[E竜]終わらせる存在 1
贅を尽くした財宝の数々が小綺麗に並べられた部屋。
中央の豪華なベッド・・・そこに起き上がり、穏やかな顔をしている女性。
彼女は、人間ではない。
竜族・・・しかも、その王だ。
彼女の名前はリヴィア。
その名を知らぬ者は居ない。
非公式に皆、敬称を付けて呼ぶ。
魔王、と。
教会が認めていない為、公の場では使われないのだが。
これもまた有名な容姿。
深紅の瞳はこの世界を燃やし尽くすかのよう。
そして芸術品の様な2本の美しい角。
ベッドへと流れ、広がる、深紅の髪・・・
部屋を彩るどの芸術品よりも美しかった。
それは、危険さ故の美しさかも知れなかったが。
素晴らしい朝。
そう、今朝は素晴らしい朝だった。
リヴィアは、かつてないくらい清々しい気分であった。
「これが・・・魔王・・・素晴らしい」
呟く。
リヴィアには・・・魔王の力が宿っていた。
驚く程、自分の心には変化がない。
簡単な事だ。
魔王への適正・・・自分は元から、心は魔王だったのだろう。
「では、滅ぼしますか」
リヴィアは、朝の日課をこなす・・・そんな調子で言う。
煩わしいこの世界・・・全てを無に帰す。
その大願が、今日、かなう。
「お姉様!」
リヴィアの妹・・・ミスリールが駆け込んでくる。
理知的な印象を与える銀色の髪は腰まで伸び、深く落ちていきそうな黒い目。
純白の角はやはり芸術品の様な美しさ。
その様子は、何かに抗うかのように、焦っている。
「どうしました、ミスリール。ノックもせず入ってくるとは。貴方を躾けるために、私は幾つの都市を消せば良いのですか?」
ミスリールは頭を地面に伏し、
「お姉様・・・お姉様は・・・魔王となられた・・・でしょうか・・・?」
魔王化。
それは風邪の様なもので、300年くらいの周期で誰かが感染する。
感染者は魔王として振る舞うようになり、周囲の者は魔王の側近として振る舞うようになる。
力も大幅に強化される・・・言わば、ボーナスのようなものだ。
ミスリールはリヴィアの近親者。
恐らく、かなり強い影響を受けているのだろう。
「然り。朝食の後にでも、この世を滅ぼそうかと思います」
ミスリールは、更に高い声で願う。
「御願いです・・・この世界を・・・滅ぼさないで下さい!」
リヴィアは、ゆっくりとミスリールに近付くと、ミスリールの首を掴み、
「ミスリール、貴方らしくないですね?少し休んだらどうでしょうか?」
「お姉様・・・こそ・・・どうかお心を強くお持ち下さい!」
ミスリールは混乱している。
リヴィアはそれを悟った。
リヴィアは自分自身の考えに、魔王の影響がない事は良く理解している。
ミスリールのような近親者でさえ、それを理解してくれていないとは。
「ミスリールよ」
「・・・はい」
「部屋に戻って、心を落ち着けてきなさい。落ち着くまでは部屋から出ることを許しません」
「・・・そん・・・な・・・」
リヴィアの今の言葉には、強制力がある。
ミスリールはその意に反し、足が動き、部屋から出て行った。