まさか実際に来るなんて。
村はずれの森の中にあるトンネル。 周りを木々に囲まれ、日すら差さない廃トンネル。かろうじて見えている入り口も今では苔がびっしりと生え、入り口から既に草ぼうぼう。おまけに、先が見えやしない。向こうにも木が生えているのかな。
俺は、自分の願いを叶えるためにここに来た。正味、このトンネルの噂話を疑う気なんてさらさらない。ていうか、そこまで信じてなきゃ、この時刻にこんな不気味なところには来ない。俺は息を深く吸い込み、トンネルの中に足を踏み入れた。
俺が初めてこのトンネルに伝わる噂を聞いたのは、一週間ほど前のことだった。
「舞鳥、長野! これ見てくれ!」
いつも騒々しい金村の声で、うたた寝をしていた俺ははっと目を覚ました。その時は確か昼休みだったな。
「どーしたんだよ金村」
「また十円拾ったとかそういうやつか?」
「ちげーよ。これ見ろっつーの」
舞鳥の奴が息を呑む気配がした。
「これ、新型の…」
「そ、隣町で発売された新型ゲーム! いいだろ〜」
俺は思わず舞鳥たちの方に目を向けた。俺も新型ゲームの噂は聞いていた。
「高くなかったんかよ!」
「声でかいって長野。まるで俺がビンボー人みたいじゃねえか」
「そうじゃねえけど、お前の母ちゃんって、こういうの買うの許してくれないんじゃ…」
「ま、な。最初は欲しいっつっても、相手にもしてもらえなかったぜ。でも神のご加護のおかげで買ってもらえた」
「「は!?」」
そこで金村が語ったのが、今俺がいるトンネルに行ったということだった。
「お前らが信じるか信じないかはどーでもいいけどな、俺前に爺さんにそのトンネルに伝わるある言い伝えってのを聞いたことあってな」
「言い伝え? 幽霊が出るとかそういうやつか?」
「トンネルって、あの薄らキモいあれだろ? 幽霊にゲーム機くださいって頼んだのか?」
「違うって。その言い伝えってのはな、『そのトンネルをくぐれば、なんでも願いが叶う』っていうんだよ」
なんじゃそりゃ。その時の俺は心の中でつっこんだだけだった。




