[B竜]ミストロートの惨劇
ここは神国アルディア。
神教会、首都アルディアにあり、そこは神からの啓示を受ける最高司祭がいる場所。
魔王が現れた際には、最後の砦として戦う場所であり、最高の戦力が集う場所だ。
しかし、首都、及びその付近の砦は堅牢であるが、辺境砦、ともなればその限りではない。
ここは辺境の地、ミストロート砦。
平和な時代においては、竜族の国バルバラとの交易や外交の拠点ともなるが・・・戦時の今は、竜族の国バルバラの監視の役割を担う。
竜王リヴィア。
即位してから軍備を増強し、各国に対して宣戦布告、以後、多くの地が陥落した。
これが魔王であれば、神国アルカディアを中心に、全種族が協力して魔王に抗するのだが・・・リヴィアは、魔王ではない、それが最高司祭の告げた内容であった。
かくして魔王討伐の大号令は行われず、各国が足並み揃わずに対抗している状況である。
ミストロート砦は、勇将アーチボルドに指揮はされているが、その戦力は高くない。
兵の総数が、戦争開始時と変わらず、50人程なのだ。
国から増援の申し出があるのだが、アーチボルドが断ってしまっているのだ。
今日もまた、首都アルディアからの使者を追い返した。
息子のアーヴィンドは、アーチボルドの元に抗議に向かった。
「父上、どうして増援を受け入れないのですか」
「この砦に増援があっては、それだけの兵を収容する場所も少なく、食料もない。それだけの兵の生活環境を維持出来ない。首都アルディアからの距離も遠く、補給路も長くなる」
「今は戦時中です。兵士は野営も出来ます。せめて収容可能人数200人くらいまでなら、増援してはどうでしょうか?」
「200人いても、奴等には勝てはせぬ」
アーヴィンドは、尊敬する父の言葉に絶句する。
「勇将アーチボルドの言葉とは思えません!」
「アーヴィンドよ、勇猛と無謀は違うのだよ」
「・・・失礼します」
意気消沈し、アーヴィンドはアーチボルドのもとを辞した。
アーヴィンドは日課に取りかかる。
兵士達の訓練の場に顔を出し、労い、指導をし。
近隣の村を巡回する兵士について村に行き、不安を訴える住民に安心するように声をかける。
備蓄を確認、書類に目を通し・・・
「働き過ぎです。明日は非番ですよね?私に付き合って下さい」
婚約者で宮廷魔術師のディアナが、そっとアーヴィンドの横に来る。
「竜族の活動が活発になっている・・・幸い今までは、奴等は上空を通り過ぎていくだけだったが・・・いつ手を出してくるか分からない。そして悔しいが・・・奴等がその気になれば、この砦も、近隣の村も、一瞬で陥落するのだ」
アーヴィンドが呻くように言うと、
「空を飛び、多数の魔法を操り、無敵の防御を誇り・・・まさに最強の種族。リヴィア・・・本当に恐ろしい存在。それまで群れて行動しなかった竜族をまとめ上げ、集団戦を行わせる・・・そして本人の圧倒的戦闘力・・・陰で魔王リヴィアと呼ばれるのも頷けるます」
ディアナが呟く。
アーヴィンドがそれを聞き咎める。
「ディアナ・・・最高司祭が魔王ではないと否定したのだ。アルディアの民である我々がそれを口にしてはいけない」
「・・・ごめんなさい」
アーヴィンドは戦慄する。
竜王リヴィアが魔王であれば、もう少し対処しやすいであろう。
だが、驚くことに竜王リヴィアは魔王ではないのだ。
そしてそれは更なる絶望の事実を孕む。
もし竜王リヴィアがこの上魔王になったら・・・世界は確実に崩壊するだろう。
魔王になったら、それまでより力もカリスマ、破壊衝動も、全てが跳ね上がるのだから。
前魔王が倒れてから302年。
そろそろ、次の魔王が現れてもおかしくないのだ。
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戦況は変わらず、2ヶ月が過ぎた。
砦の事態は急変していた。
