最後の犯罪
2.
所沢署では、鑑識班の報告書でも、遺体検案でも不審な点は見当たらなかった。
署長も案件が重なって発生して、事故として処理する腹のようだ。
署の空気は、ほぼ入浴中での水死。つまり事故死として処理されようとしている。
だが、一人だけ反対してる者がいた。
あの変り者警部だ。
男は、松本清晴と言う名前なのだが、さる有名な小説家とは、もちろん何の関係もない。
やはり、吸いなれた洋モクに火をつけながら、男は何か腑に落ちないのだった。薬物やアルコールも検出されず、病歴も調べたが、特に心臓が悪かったということもない。
強いて言えば、気になることは、女出入りが、かなり有ったことが分かった。
だが、ここ10年では最近まで、それらしい交遊関係もなかったのである。
「いつも旦那様には、朝と夕食だけ用意していました」
「はい。週に一度日曜日は、ご自分で食事を作られていたと思います。日曜日はお休みを頂いておりました。いつもどおり朝の用意をするつもりでいくと……。(彼女は、ここで声をつまらせた)私は10年お仕事させていただいて本当に感謝しております」家政婦は、家族と前夜熱海に家族旅行していたことが分かった。
死亡推定時刻は、月曜日朝4時から6時である。
調べると家政婦と家族は、朝5時に熱海から2時間かけて所沢市に戻っている。
警部は、家政婦に完全なアリバイがあることを理解した。
松本警部は、孤立無援であった。署長には無理を言って、1週間だけ捜査することを許すとの言質をもらっているが……。
つづく