第三話「魔王、七歳の一日・後半」
まず魔法だが、大きく二つの種類に分かれる。火や水など具象を操る“具象魔法”と時間や空間などの抽象を操る“抽象魔法”の二つだ。そして魔法使いの格は基本的に(使える魔法の種類×魔力総量)で決まる。ただし、抽象魔法は使い手が限られることから具象魔法三つ分に相当し、回復魔法は使い手が多く存在するために具象魔法と扱いは同じだが分類では抽象魔法になっているらしい。
因みに初めての授業受けた三歳になった誕生日に、メルティ先生は僕にまず、魔法を使う感覚を教えると言って、僕から魔力を吸い出し始めた。吸い出されているそれが魔力だとわからなかった頃の僕は、メルティが突然弱体化の魔法をかけてきたのかな?くらいの認識だった。が、後で知ったことだが、魔力を見時間時間の間に大量に失ったり、持っている以上の魔力が失われたりすると死ぬことがあるそうだ。メルティも割と雑だった。
しかしそんな命の危機もあったのは最初だけで、それ以降は安全な授業が進められた。その間に僕は「火属性魔法Lv7」と「風属性魔法Lv2」「水属性魔法Lv1」「土属性魔法Lv3」が使えるようになった。どうしてレベルが分かるのかというと、使えるようになった瞬間に頭の中に
__「火属性魔法Lv7」が有効化されました
__「風属性魔法Lv2」を修得しました
__「水属性魔法Lv1」を修得しました
__「土属性魔法Lv3」を修得しました
というイメージが流れ込んできたからだ。恐らく有効化というのは、元々「魔王」の中にあったスキルでそれが使用可能状態になったというのを指すのだろう。つまり「魔王」は持っていてもそれだけでは何の役にも立たないということが判明してしまった。残念ではあるが、「魔王」内にあるスキルは潜在的に使用可能で、有効化の際に高いレベルであることがあるとわかっただけでも御の字だろう。
ちなみに未だ特殊魔法の訓練は許可されていない。危険すぎるからという理由らしい。最低でも十年属性魔法の訓練を積んでから特殊魔法の訓練を始めるらしいのだが、勿論僕は敷地外に出られるようになったらすぐに試してみるつもりだ。
今日の魔法の訓練は鉄の加工らしい。インゴットで出てきた鉄を魔法の力だけで鍛えるのだそうだ。詳しくどうすればいいかは聞かされていない。きっと自分で考えろということなのだろう。ちなみにレヒトはいつも通り属性魔法の習得のためのメニューだった。
「兄様、兄様」
「ん?どうしたレヒト」
インゴットを受け取った僕の袖がレヒトに引っ張られる。そのレヒトが指差す方向には、ヴェルデンがいた。ヴェルデンは魔法はまるで使えないために一度も僕達の訓練の場を見に来たことが無いのだが、今日は違うらしい。一体何があるのだろうか。だが、考えてもそれはわからないことだし、聞くほどのことでも無いと想った僕は、レヒトに「今日の訓練でやらかした分、こっちで格好良く決めてやるぜ」と言ってインゴットの加工に取り掛かった。
目の前には鉄のインゴッド。加工しろと言われたが、具体的に何にしろとは言われなかったので、取り敢えず剣とか作りたい。ロマンを感じる。そのためにはまず金床が必要……ん?それも金属?地中から砂鉄を集めて金床にするなら、その時点で金属加工という題はクリアされる筈だ。なら、今回は金床すら使わずに鉄を加工しろということか。
安定した土台が無いために、まず僕は風魔法でインゴットを浮かび上がらせる。重量があってなかなか風だけで持ち上げるのには苦労する。そしてその風に火属性魔法で生み出した炎を乗せて加熱する。たちまち部屋の温度が上がり、汗がだらだらと流れ始める。その次は土属性魔法で作り上げた土の柱でその金属を打ち、形を整える。そしてある程度形が整ったなと感じたら、すぐに風に乗せるものを炎から水属性魔法で生み出した水に変えて冷やす。
完成した。見た目はそこそこだが、刃が分厚く、切れ味が悪そうで、フランベルジュのように刀身がぐにゃぐにゃだった。おかしい。昔読んだウェブ小説の主人公はオリハルコンやアダマンタイトなんかを簡単に加工してチートな追加効果を付けられたりしていたのに……
あまりに出来が悪かったのか、メルティも悲しそうな顔をしている。親に悲しい思いをさせるってこんなに申し訳なくなるものだったんだなあ。
「ごめんなさい。うまくできなくて……」
僕は項垂れてメルティに謝る。この状態ではメルティの表情は窺い知れないが、メルティは優しいのでまあ許してくれるだろうと思っていると、ガッチリと肩を掴まれた。顔を上げるとそこに居たのは満面の笑みを浮かべたヴェルデンだった。
「流石ミルだ!まさか同時に四つも魔法を並行して使えるとは!鉄を瞬く間に溶かした火力も目をみはるものだった!うちの下手な魔道士などより強力だったぞ!よし、お前も今日から八歳だ!」
「まさか一回でできてしまうなんて……」
八歳になるにはこの通過儀礼をクリアできないといけなかったのか。八歳って年齢じゃなくて階級みたいな感じがするな。ともかく八歳になったからもう敷地外に出られるのか。それは楽しみだな。
期待に胸を膨らませていると不意に目眩がする。そういえば魔力を一度に沢山使ったなあと思いながら、そのまま僕は気絶した。