アーチボルドが病に倒れたのだ。
アーヴィンドがアーチボルドを見舞っているが、今夜が峠・・・
「アーヴィンドよ・・・よく聞け・・・」
「父上・・・」
「儂が死んだら、この砦を放棄し、住民を避難させよ」
「・・・父上?!」
「それが受け入れられない場合でも、決して増援をこの地に派遣させてはならぬ」
「・・・何故でしょう?」
「その理由は散々述べた筈だ。今更言う必要はあるまい」
「・・・父上!」
そしてその晩、アーチボルドは息を引き取った。
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アーチボルドの後継者としてアーヴィンドが正式に選ばれた。
首都アルディアは、アーチボルドの死を受け、追悼も兼ね、1000人の兵士の増援を決定。
アーヴィンドはこれを受け入れ、砦の戦力が増強された。
アーヴィンドはその才を発揮し、厳命や鼓舞を使い分け、混乱は生じなかった。
兵士達の住居や生活面で不満は発生していない。
周辺住民との関係も良好だ。
流石アーチボルドの息子・・・そう人々は褒め称える。
数日後・・・ついに運命の日・・・
それまで上空を通過するだけだったリヴィア軍が・・・攻めて来た!
その数、300。
「総員戦闘配置につけ!」
アーヴィンドが号令を出す。
アークジェネラルのスキルにより、部下のステータスが上昇。
リヴィア軍の前衛が放ったブレスを、守備部隊が結界で弾く。
火砲部隊が火薬と魔法の混合兵器、火槍を撃つ。
一点集中で撃つ為、竜の防御結界を貫き、その体を撃ち抜く。
ガアアアアアア
竜の悲鳴がこだまする。
飛槍部隊が集団で竜に飛び移り、竜討伐の因果を込めた槍で何度も貫く。
また別の竜に飛び移り・・・
竜の魔法が結界を貫き、兵士達を散らす。
回復部隊が救助にあたる。
「やはり、父上がお隠れになった途端に攻めてくるとは・・・今までは父上の名を恐れていたという事か・・・しかし・・・ここで負けては父上に・・・そして民に・・・付いてきてくれた者共に申し訳が立たぬ!」
アーヴィンドが前線に出る。
「貫け、竜滅の槍!」
竜滅の概念を纏った槍を創り出し、投擲。
今まさにブレスを吐こうとしていた竜を貫き、地に落ちる。
「舐めるなトカゲ共!人の底力、見せてやる!」
死者、負傷者含め、倒した数は200を超え・・・
順調に勝利が見えてきた・・・その時・・・
「まさか妾の軍がここまでやられるとは思っていませんでした。興が乗りました。妾が手ずから相手してあげましょう」
ぞく・・・
それまで勇猛に戦っていた兵士が・・・そして兵士達を滅さんとしていた竜達が・・・根源から来る恐怖に震える。
「竜王・・・リヴィア・・・まさか・・・親征していたの・・・か・・・?」
竜達の後ろに居たのは・・・深紅の髪と瞳、風に長い髪がなびいている。
憂いを浮かべたその顔は・・・生ける伝説のその人であった・・・
「痴れ者。妾は常に親征していますよ?」
アーヴィンドが絶句する。
内容もそうであったが・・・この距離で声が聞こえたというのか?!
魔王・・・そんな呟きを誰かが漏らす。
「魔王・・・いい響きです・・・ですが残念ながらうぬ等の最高司祭とやらは否定していましてね。少しその肩でも揉んであげようと思うのです・・・む?」
リヴィアはきょとん、として。
「どうしました、もう終わりですか?てっきり妾を害さんと奮い立つかと思いましたが、震える事しか出来ないのですか?無抵抗な者を害するのは、興が乗りません」
竜王リヴィアは扇子をばっと広げると、
「抵抗せぬならそのまま地に手をつけ、首を差し出しなさい。我が弱兵でも、その首を落とす事くらいはできましょう」
不満そうに言う。
「喝っ!」
アーヴィンドが鼓舞を発動。
兵士達の恐怖が治まる。
竜達は主の不興を買うのを恐れ、距離を取る。
800人以上対1、勝機がない訳ではない!
