運でしたね。私は羊の世話で出ていましたので、見てはいませんでしたが、妻のルカが全部見ていたのですよ」
私は涙目になって、夢で見た景色を思い出していた。
「石川くん、山間で掘り起こした遺骨を持ってきてくれないか」
石川くんがトラックから急いで運んで来て、私たちの前に静かに置く。
「これは、シベリアで見つけた祖母さんの遺骨です」
そう言った三浦教授に対して、館長は静かに手を合わせた。
「おばあちゃんの遺骨なんだね」
私は小さく呟いて、遺骨を見るとは無に見つめていた。
「そうですか、お嬢さんがあの時の娘さんなんですね。あのお祖母さんは亡くなられたんですね、残念です」
「でも、お嬢さんが無事でよかった」
「ええ、奇跡ですよ。黒い馬が小さかった麻美を雪から守っていたんです」
「ああ! ユキさんがいつも乗っていた馬ですね。そうですか~、あの馬も生きているんですね」
館長さんは、当時の事を思い出している様子だった。目を瞑り頭が前後に少し揺れていた。
「館長さん、お願いがあります」
「はい、なんでしょうか?」
「えぇ、お祖母さんの遺骨は日本へは持ち帰るのは止めます。故郷のモンゴルの丘に埋葬して頂けませんでしょうか。お願いします」
「ああ、そうですね」
と、館長さんには快く了解して頂いた。三浦教授も、それがいい!と、是非とも
埋葬をお願いしますと言われた。
それからブレスレットの話になった。これが館長の本題だと言われた。
私にはロザリオを戻して、館長は机の引き出しから何かを取り出した。小箱であつた。その箱から小さい包みを取り出した。
「お嬢さん、いや、ユキさん。ご両親のお話を始める前に、このブレスレットのことを先に説明をいたします。ご両親の事は暫く我慢して下さい」
*)ブレスレットの記憶
館長は緑色の宝石がついたブレスレットを手にして見せてくれた。
「これは私の女房の形見ですので本物ですよ」
「これが、瀬戸さんのロザリオと同じ宝石になるのですね」
「そうです。人狼の巫女の真祖が持つ宝飾になります。すべての巫女が持つものではありません。宝石はおおよそ八個が存在すると思います」
館長さんは、八個だという宝石の事を話された。発祥は遠いクリミアだというのだった。ここの巫女がモンゴルに連れてこられて、巫女の娘が真祖になったと。
「その八個の内の一つが赤のロザリオで、この緑のブレスレットもそうです」
教授は見せて欲しいと頼んだ。大事に受け取り見つめて、恐る恐る私に渡そうとした。すかさず館長が叫ぶ。
「ダメです。ちょっと待ってください」
しんみりと聞いていた教授と私は、目が覚めたように驚いく。
「すぐにお渡ししますが、少しお待ちください」
そう言って館長は電話を掛けた。暫くして女史が入ってくる。毛布持参だ。女史には待機するよう指示していた。
「このブレスレットを瀬戸さんに渡したいのですが、よろしいでしょうか?」
館長は手で教授を制止させながら、私を壁側に置いてある大きい長椅子に案内した。この長椅子は館長の休憩のベッドだと説明された。
「さ、ユキさんこちらの長椅子にお座り下さい」
「教授、ブレスレットを渡してあげて下さい」
「ユキさん、お疲れのところ申し訳ありませんが、この緑の石の記憶を読み取って頂けないでしょうか。そうすれば、私の妻のことが少しでしょうが、判明するはずです。よろしくお願いします」
その説明で私は理解できた。はい、と言って私はブレスレットを受け取ると、すぐさま気を失った。女史の方が毛布を掛けてくださったそうだ。
「ターニャさん、私どもは昼食にまいりますから、こちらのお嬢さんに寄り添っていて下さい。宜しく頼みましたよ」
「はい、かしこまりました」
この時に、女史のターニャさんが私の手をとっていたら、私と同じ夢を見られたのだが。このような事は知らなかった。
館長の熱弁で、とっくにお昼の時間は過ぎていた。
「教授、お分かりだと思うのですが、お嬢さんは大丈夫です」
「ええ、先日の時は焦りましたよ。私どもは何も知りませんでしたし」
「今から、私の女房の記憶の中に入ります。とても長くなる筈です。ご心配されるでしょうからターニャを付けます。私共は何も出来ませんので、昼食にまいりましょうか」
「明日からの調査の準備の打ち合わせもいたしましょう」
「ターニャ、一時間ほどで戻るよ」
小一時間で教授たちは書庫に戻ってきた。ここの書庫は閲覧不可の館長のコレクション室である。主に人狼やモンゴル人の風土記。そしてクリミア地方の文献もある。ここで館長は暇に任せて翻訳をしているそうだ。部屋の作りはやや贅沢で、館長の机、応接セット、長椅子の他箪笥? もある。
「ここの蔵書は、少しでも私たちの過去に関すると思われる本ばかりを集めております。全部が全部ではありませんが、左の書棚の本はおおよそ関係のある記述がなされています。右はまだ手付かずです」
どうぞご自由にお読みくださいと、館長さんは勧めた。
「ターニャ、すみませんが早退して家の準備をお願いします」
「はい、館長」
「三浦教授。私は父と明日からの準備をいたします。閉館前には戻りますので
古書を読んで待っていてください」
「あ、はい」
「それと、教授。ホテルはしばらく宿泊しませんので、キャンセルの連絡を入れてください。荷物があれば後日の宿泊時に受け取るとか言われて預かってもらったが楽かもしれません」
「お嬢様の着替えは私がご用意いたします」
ターニャさんにはうれしい配慮を頂いた。
「教授、私はここに居ても役に立ちませんので、館長さんのお手伝いをいたします。それと、麻美先輩には注意を払って下さいよ。読書に夢中はダメです」
「石川くん、すまないね。食糧の買い出しを頼む。序にホテルへの連絡もね!」
三浦教授は身体の半分は、すでに本棚に向かっている。上体だけが後ろを向いていたそうだ。
私は館長に起こされるまで眠っていた。宝石の力は弱かったようだ。そして、かの教授は私には構わずに読書だったらしい。教授も館長から声を掛けられて我に戻ったそうだ。後で館長さんはこっそりと教えてくれた。
「やっぱ、ひで~教授だ!」
私はややふらつく頭で館長さんの大きい家まで行った。トラックに揺られてすぐに気分が悪くなり、家に着けば即ベッドインになった。
私の夢の話は、夢の中でお話しいたします。枕持参でおいで下さいまし。
石川くんは、準備される、錚々たる物に恐怖を感じた? という。そして、館長の父、お爺さんは、超ワイルドな生物だ、そうだ。




