少女の戦い〜こんな終わりなんていや〜
「今のお母さん、二人目の人なんでしょ。前のお母さんが死んでから、君はずっと家事をやってたんだよね。二人目のお母さんは、最初全然家事をやらなかったんでしょ」
「遥、こいつはお前の傷を広げる気だよ」
「君は黙って家事をこなし続けた。で、舞鳥君と会う時間も減っちゃって、舞鳥君は別の子と遊ぶようになった。それが、悔しかったんだよね。寂しかったんだよね。でも、そのことを誰にも言いたくなかったんだよね」
「はっ。理解者のつもりか」
「今日君に会った時、舞鳥君のことをバカな奴だって言ってたよね。あれの意味、やっと分かったよ!」
「そろそろ黙った方が身のためだぞ」
膝から下を引きずられてながら、海輝は力を込めて叫んだ。
「『自分がこんなに苦しんでるのに、他の奴らと呑気に遊んでる最低な奴』みたいなことを言いたかったんでしょ! 自分の気持ちを理解して欲しかったんだよね! でも、何も言わずに感じ悪い態度だけで『自分の気持ちを分かれ』って表現しても、そんなの自分勝手なだけだよ!」
自分勝手…。また一つ世界が崩れたような気がする。俺は…俺は…。
ふと前方に目をやる。すぐそばにある幼稚園児のあどけなくて不気味な顔が、とても魅力的に見えた。
幼稚園児は微笑んだ。
(もうこれでこいつは俺のものだ。こいつは港海輝に精神を破壊された)
続けて、残虐な笑みを海輝に見せた。
「俺の勝ちだ」
(これはいけない)
遥はもう、海輝の方を見てはいない。幼稚園児の魔性の笑みに魅せられてしまったらしい。遥の気持ち直球で突っ込んだのがいけなかったのだろうか。
(そんなこと考えてる暇があったら…)
「山城君! ダメ! ダメ!」
海輝はもはや、体全体が地面の上を引きずられていた。痛い。苦しい。辛い。それでも、手を離しはしなかった。
「山城君!」
声を振り絞る。反応はない。幼稚園児は笑った。
(どうしよう、どうしたら…)
心細い気持ちが身体中に伝わっていくようだ。このままでは、海輝も無事では済まないかもしれない。
(やっぱり私なんかが流れを変えることなんてできないか…)
諦めて手を離そうとしたとき、ふと息子を心配する遥の父親の顔が浮かんだ。
「自分に自身を持ちなさい」と言ってくれた、あの人だ!
海輝は遥の手を握りなおした。ここで諦めるわけにはいかない。
「山城君! 聞いて!」
「もう、無駄だ」
「ねえ、君はこのままでいいの? もう、お父さんに会えなくなるんだよ!」
遥の肩がひくりと上がった。
「君のことを心配してくれる人がいるじゃん! 分かってるんでしょ!」
お、や、じのこと…。あれは俺の思い違いじゃなかったのか?! 本当にそうなのか?!
「お父さんは本当に君のことが大切なんだよ! ただ、不器用だから、うまく気持ちを伝えられないだけだよ!」
「黙れ!」
幼稚園児の額に青筋が立った。
「黙れ! でないとお前の口にも葉っぱをつけるぞ!」
「やれるもんならやってみなさいよ! それに山城君!」
「黙れ!」
「葉っぱなんて、飛んでこないわよ!」
「黙れ!」
「山城君! 君は、舞鳥君ともこれで終わりになっちゃっていいの?!」




