なんなんだよ、あいつ。
俺は暗いトンネルの中を歩き続けた。文字通り、まじで暗いトンネルで一筋の光さえ差し込んではこない。足元はグジュグジュしてて気持ち悪いし、どこまでトンネルが続いているのかわからない。両手を広げて見ても、何もぶつからない。静かで、暗くて、わけがわからないトンネルで、俺はひたすら足を動かしていた。
「トンネルをくぐればなんでも願いが叶う?」
「なんだよ、そのおとぎ話チックな話」
「そう思うだろ。俺も聞いた時はそんな話信じなかったぜ。だけど、どーしてもゲーム機欲しかったから、騙されたつもりで試してみようって思ったんだよ」
「で?」
「トンネル行ったあと、母ちゃんにも一回頼んだんだ。ゲーム買ってくれって。そしたら、今度はあっさりオーケーしてもらえた! すごいだろ! トンネル入る時はすっげー怖かったけど、我慢した甲斐あったぜ!」
「まじかよ」
「いや偶然だろ」
「偶然じゃねえって」
「母ちゃんの気分が変わったんじゃねえの」
「だーかーらー。…なあ、舞鳥。お前は信じてくれるよな」
「金村んちの母ちゃんのことは知ってる。ゲームとかに理解ないし、気分がコロコロ変わるタイプでもない」
「さっすが舞鳥。長野、これでも疑うか?」
「んん…まあ、舞鳥が言うなら」
「はっはっは、やっと信じたか。やっぱ、持つべきものは舞鳥みたいな親友だよな」
ガタッ。ここで俺は初めて席を立った。なんでかは自分でもわからなかったけど。
「何?」
舞鳥たちの方に近づいていった俺に、金村と長野が怪訝そうな顔をした。なんでそんな顔するんだよ。舞鳥の親友ってことは俺とも多少のつながりが…。
「な、なあ金村…」
「はい?」
「…」
なんて言ったらいいかわからなかった。そもそも、こいつとしゃべりたかったのか?
「何?」
「…あの、そのゲーム…」
「貸して欲しい? 悪い、長野とかが先」
「…」
「じゃ」
素っ気なく会話を打ち切られた。金村はもう、俺を見てなかったっけな。長野も同様。舞鳥は…ちょっと俺を見てたけど、すぐに金村たちとだべりやがった。俺は黙って席に戻った。
「なんなんだよ」
口からぽつりと言葉が出た。グジュッグジュッ。これは俺の足音。さっきまでトンネルではこの音しかしなかった。
「なんなんだよ」
もう一回言ってみる。
なぜだかわからないが、多分俺にそっけなかった金村のことを言ってるんじゃないんだろうなって思った。じゃあ、誰のことだ? いや、知りたくない。知ってても言いたくない。
トンネルの暗闇はまだまだ続いている。




