これは俺の意思だ。
「君は、舞鳥君ともこれで終わりになっちゃっていいの?!」
舞鳥…。どうだろうか。
あいつは最近俺と、特に親しい仲じゃない。今までの俺のあいつに対する態度が「自分勝手」なら、もうむしろ会わない方がいいのではないか。
「舞鳥君、言ってたよ! 『俺と山城はなんでも言い合える仲だと思ってた』って! 今多少距離があっても、舞鳥君の中では山城君との繋がりは切れてないんだよ!」
なに…本当か?
「それに、ちょっと前のこと覚えてる? 飯谷さんが君に文句つけた時、舞鳥君は真っ先に否定してたじゃん!」
ああ…そうだった。思い出した。そういや、あの時ちょっとだけ嬉しかったんだ。そんで…。
俺は振り返って、港を見た。こいつが、俺を救ってくれたんだ。俺の安定しない気持ちを見ていてくれた。あの時は全然素直になれなくて、感謝ひとつしなかった。だけど、もし素直になれるなら…。
この世界で、生き直してみたい。
そのためにはまず…。俺は口に力を入れた。ビリビリと音がして、空気が入ってくる。
ここで俺ははっきりと我に返った。まず、足元を見る。港が俺の手を握ったまま、倒れていた。もっとも、意識はあるようだ。そして、真ん前には…見たくもない顔。
俺はまず、港を立たせようとした。
「おい港、だいじょうぶか」
「おい遥、何をやってる」
「うるせえ!」
俺は幼稚園児の手を振りほどいた。
「あんたには、ついてかねえ。どっか行っちまえってんだ」
「は?」
「港、起きれるか」
「だ、大丈夫」
にっこり笑って港は立った。良かった。
続いて俺は、幼稚園児野郎を睨みつけた。
「俺は、もうあんたとは縁を切る」
「聞いたでしょ。さっさと消えなさいよ」
幼稚園児は歯ぎしりしやがった。
「お前は、俺がいなくちゃやってけない。分かってるんだ!」
「そんなの、今までの話だろ。これからは違う」
「考え直せ」
「直したぜ」
「そうか、そのつもりなら…」
再び奴の手が伸びて、俺の脚に巻きついた。
「何すんだ、離せ!」
「こうなったら実力行使だ!」
奴の力はものすごく強い。俺は港の腕にしがみついたが、どうにもなんねえ。
「離せ!」
「俺には、お前が必要なんだ。お前に潜む孤独な闇が…」
もう奴は俺の言うことなんて聞いてない。一人で狂ったようにしゃべり続けている。すると、そんなやつの口から紙切れが飛んできた。港が素早く拾う。奴の顔が引きつった。
「えーと、なになに」
「読むな!」
馬鹿野郎、そう言われて読まない奴がいるか。
「港、読め!」
「えーっと、東京都、山野名院(やまの めいいん)の屋敷。家族四名。父母兄本人。名前」
「やーめろーぅ!」
やつの手がうなり声とともにすごい勢いで港に向かった。
「名前、パジリスク!」
「ぎゃああああああ〜〜!」
奴の動きが一瞬止まり、それからものすごい叫び声を上げながら、光る壁へと吸い込まれていった。
「『パジリスク』じゃなくて、バジリスクなら知ってるわ。猛毒を持つ伝説の蛇よ」
どーでもいいけど、それが奴の本名ってことか。あいつが消えたのは、あれか? 悪魔が本名知られたら、やばいってやつ?