次々とリヴィアに襲いかかるが・・・
ザシュ
リヴィアが手を挙げると共に、不可視の杭が出現。
リヴィアを貫こうとしていた兵が、体を貫かれて絶命する。
「それ、奥に居てはつまらないでしょう?」
火砲隊の中心から爆発が広がり、火薬にも引火、そして・・・一瞬で燃え盛る火の野原となった。
生き延びた者は居ない。
魔導部隊が無数の魔法を放ったが、
「それ、採点結果です。10点、といったところでしょうか」
全ての魔法が倍の威力となって、全く同じ軌道を通り、術者の元へ返り・・・そのまま絶命させる。
「う・・・うわああ」
たまらず、逃げ出す兵が出たが・・・
ザシュ
不可視の剣が進行方向より出現、そのまま貫かれて絶命する。
「逃げ出すとは、兵の質が低いですね?そのくらいなら捨て身で突撃すべきかと思います」
ほんの数分で・・・アーヴィンドの軍で無事なのは、数人を残すのみとなった。
「竜王リヴィア・・・虐殺された多くの者の・・・そして我が部下達の無念・・・今ここで晴らさせて貰う!」
アーヴィンドがスキルを発動する。
アークジェネラルのスキル、総突撃。
一定時間の間、全軍に対し、対象への攻撃に強力な補正を加える。
アーヴィンドが竜滅の概念を付与した槍でリヴィアを突くが、リヴィアは閉じた扇子でアーヴィンドの槍を受け止める。
「スターライトストリーム!」
ディアナが大賢者の究極魔法を発動。
星の光が流れ、リヴィアの死角から迫る。
パンッ
軽い動作でアーヴィンドの槍を弾く。
アーヴィンドはそのまま宙を舞い、十メートル近くの高さまで飛ぶ。
パンッ
星の光の流れに触れると、逆流、ディアナに星の光が返り、そのまま絶命する。
ドゥッ
地面に叩きつけられ、血を吐くアーヴィンド。
「もう少し時間をかけて遊んでやっても良かったのですが・・・今日はこれから用事があるです。悪いですが、そろそろ終わりにさせて頂きますね?」
リヴィアは呟くと、空中に無数の剣が現れる。
精密に、生者の胸を貫いていく。
「これは手向けです」
辺りに炎が広がる。
人も、竜も、そして砦も、区別なく、死者の体を焼いていく。
「帰還しますよ?帰って・・・今日の反省会をします」
この場の唯一の生者・・・リヴィアの部下は、心の底から震え上がった。
「お姉様、奴等は何故今になって兵を増強したのでしょう?こちらに攻め込む意図があったのでしょうか?」
リヴィアの妹、ミスリールが尋ねる。
「分かりません。無視して放置するにはやや煩かったですし・・・妾が魔王でないばかりに、国の連携もバラバラで・・・手応えがなくて困ります」
「お姉様が魔王になったら、この世界が崩壊してしまいますわ・・・」
「今の妾は、この世界を破壊したいとは思わないですが・・・魔王になったらするかもしれないですね。それはそれで面白そうです」
「・・・魔王・・・世界を滅ぼす存在・・・」
ミスリールは思う。
リヴィアが魔王とならなければいいのに、と。
この世界が滅びるのは、竜族にとっても好ましくない。
だが・・・魔王は、自身の意思変貌と同時に、周囲を感化する。
恐らくリヴィアが魔王になれば、その妹たる自分も、滅びを望むようになるだろう。
姉の前で口にする勇気はないが、姉には魔王になって欲しくない。
ミスリールは、誰へとでもなく祈った。